9.じしんの変化
ちょこっとした問題を起こした彩夏は一体どうなるのか?
そして出席を取り終えて……。
「それでこの後の授業だが、国語を変更してちょっと話し合いを開こうかと思う」
ということで、そのあとの話し合いにていじめっ子とのいざこざを色々と話されてしまった……。
そして出た結論は。
「何でいじめるのか分からんが、正直なところ、やったことは許されない」
厳しい顔つきで私達を見つめる目は、見る人によっては心臓を掴まれるレベルで恐いものである。
「やった本人もそうだが、それをただ見ているだけとは……。情けないぞ……」
全くもってその通り。
「いいか、今度何かあった時は絶対に止めるんだ。見ているだけはやった子と一緒だからな」
そうそうそういうこと、と言いたいところだけど……。
「川上、放課後話を聞くから職員室に来なさい」
結局、私が悪いんかいクソ教師!
というのも、いじめっ子たちの言い分が「ちょっと、川上さんと遊ぼうと思ったら、いきなり投げ飛ばされた」という、何とも自分本位な考え方だった。
私はもう反論するのも疲れたため、何も言わず黙ってその話し合いの様子を見守っていた。私を擁護する者はついぞ現れず、この話し合いは私の責任で幕を閉じることと相成ったとさ。
そして放課後に話をされ、最終的に解放されたのは17時半を過ぎた時間だった。
そんなことが最初にあったが、その事件以降、みんな私をおっかない表情で遠巻きにし、いじめてた連中は反撃が恐いのか何なのか分からないが、すっかり何もしなくなった。
おかげさまで次の日は久々に穏やかな日和を過ごすことができ、結構大満足したのを覚えている。
それに私はノートを取ったり先生の問題を答える時以外は外を眺め、まだ見ぬ異世界に思いをはせ、巡らせ、約束の日に待ち構えているであろう少女に楽しみを見出していた。
さてやってきた7月某日の土曜日。
(おぉ、めちゃくちゃいい天気……)
雲一つない夏の青空に浮かぶ太陽は、日差しを強めにし、肌へと突き刺さる。
地面からは熱されて耐えきれなくなった水分が地面から離れていき、私の肌にまとわりついたり、遠くの景色をぼやけさせていた。
蝉は大合唱を奏で、体感の暑さを更に上昇させる。
(暑いなぁ、今日は……)
私はそんな状況にもかかわらず、半袖の白いワンピースを着て約束の場所へと来ていた。靴は動きやすい方が良いかなと思って、ピンクの可愛らしい線が特徴的な運動靴を履いている。お母さんたちには「ちょっと散歩に行ってくるね」と言っただけだ。
何も荷物は持たず、帽子もかぶらず、日焼け止めぐらいしか塗らなかった。
約束の戸隠岩は、家から歩いて5分ほどの場所にある。
小さい頃からこの場所の昔話に良く出てきていた。何せこの場所は……。
人が消えることで有名だからだ。
実際に100年以上前の文献には、失踪した人の名前が残っている。しかも、相手の目の前で消えたこともあるらしい。なかなかに恐ろしい話だ。
ここ最近は注連縄もされ、ちょっとした囲いも設けられ、更に結構恐く語られてきたため岩に近づく人はいなかった。
その代わりその周辺は公園化されている。ベンチも設けられ、人々の憩いの場として、そして、待ち合わせの場所として活用されており、私も小さい頃は良くこの場所へ遊びに来ていた。
(あっ、ベンチが一つ増えてる。うわっ、なんかさらに物々しくなってないかな?)
ただ私の場合、小学校の中学年位になって以降、外で遊ぶ友達はいなくなっていたから、来るのは久々である。4年では結構変わったところも多かった。
というより、この頃の私はどんだけ人との関わりを断ってきたのやら……。
時刻はお昼の12時過ぎ、みんなお昼を食べに一回帰る頃で、公園には誰もいなかった。ある意味格好のチャンスである。
しかし、ある不安がよぎった。
(昼頃で良かったかな?)
時間の指定はなかったから、もしかしたら夜の可能性もあるけど、いくら何でもと思いたい。
夜10時とかに家を抜け出すのは、流石に無理だしね……。
そんなことを考えながら、彼女が来るのを待つ。
……………………。
………………。
…………。
……。
(あれぇ? 今日でよかったよね?)
3日後と言ったのだから、今日でいいはず。
なのに、5分待っても何もない。
まさか本当に夜、ないし夜中に呼ぶつもりじゃないだろうか……?
何気ない不安が往来する。
と――。
《サヤカ、サヤカ!》
耳の奥の方で声がする。聞き覚えのある声だ。
「えっ? 沙恵なの?」
しかし、周りを見渡しても人影は見えない。
《うん! あっでも、サヤカの周りにはいないよ。今サヤカの耳に直接語り掛けているんだ》
え~、とは思ったけど、まぁ仕方ないのでとりあえず声だけの対応となる。
「で、どうするのこれから」
《そうそうそれでね、一つして欲しいことがあるの》
(?)
全裸になって欲しいとかだったら、行った先で殴る予定なんだけどね。
まぁ、今の私であればという条件はあるものの。
当時の私はそんなことは考えていないけど、変なことを要求されたらダッシュで逃げていたかな? それぐらいはするよね……。
ただ幸いにも、
《近くにでっかい岩があるでしょ?》
「うん」
でっかい岩というのは、確認しなくても戸隠岩のことだ。
《そこに手を付けて》
やって欲しいことはこんなことだったみたい。みんないないし、見られることもないからいいんだけど、悪いことやっているみたいな背徳感はあったなぁ。
そんなことは置いといて、私は沙恵の指示に従い右手をついた。
「こんな感じ?」
《ううん、両手ついて、体重かける感じにして》
注文の多い人だなぁ、と思いつつ、言われた通りに両手を着いて、岩に体重をかける。何だか恥ずかしい体勢なんだけど。
「こ、これでいいの?」
《そうそう。じゃあいくね》
「え? い、いくねってなっ――」
問い質そうとした瞬間、突如として目の前に暗闇が現れた。
手をついていたはずの場所は岩の感触を失い、ぽっかりとした空間ができたため支えが無くなる。
必然的に体重をかけていた私は勢いを殺せず前のめりになった。
「い、いやああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
私は悲鳴を上げながらそのまま倒れるように、岩の中に引きずり込まれてしまった!




