3.笑劇に続く衝撃
2020/04/17更新。
2020/08/25 詠唱部分を更新。
「えっと、そういえば、名前を言ってなかったね。私は神隼沙恵。違う世界の……こっちで通じるかは分からないけど、お姫様をやっていて……」
それでも私の頭はフリーズしていた。
「って、どうしたの?」
じっと目を見つめる。
(お・ひ・め・さ・ま?)
「それってホントですかっ!?」
「うわぁっ!! びっくりした!」
私は思わず彼女―沙恵―に縋りついた。沙恵は驚いて身を少し引いている。
自分でもその行動に驚いたけど、羞恥は勢いでドブに落とし込み、衝動だけが頭を支配する。
そんな私を何とか引き剥がし、沙恵は困惑気味に話しかけてきた。
「急にどうしたの? どれがあなたの心を刺激したの?」
それを聞いて、私は急に恥ずかしくなった。それもそう。反応した言葉が言葉だけに、言おうかどうか迷ったぐらいだから。でもなぜかこの時の私は躊躇うことが無かった。
「あ、その、姫って言葉が少し気になって……」
恐る恐る話すと、沙恵が目を細めてにやにやしてくる。
「なんですか?」
「あら、ごめんなさいね。あなたが初めて嬉しそうな顔したからつい」
優しそうな笑顔でそう釈明すると、沙恵はそんな感想を述べた。それほど、分かりやすい顔をしただろうか? 鏡なんて物はないから確認のしようがなかったけど、私の心を見抜かれていた。だけどそれが不思議と嫌に思わない。
「あぁ、それから姫って言っても私は二番目だし、そんなに偉いものではないよ。そっちの世界では、姫様はいない……」
大人しく聞いていたけど、私はその時別のことを考え始めていて、沙恵の話が頭に入ってなかった。
沙恵が変化に気付きいぶかしげに見る。
「急に赤くなってどうしたの?」
「いえ、すみません。その、急に飛びついてしまったのが恥ずかしくなって……。色々と変なことも言いましたし」
私は見ず知らずの女性に急に飛びついたこと、己の願望が露見してしまったことを思いだし、更に顔を赤面させてしまった。ずっと隠しておきたかったことだったから、その恥ずかしさはひとしおだった。
「う~ん、飛びつかれたのは確かに驚いたけれど、逆に嬉しかったよ。さっきよりも、表情が豊かになったからね。恥ずかしがることはないのに」
少々困り顔ではあったけど、温かい笑みを浮かべて沙恵が肯定してくれた。
そう言われて私も少し嬉しくなった。というより、こんな感情が未だに残っていることの方が驚きだった。
だけど、人からそんなことを言われたのは久々過ぎて、その方面への対応の仕方を知らなかったのも原因なのだろう。
「そんな訳ないじゃないですか。こんな根暗でゴミみたいな女に感情なんてあるわけがない。私は誰からも愛されない必要とされないクズですよ。死んでもいいと思うくらいです」
思わずそう漏らしてしまって、私ははっと気づいた。思わず下を向く。
(何を見ず知らずの人に弱音ついてんのよ~~~~~~~~~~~~)
心の中でそう叫び彼女の方を一瞥する。沙恵はキョトンとした顔でこちらを見つめ、少し考え込むような素振りを示していた。
「な、何でしょう……?」
「いやね。あなた若いのに、何でそれほど卑屈になれるのかなと思って」
「……」
そう言われて、私は固まってしまう。しかしそれは、 “卑屈 ”という言葉にショックを受けたわけではない。
「やっぱり私は、そのようなことしか考えられないクズですね」
顔を俯かせ目を瞑り、自分に言い聞かせるようにして、溜息混じりにそう肯定した。
推論だけど、人間ゴミのような扱いを六年も毎日続けられて、感情がネガティブにならない奴はいない。ましてや年頃の女の子が、そんな苦行に耐えられるわけがない。それほどにまで、心は限界に来ていたのである。
その様子を見ていた沙恵は溜息を一つつき、ゆっくりと近づいてきた。そして……。
何故か右手で私の胸を触ってきた。
「……!」
瞬時に右手で払う。あまりのことにびっくりしてしまい、かなり後退りして距離を取ってしまった。暗くなっていた黒い心も、驚きの白さ、というより桃さに早変わりだ。
「ごめんごめん。変なことはしようと思っていないから、安心していいよ」
苦笑交じりに沙恵はそう言う。
しかし、どこからどう見てもセクハラを働いたようにしか見えない。夢の中でなければ通報しているところである。
「じゃあ、何なんですか?」
じと目で見つめていると、沙恵が笑顔を含みつつも真顔で私の疑問を解こうとしてきた。
「あなたは気付いていないかもしれないけど、あなたの中には私達の世界で使えるものと同じ力があるのよ。それを開放させて、少し自信をつけさせたいな、と思ってね」
「今度は何を言いだすんですか?」
感想はそれで十分であろう。
それもそのはず。この時は力のことを全くもって知らないから、当然疑問に思った。疑問を解消してくれるはずが、新たなる疑問を生んだわけである。いたちごっこか無限ループという訳。
その矛盾に気付いた沙恵は、しまったという顔をして頭を抱えていた。
「あぁ、あのね。こればっかりは口で説明するだけでは理解できないから、実際に体験させないといけなくて、そんでもって手っ取り早いのがあなたの力を開放させることなのよ」
何となく理解はできたものの、私の心は半信半疑である。因みに信は力のこと、疑は胸を触らなければならなかったことに掛かっている。
「それから、開放させるには心臓に近い所に手を置いて、呪文を唱えなければいけないの。理解できた?」
理解はできた。
しかし、納得いかない。
「別に他の場所でも大丈夫な……」
「いや、その場所じゃないといけないの! むしろその場所が良いの!」
その問いかけに対して、妙に素早く食いついた。そして目は何故か輝いている。恐らく願望も混じっているのだろうと予測をつけ、手早く終わらせたかった私は半ば諦めてこう発した。
「じゃあ、早くお願いします。あまり体を触られたくないので」
そう釘を刺し、私は彼女の判断に身を委ねた。目を閉じ、じっと待つ。
「私、そこまで変態じゃないと思うんだけど……。それに、そんなに大仰なことじゃないんだけどなぁ……」
そんなことを言いつつ、私の胸元に触れる。
「むっ、これは私よりも大きくなるかも……」
何かブツブツと小声で言ったし、微かに揉んでいる気もするけど、無視することにした。
『汝の見えざる力よ 我が下にその姿を現し 力を与えよ』
(小説で似たようなものを読んだことある)
何かを詠唱して、自分の力を引き出してくれる。この手の状況はファンタジー系の小説やゲーム等に数多存在するから、それほどの驚きはなかった。
が――。
――ドクンッ――
「!?」
しかし、これには驚くしかない。
体の底から何か得体の知れないものが沸き上がってくるこの感覚に、私は戸惑いを覚えた。
思わず胸を押さえ、膝をついてしまう。
「ちょっと待って! こんなに強い力だなんて聞いてないよ!」
沙恵すら声が上擦り、驚愕した顔をしている。予想外のことが起こりすぎて、二人ともパニック状態に陥ってしまった。
そんな中、先に冷静になったのは沙恵の方。一回深呼吸をして、心を落ち着かせている。
「意識を飲まれないように集中して! あなたがあなたを強く保てば、大丈夫だから!」
その言葉通り必死に抵抗してみる。
だが、力の前ではまるで赤子の手を捻るかの如く、獰猛な欲求が私の精神を呑み込んでいった。
話数分けしたものです。




