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1.醜い箱に住む私

2019/04/12更新

大きくは変わってませんが、少しだけ。

(ここは……)

 気が付いたら、私は知らない空間へと放り出されていた。

 辺り一面蒼の世界。寝そべっていた床だけが白く、雲の上にいるような錯覚を感じたけど、風は感じなかったから恐らく違うと私は直感した。

(布団を思いっ切り被って寝ていたような……)

 キョロキョロと見渡しながら、私はこんなことを考えていた。

(ここが、天国かな……)

 うん、全くもって違うから、と手を出しながらそう言ってやりたいけど、回想なのでご愛嬌。でも、そう思いたくなるのも無理はないと思う。

 だってこの頃の私の生活は、他人に人生を否定されているようなものだったからね。


 この頃というのは、文字通りこれは過去のことで、今から二年前の小学校六年生の私。今の身長よりも低かった頃の話だ。

 さてこのような事件が起こる前の私の生活を見ていこう。

 まず、起床して顔を洗って服を着替えて、ご飯を食べて家を出る。家から学校までは歩いて十五分程度、今日も余裕を持って始業の四十分前に学校に到着。

 早くない!? いえいえ、これには色々と理由がありまして、何せ――。


 通学中に何されるか分かったもんじゃないからね!


 この登校方法を思いつくまでは道中、石投げられるわ、よく分からない野次が飛んでくるわ、急に突き飛ばしてくるわ、と自分の身が危険なため、早く登校するしかないという訳。そんなのありえないでしょうと思いたいけど、残念ながら現実。しかもまだ一部である。


 学校で私はいない者扱いされていた。何せ、根暗で、無口で、コミュニケーション能力なんか皆無で、教室内の雰囲気は私のせいで暗かったといっても過言ではなかった。

 だから当然、他の児童が登校して私を見ても無視をする。視線を合わせようとすらしない。

 そんな人たちが大半の中、何人かが教室に入ってきて早々に、

――うわぁ、くっさ!また今日もごみの臭いがするぜ! 特に、左の窓の後ろから一番臭うなぁ。さっさといなくなればいいのによぉ! なぁ?

 別に言わなくても良いような一言を、わざわざクラス全体に響き渡るように言い触らす。左の後ろというのは確認しなくても私のことで、そいつらはそのことを言わないと気が済まないらしい。

 いい加減この頃には飽きてきたので無視していると、暇なのかこっちまでやってきて、机を蹴りながら、

――お前のことだよゴミ女

――何で生きてんの? 生きてて楽しい?

――……無視すんなよ!

 そんなことを毎朝のように、先生が来るまで平気で口にしている。というのも、見張りの奴が一々階段で待っていて、先生が昇ってくるのが見えた瞬間、こっちにまで走ってきて知らせているからだ。

 授業中はそこまでないけど、たまに先生が黒板を向いている時に、消しゴムのカスや小さな紙を丸めたものが飛んでくる。因みに紙には主に「消えろ」「邪魔」「臭い」「死ね」が書かれてある。物凄く鬱陶しかった。

 給食の時間は班を作るのだけれど、私は作っても机を最低3cm離されてしまう。先生が一緒に食べる時はくっつけるけど、それ以外はみんな離して食べる。つけようとすれば、露骨に嫌な顔をされるからもう何もしない。

 昼休み。基本はみんないなくなるから一人でいるんだけど、たまに連れ出されて、遊びと称した袋叩きにあう。勿論、顔に傷なんてつけるわけなく、大体は脚や腹部等、服の上から隠れるところを重点的に狙う。

 小六で良く頭が回るよね、と今となっては考える。

 掃除中は先生がいないのを見計らって、床を拭いた後の雑巾を投げつけてきたり、酷い時には床を拭いている最中にバケツを私に対してひっくり返し、汚れた水を私にかけてくる。そして言い訳は、


――彩夏さんがまたバケツをひっくり返しました


 とのこと。どっちがゴミか、と思うような所業である。しかし、片づけるのは私の仕事になってしまう。

 放課後は逃げるように図書室へ向かい、みんながいなくなるであろう五時まで過ごす。図書館は図書ボランティアの方が常駐しているため、人目につくところでやろうとしないあいつらの深層心理をくみ取っての行動でもある。

 それでも、私が校門を出てくるのを待っていることがあり、そうなると下校の道中は地獄と化す。ランドセルを投げられたり全員分の荷物を持たされたりと、下校の邪魔をとことんしてくる。そんな暇が良くあるなぁ、と思わず感心してしまった。

 そんなこんなで、とりあえず大まかに私の一日を紹介してみたけど、よくこんなことされて生きているよね。普通なら自殺していてもおかしくない。

 確かに生きてはいたけど……、こんなことされて精神に異常をきたさない方がおかしい訳で……。


――私の心は完全に死んでいた――


 涙なんてものはとうの昔に枯れ果ててしまい、暗い能面が顔にしっかりと張り付いていた。

 先生から話しかけられようと、親姉弟から話しかけられようとも返す返事は乾いていた。親からも先生からも「どうした、大丈夫か?」と声を掛けられるけど、暗い顔のまま口角を釣り上げて無理矢理笑い「大丈夫だよ」と応えるのが日常。完全にただ生きているだけである。

 ということで、人を信用することはなく、常に近づく人には警戒ばかりしていた。故に人混みが嫌いで、休みの日も家に籠り、超が付くほど出不精となっていた。

 そんな私にとって唯一の楽しみとなっていたのが「本」だった。小さい頃から絵本が好きだったのが転じて小説を読むようになり、今は基本的にファンタジー系をよく読んでいる。そして常に私は、物語の主人公たちに自分を重ね、


(いつかこういう世界に行けたらいいのに……)


 と、無理難題な思いに耽っていた。

 それ位私は、現実世界が嫌いになっていたということだ。

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