6.手招く世界
半年以上ぶりの最新話更新です……。
遅くなり申し訳ありませんでした……。
どれくらいたっただろう。
沙恵の胸元から顔を外し、彼女の顔を見る。微笑んではいるが、さっきよりも目元が赤く腫れている。恐らく一緒に泣いてくれていたのだろう。
私はすっかり彼女の人の良さの虜になっていた。良く知りもしないが、この時に接したほんの数十分(場合によっては二時間位かもしれないが)で私は沙恵のことが好きになっていた。
あれ、チョロくない? と思われても仕方ないけど、何せここまで私に全幅の信頼を寄せてくれる人なんていなかったから、尚更彼女に落とされやすくなったんだと思う。こう言っちゃうと沙恵が悪い人みたいに思われるからやめとこう。
「それでさ、どうする? 来る? それとも来ない? 別に帰れなくなるという訳じゃないから、安心していいよ」
優しく微笑み声をかける沙恵。再度問いかけられた二択の答えは、既に決まっていた。
「ここまで言われたら、断れるわけないじゃないですか。その代わり……」
と、私は一旦間を置き、ある条件を沙恵に突き付けた。
「私を見捨てないでください。私はまだまだ未熟ですから、色々な迷惑をかけてしまうと思うんです。だけど、いえ、だからこそ、絶対に成長します。お願いですから私に期待し続けてください!」
正直、この提案は最高のわがままだ。だから、突っぱねられてもしょうがない気持ちで、私は言葉を紡いだ。少し怖くて目を瞑り、沙恵の回答を待つ。
すると突然、全身に何かが思いっ切りぶつかってきた。
「ありがとう!! 嬉しい!! 私も精一杯あなたのことを応援するから、一緒に頑張ろう!!」
目を開けて確認すると、さっきよりも強い力で沙恵から抱きしめられていることが分かった。横目で表情を見ると、華やかな笑顔だ。何だか、私も嬉しくなってしまい、自然と顔が綻んでいるのが分かった。
「ねぇ、そろそろ名前を教えて! あなた、じゃ味気ないから」
私は別に、それを拒むこともできた。
「いいですよ」
しかし、私はそんなことを一切考えず、すぐに返事をした。
ここまで来て失礼だから? そんなことじゃない。
――この人なら信じていいと思ったからだ。
「川上彩夏です。気軽にサヤカと呼んでください」
こちらが満面の笑みで答えると、同じように満面の笑みで沙恵は返してくれた。
しかし、何故かすぐにムッとなった。
「でも、敬語はなしだよ。もっと気軽に話そうよ。そんなに歳変わらないし、堅苦しいのは嫌いだからさ」
そしてまた笑顔に戻る。
「分かりま……じゃなかった。分かった。これからよろしくね、沙恵」
私は少し呆れたが、なるほど、これが彼女の良さかと思い、言われた通りにする。すると、また沙恵の目が輝きだした。
「やっと名前で呼んでくれた! ありがとう、サヤカ! 私からもよろしくね!」
(そんなに笑顔になってくれるんだもん。嫌って言えないんじゃん)
私の両手を握りしめ、思い切り腕を上下させている沙恵を見ていると、嬉しさが込み上げてきた。
しかし、と思い、ふと疑問に思ったことを口にした。
「でも沙恵、会うにはどうすればいいの?」
軽い気持ちで聞いたものだったけど、何故か沙恵の表情はどんどんと青ざめていく。首を傾げていると、沙恵が気難しそうな顔でこっちを見ると、
「う~ん、それなんだけどね」
そんな前置きをしてから、答えを返し始めた。
「私の世界へ来てもらいたいから……、ってサヤカ、近い近い!」
嬉しいワードが続々とくるため、思わず沙恵の横顔を至近距離で眺めてしまう。
当の彼女は何事かと思い、少し引いていた。
「あっ、ごめん。嬉しすぎて……」
顔が上気して熱くなる中、そんなことを弁明する私に、沙恵は笑いかける。
「いやぁ、なんだろう。そこまで喜んでくれるなら、誘ったかいがあったなぁっては思うよね。心配して損しちゃった」
温かい雰囲気が更に滲み出てきて、私はもっと彼女を好きになる。暗い表情をしたのは、私を自分の世界に連れていくのを躊躇ったからだ。
更に沙恵は話を続けた。
「それはいいとして、私は別の世界から意識だけ飛ばしてこの世界に来たの。それで、その時に通ったところが、たぶんだけど、二つの世界を繋いでいるのよね」
「どこなんですか?」
「敬語禁止!! 次敬語で話したら、サヤカの嫌がることをするからね」
「えぇ……」
「良・い?」
まるで子供のような文句の言い方で、私に再度忠告してきた。私はその圧力に負け、何度も頷き返した。
それに納得したのか、沙恵は腕を組んで話を続ける。
「実はサヤカの家の近くに、大きな岩があったのよ。確か注連縄をしてあったと思うけど……」
縄の巻いてある岩なんて一つしか知らない。
「もしかして、戸隠岩のこと?」
たぶんそれかな? と首を傾げる。
「それでいいと思う。そこに行ってもらえれば良いから、後はこっちに任せて」
分かったという意味で頷くと、同じように沙恵も無言で頷いてきた。沙恵は人の目線に合わせて会話のできる人物なのか、似たような動きをしてこちらへ返答を返すことが癖だ。
そんなことよりも、
「ねぇ、どうやって私の家を見つけたのか、物凄く気になるんだけど」
「あぁそれはね、強い光を追ってこの世界に来たんだ」
「強い光?」
首をひねって考えていると、沙恵はこくんと頷いてから話し始める。
「まず意識を自分の体から引き離して、ここからでも分かる光に意識を集中したら、本当に遠くの方から光が見えたんだ。そこに向かって糸を辿るように追っかけて行ったら行き着いたの。ちょうどサヤカが眠ったところだったから、良い時間に来たみたいでよかった」
よかった……かどうかは別としても沙恵の期待通りにはなったようだ。
「ちなみに聞きたかったんだけど、寝てなかったらどうしてたの?」
「会えるまで何度も来ていたかな?」
執念深すぎて頭が痛くなりそうだった。




