7.齟齬と相互
沙恵の執念深さは分かったが、しかしそこに一つの疑問が残る。
「だけどさ、沙恵の国にも私のような人っていっぱいいるんじゃない? なんで私なの?」
「それについてはこっちに来てもらってから説明するよ。ここだと色々とめんどくさいし、時間がもうないし」
「えっ?」
「たぶん、もうすぐ起きなきゃいけないんじゃないかな? なんだかここ、暗くなってきているし」
時計はないから分からないけど、そういえばさっきよりも空の光が鈍くなっていた。
「夢の世界だから、昼夜逆転してるのかもね」
なるほど、納得のいく理由だ。
「ねぇ、サヤカの休みっていつになるの?」
「今日が木曜日だから、あと二日後になるかな」
当たり前のように言ったつもりだったけど、何故か沙恵は能面になっていた。
「木曜日?」
「うん木曜日。月火水木金土日の木曜日だけど……?」
「もく……よう……び?」
顎に手を添え、考え事を始めてしまった。
「もしかして、あっちの世界にはそういったものがないの?」
「そういったものって?」
「えっと……なんだっけ……、確か……。あっ、そうそう! 曜日とかカレンダーとか」
ようやく捻り出した答えだったが、沙恵は何故か首を傾げていた。
「曜日は分かるけど、かれんだあ、って何?」
「えっ!? カレンダーはカレンダーだよ!」
この時“暦”という言葉は出てこなかった。「カレンダー」で既に浸透している世界だったしね……。
「そのかれんだあ、というのは分からないけど、曜日はあるよ。木曜日とかいう言い方じゃないんだけど、十二支を使っているね。子から巳までを前週、午から亥までを後週っていうんだけど」
「へぇ、干支を使うんだ」
とりあえず、その辺りは知っていたから大丈夫だったけど、よくよく考えても何で干支を知っているのかは疑問に残る。
ここで少しカンゲン国、もといアヤマ大陸の暦を教えておくね。
大陸の暦は統一されていて、365日を15カ月に分割し、3の倍数月を25日、それ以外の月を24日としている。
ひと月に週は4つあり、そのうちの最初の2週を「前週」、後の2週を「後週」と呼ぶ。前週は子から巳まで、後週を午から亥までとし、3の倍数月だけ亥の後に猫が来る。
因みにうるう年みたいなものはなく、常にこの日付で生活している。
こんなんだから私は、両方の暦で物凄くこんがらがるのだけど、それはまた今度話すね。
閑話休題。
「じゃあ、二日後に会うことでいいのねサヤカ」
「うん、その日は何にもないから大丈夫だよ」
とりあえず変な会話はあったけど、話は落ち着いた。
互いに確認をしあい、顔を見合わせると、自然と笑みがこぼれた。
(これから大変なんだろうけど、どんなことが起こるのか、ちょっと楽しみかも)
そんなことを思いながら夢の中にある空を見上げる。日は落ちかけているが、頭上には無数の星たちが煌めいている。
その空を眺めていると、沙恵がゆったりとした口調でこんなことを話しだした。
「この夢は、サヤカの心を映しているかもね。さっきまでは曇っていたけど、今は星空が見えるくらいに晴れ晴れとしている」
空から視線を外し、沙恵を見る。するとニカッと笑ってきた。
「表情もすっきりしているから、多分そうだよ」
その言葉は彼女の何気ない言葉だったのだろう。
だけど私には、それが力強く胸の中に響いた。
「星が見えたってことは、何か掴めたかな?」
「?」
こちらが疑問符を頭上に掲げた瞬間、沙恵の顔が真っ赤になり目線を逸らした。
「……ごめん、こっちも言って恥ずかしくなっちゃった……」
こっちを見ながら言ったことだから何のことかと最初は思ったけど、自分の頬を何かが濡らしたのと沙恵の言葉の意味に気づき、私も俯き頬を染めた。
あのアホはあの時、私から流れた涙と星をかけていたのだ。涙が見えた=星が見えた=輝く何かを掴めた、ということ。解説していて恥ずかしいったらありゃしない……。
今思えば「じゃあ言うなよ!!!」と沙恵の肩を掴んで、がくがくさせながら言ってやるのだけど、そこまでの仲じゃなかったし、私も初心だったからね。
「そ、そんなことより、もう時間だから私はここを離脱するね」
「う、ぅうん分かった。じゃあ、また二日後ね」
私達は互いに手を振って別れる。
沙恵は陽の光が消えるが如くスーッと空へその姿を霧散させて去って行った。
その直後、私は夢の中なのに強烈な眠気に襲われ、その場に倒れ込むようにして意識をなくした。




