2.変態少女推参
2019/04/13更新
少しだけですが更新しました。
ここで、冒頭に戻る。
その前に、今日の出来事を総括してみよう。
この日も学校で散々な目にあっていた。
今日は授業中に「お前みたいな汚物はこのクラスにいらないんだよ」という紙が飛んでくるし、図書室から借りていた本を読んでいたらボランティアさんがいなくなるのを見計らってその本を破られたし(しかも、その責任は全て私に被せられるし……)、下校中に人のいない公園でサッカーと称し、ランドセルを蹴ったり踏んだりし始めるし、仕舞いには中身を全部ぶちまけられるという、本当に人間のすることかなと思うくらいの仕打ちを喰らっていた。
家に帰る前に公園でハンカチを使い土に塗れたランドセルを拭き上げ、いじめられているという事実を親から隠して、何事もなかったように帰ってくる。
そして、晩御飯を食べ終えて風呂に入り、宿題をやり終えて私はベッドに倒れ込んだ。流石にその日は精神的にも肉体的にも疲労がピークに達したのか、大好きな読書も忘れて布団を目深に被り、そのまま夢すら見ることもない深く暗い眠りへと落ちていった。
と思っていたのに気が付いたらありえない状況。流石に信じられないとは思いつつも、それほどの動揺はなかった。普段見る夢とはひと味違う、現実味を帯びた夢だ、それだけしか考えていない。
(何か、変な感じ……。誘拐でもされたのかな……、んっ?)
何気なく上を見上げていたら、突然左の方から黄金色の光が差し込んできた。
(朝?)
そう思って左を向いてみる。しかしいつの間にか光は消え、そこにいたのは一人の少女だった。
「あら、私よりも若い? まぁ、今いる子たちも同じようなもんか……」
何やら一人でブツブツと自答しているその少女は、明治時代の日本人に近い格好をしており、確か長襦袢といったかな? 下は足首まである物を着ている。
顔立ちはモデルと見間違う程大きい目は少し垂れており、左の眦には泣き黒子が特徴的。
また髪は金色で、長さは良く見えないけど肩甲骨は超えていそうだ。
飾りはなく、普段来ているものだけでここに来ているけど、雰囲気は明らかに庶民ではなかった。
正にファンタジーに出てくる王様の娘。それがぴったりと当てはまる。
「……誰ですか?」
何故かは分からなかったけど、そう尋ねた。いや、"尋ねなければ失礼だ"と思った。
「う~ん? どう言ったら良いかは困るけど、たぶんあなたの生きている世界とは別の世界からやってきた、と言えば理解してもらえるかな?」
「はぁ……」
こんなことを信じる筈もなく、私は何も感じない瞳で彼女を見た。
(ついに夢で現実逃避を始めたのか……)
再び目を閉じようと私が彼女の反対側を向く。
「えぇ……。もっと興味を持ってもらってもいいと思うんだけどなぁ。聞いてもらいたい話もあるし」
そんなこと言われても困る、と心の中で返答しつつ、私は彼女の発言を無視する形をとった。
「ちょっと待ってえええええええええ!! お願いだから話だけでも聞いてよおおおおおおおおおおおおお!!」
数十秒無視していると、突然、私を激しく揺らし始めた。少し経って、流石にうざいと思い……。
「もう、やめてください!!」
そうして思わず左腕を彼女の方に振り下ろした。
が手応えはない。見ると、いつの間にか私の腕が届かないところでしゃがんで観察している。
「おぉ……危なかった……。良かった感情はあるのね。……そんな不満そうな顔しなくても良いじゃない」
「知りません」
(自分の表情なんかどうでもいい……)
そして、もう一度逆側を向こうとした時、ポンッと肩を叩かれた。
「ねぇ、あなた。名前はなんていうの?」
「何であなたに名前を教えなくちゃいけないんですか?」
振り向きざまにそう言うと、ちょっと悲しそうな顔した。少し気まずそうに咳払いをする。
「……この際名前はまだいいや。それでも、せめて話は聞いてくれない?」
彼女は落胆したような声音でそう聞いてきた。
しつこいなぁ、と言い放って突き放そうかとも考えたけど、私はこの夢に違和感を覚えた。
それもそう、こんなはっきりした夢は初めてだったからだ。目を瞑ってこの世界から必死に離脱しようとしても、何故か醒めない。今のところ醒める手段も思いつかない。
そこで――。
「じゃあ、少しだけ話を聞かせてください」
諦めて聞くことにした。ただし、体勢は寝たまま、ほとんどスルーする形で。
「その体勢で聞くの……? ま、まぁ良いや。しばらく付き合ってもらえるし、別に大きなことをして、とは言わないからね」
そう言うと改めて私に近づいてきた。そして、覗き込むようにして私を見るとこんな事を。
「あなた、自分の住んでる世界と違う世界に興味はない?」
(??????????)
正直に言おう。
おかしいんじゃないかな?
私の頭。
そう思った。
流石にここまで来たら、普通の夢じゃなくなっていることに気が付いた。妄言が絵に描いたように頭の中ではっきりと形を成し、ここまで強烈なインパクトのある夢は、十年以上生きてきた中でそうそうない。いや、まずない。
自分の頬を抓ってみる。……何故か痛かった。
(夢の中のはずなのに……)
「確かに、夢みたいな感じだけど、現実に近いから痛いよ……、って! 何急に頭を打っているの!?」
更に強いショックによってこの変な夢から覚めたいと思い、自分の頭を地面に何度か打ち付けてみた。が、どうにも夢は醒めない。寧ろ、痛みから額を押さえ悶絶。
「馬鹿なことはやめてよ! この空間は私が干渉して保っているものだから、頭を打って気絶しても醒めないからね!」
狂気に奔った私を見て彼女は慌てた。その台詞を聞いて落胆した私に対し、
「夢だと思いたいかもしれないけど、残念ながら現実……に近いかな。お願いだけど、私の要件が終わるまで我慢してちょうだいね」
励ましているのか分からないけど、そう声を掛けてきた。
(はぁ)
短く溜息を心の中でつき、もう一度向き直る。今度は彼女と同じ正座で聴くことにした。




