13.拳の向ける先
一瞬の間が空く。
「はっ!?」
言葉の吟味から戻ってきた芥田は、驚きを隠せないようだ。
「何もあなたたちの罪を許した訳じゃないから」
私は芥田の後方へ指を向ける。
「特に私じゃなくて、彼らがね」
そうして芥田は後ろを向く。
そこには、怒りで恐ろしい形相と化した夏川たちがいた。
その形相に芥田の顔は絶望に染められる。
「お、おい! あいつらには聞かせない約束じゃねえのか!?」
「聞かせない約束はしてない。この場にいさせない約束をした覚えはあるけどね」
近づいてくる足取りに迷いはない。特に先頭の夏川は痛む肩を怒らせ、風を切り裂くようにしてこちらへ向かってくる。そして芥田の正面に立った。
私はその間にいて、何か行動を起こしてもすぐに制することができるようにしている。
「……お前が芥田法道か?」
芥田を睨む目は鋭い。怒りに震えているが、まだ何とか堪えているようだ。
「そうだが、なんだ? 殺すなら殺せよ。お前らにとって俺は友人を殺した殺人犯だ。そして今俺は手足を縛られ、抵抗することすらできない。復讐としては十分じゃねぇか?」
自嘲気味に話す芥田の言葉を吟味するかのように、夏川は眉をひそめる。
「確かに、お前を殺したい思いは今でも変わらない。お前を許す気なんか毛頭もない」
一旦そこで夏川が言葉を切った。暴走しないか心配になるが、夏川は大きく一息をついてまた話し出す。
「ただ、ここでお前を殺してしまったら、同じ土俵に立つことになる。お前が憎んで蔵乃介を殺したように、俺もそうなってしまう。それを考えると、蔵乃介が悲しむから、殺すことだけはやめといてやるよ」
「へっ、とんだ甘ちゃんだ……」
しかし、芥田は言葉を全て言い終えることができなかった。
言い終わる前に、右方向へとふっ飛ばされたからだ。
元いたところから飛ばされた地点までの道には白い小さな塊が、赤い液体の染みと一緒に点々と落ちていることが分かる。
因みに私は、夏川が動いたことに気づいたが止めなかった。それは想いを載せた拳の勢いが、その一発に十分重く乗っていて、これ以上何もしないと感じたからだ。
「ふっ、ふぁにふんふぁよ……(な、何すんだよ……)」
言葉にならない言葉が芥田の口から洩れる。左頬はパンパンに膨れ上がり、顔は原型から大きくずれていた。
「殺しはしないが、危害は加えないとは言ってない。さっきこの子の口からもきいただろう? 殺さない程度には殴っても良いと。だから、この一発で俺らはこの復讐を終わらせるって決めたんだ」
夏川は自分の右拳を悲しげな眼で見つめる。
小林さんへの憂いか、それとも助けられなかった自分の無力さを嘆いているのか、はたまた……。
(やめよう……。無用な詮索は無し無し)
復讐はこれで終わりだと彼らは言った。だったら、その気持ちは推し量らずに、そのまま推論として留めておこう。
夏川が殴ってすぐに警察が到着し、私たち以外の全員を詰所まで連行していった。
恐らく、夏川たちは重い罪に問われる。残念ながら殺した人数があまりにも多すぎた。こればかりは助けることはできない。
一つ希望があるとすれば、彼らはまだ「復讐」というきちんとした動機(個人的には適応外なのだが)があり、それがそれなりに裁判官の心に届けば、量刑は軽くなるかもしれない。それでも最低20年なのだが。
芥田たちは夏川一行より軽い刑になるだろうが、「復讐」ではなく「戒め」として殺人を行ったため、量刑が変わることはありえないだろう。
これから彼らの人生がどうなるかは分からないが、これをきっかけに少しでもいい方向に動いてくれることをただただ祈るばかりであった。
「でもさ、思うところはあるよね」
私達の事情聴取が終わり、警察が現場から引き揚げた頃、ふと、私は頭に出てきた疑問をイチにぶつける。
「何が?」
「今の世の中にとってはさ、本当に憎い相手を殺してしまうのも、当たり前のことなんだろうねって」
あぁ、とイチもそれには納得していた。しかし、イチはしっかり反論する。
「でも、だからといって人殺しは許されないことだろう? だから俺たちがその常識を変えてやるんだろうが」
「その通りだね。私たちが動いて、絶対にその常識をひっくり返さないとね」
そう決意してから二年の歳月が過ぎたが、私たちの心の中の考えは今も変わっていない。
その決意をもう一度固め、私たちは今回の事件を思っていた。
そんな考えから浮上し時刻を確認すると、既に時計は二刻半(地球時間で三時)を示していた。
「さて俺たちも帰るか。みんな今日は疲れたし、体もボロボロだ。少しだけ腹に何か詰めてから寝よう」
「そうだね」
イチの言葉に頷くと、ケイがしかめっ面でこちらを見てきた。
「えっ!? 今からなんか作んなきゃならんのか!?」
「別に余り物でも構わないよ。私はそれで十分だし」
「余り物がないから作るしかないんだよ! どうせお前ら何もしないだろうが!!」
「じゃあ、ぼくが代わりに手伝うよ!!」
「マックスの手伝いは必要ない! 余計な仕事を増やされても困るからな!!」
「ぶーっ! それひどくない!」
そんな会話をしながら、歩き出す。まだ朝には遠い時間のため、私たちは疲れた体と眠たい目を擦って、家路へと着いた。
さぁてと。ここまででどういう事情か把握してくれたかな。と言ってもほんの一部しか見せてないから、まだ理解できない部分があることは分かっているので追々説明していくとして、分かっていることだけ見せよう。
明らかに普通の生活を営んでいるとは言えない。普通の中学生が街中で、というよりあんな夜中に行動している時点でおかしいとは自分でも思う。
それに冒頭で話した通り、地球では「中学生」として生活しているけど、これは地球のいわば裏側に存在する「異世界」での話。
そう、ここは「人がものを操る力を持つ世界」。そして、宇宙のどこかにある惑星のこと。
名を惑星「ヒラヤス」。そして私が過ごすこの国は、神と呼ばれし存在が君臨する王国「カンゲン」。
そして私はこの国の首都「神都」において、自警団「我誓不殺」の頭領。
我誓不殺の由来は“我ら殺さず(不)を誓う者なり ”。そう、この自警団は「人を殺さず、人を生かすことを主として動き、それを貫く」。それが私達、全員の心に刻みつけている誓いだ。
このような状況に至るまでの過程を、今回は話そうかと思っている。事情が事情だけに大変ややこしい経緯にはなるけど、知ってもらうにはそれも踏まえて語ることにしよう。概章で話したことにもつながるからね。




