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11.衝動への耐久戦

2019/12/27更新

2020/02/07更新

 聞くにあたって青服から距離を取った。

「まず、名前を聞いても良い?」

 無難な質問からしてみる。もし答えないようであれば、また(たま)(みず)でも浴びせよう。

「答えるつもりはない……、と言いたいところだが溺れさせられるからな、正直に答えてやるよ」

 意外と物分かりが良かった。

 というか見ていたんだ。

「そうしてもらえると助かるわね」

「ただし、俺らの命を狙ったあの犯罪者どもは、この場から排除してもらいたい」

 鋭いまなざしでこちらを見つめてくる。そうしなければ何も答えることはないと言いたげな目をしている。

「安心して、それは考慮済みだから。別のところに待機させてるし、ここから声は聞こえないから問題ないよ」

 既に夏川一行は移動させている。一応のつもりか青服も周りを見渡した。

「良いだろう。ならば話そう」

 こいつやけに偉そうだね……、とは心に思うものの口には出さない。

「まずは名だったな。芥田法道(あくたほうどう)だ」

「では芥田。私達も調べは取れているからしっかりと答えてね」

 そう聞くと、芥田は無言で頷いた。

「まず、いつから彼ら――夏川さんたちに気付いていたの?」

 とりあえず、今回の事件について聞くことにした。

「中等校時代の仲間が殺されたのは知っていた。最初のうちは単なる殺人事件としてしか見ていなかったが、途中から小林を自殺させた連中への報復だと知ったのは5人目が殺された辺りからだ」

(まだ、自殺とか言っているの……?)

 またこめかみに怒りマークを作りそうになるが、黙って芥田の話を聞く。

「あの時、処分を受けたのが十人。そのうち六人が殺され、残ったのは俺を含め四人。恐らく俺たちを殺し回っているのは、小林と仲の良かった出水だろうと予測も立てた」

 相手をしっかり見極める辺り、流石名門中等校に受かっただけはあるなと思った。

「俺たちは殺されたくなかったから4人になった時点で話し合いを重ねて、襲ってきたら実行に移そうと思った訳だ」

 用意周到に夏川さん達を返り討ちにする計画を練っていたようだ。

 すると急に、芥田はこちらに非難の目線を送ってきた。

 計画を邪魔されたことに切れているのだろうけど。

「お前らもろともこの場で殺そうと思ったんだが、俺らの腕が鈍ったのかここまで強いとは思わなかった。それについては完敗だな」

 溜息をつき、先ほどの戦いを思い出す芥田。私達も正直のところ、戦いに関してはぎりぎりだったのだけれど、押し問答になりそうだったため止める。

「じゃあ、次の質問だけど、なんで沢渡さわたりさんが依頼を出したって分かったの?」

 違う言葉に変え、同時にそのことを聞いた。

「あぁ、あの裏切り者の娘のことか」

「裏切り者ねぇ……」

「裏切り者だよ。当然だろ? あいつは俺たちの子分だった奴さ」

 まるで水を得た魚のように、芥田はとうとうと語りだした。

「俺たちは初学式の時から、沢渡の存在を子分としか見ちゃいなかった。どう見ても臆病そうで最初の試験でも俺たちより下だったからな」

 そこから芥田たちは沢渡さんを使い走り、酷い時には朝から晩まで馬車馬のように扱っていたという。

 正直、“扱っていた”という言い方は良い気がしないけど、口ぶりからはそうとしか言いようがなかった。

「面白かったぜ、小林を懲らしめるって行った時、沢渡だけは抵抗したんだ。『僕はそれにだけは手を貸したくない!』ってよ。だけどあいつ雑魚だからさ、俺らは返り討ちにしてやったんだよ。ボコボコにしたからただ見ているだけだったが、あぁ最高だったなぁ」

 その表情は恍惚としていた。自分の気に入ったおもちゃを見つけたが如く、自分の苛立ちを全て受け止めてくれるサンドバッグを手に入れた如く。

(こいつは自分が上に行くためだったら、どんな手段も選ばないつもりなんだ……)

 心の中でそう嘲る。後で聞こうと思っていた話だったので、今聞けて良かったと思う反面、苛立ちが募る。

 しかし、私がこう考えているとも知らず、芥田は話を進めた。

「誤算はここだったな。小林を呼び出して屋上で絞めようと思ったんだが、思いのほか強くてよ。だから俺らは束になって、あいつを屋上の隅まで追い詰めたんだ」

 思い返すように空を見上げた芥田だが、私は内心の煮え湯を思いっ切りぶちまけたくなっていた。しかし、そこはぐっとこらえることにする。

 芥田はまた言葉を、嗤いながら紡ぎだした。

「そしたらあいつは何を思ったのか隣の校舎に飛ぼうとしてさ、思いっ切り足を曲げて飛んだんだ。ただ、小林は運が悪かったな。雨が降った後だったから、足滑らせて真下に落っこちちまったんだよ。本当、最後の最後までついてない奴だったな」

 真実を聞き、私は心の中の滾っていたものを、水から赤銅に替えた。むかつきが治まらない。

「まぁ、俺から言わせてもらえば、自業自得って話だよ。

 地方から来た田舎者が、優秀な俺らの上をいっちゃいけねえんだ。それなのに、あいつは俺らの意見を一個も聞かず、普通に学校に来て、いい成績取りやがってよ。

 へっ、いい気味だぜ」

 ハハハッ、と声高らかに嗤う芥田に私は拳を放りたくなったが、組んでいた腕をぎゅっと体に引き寄せ、何とか押しとどめる。

「そう言えば、質問の内容だったな。沢渡が最近俺らとの付き合いが悪くなったからなんでかなぁと思って周辺に探りを入れるとよ、小林の仲間と一緒になって夜な夜な俺らを殺しまわっていたんだ。だからよ――」

 一拍おいて芥田は口を開いた。


「沢渡の娘にお前の親父が”無関係な人”を殺して回っているって情報を流したんだよ。そして、疑心暗鬼になってもらって、あの娘に親父を殺させる予定だったんだが、いつまで経っても殺しに行かないなぁと思っていたら、朝たまたま娘を見かけて紙をお前らの家の戸に挟んだのを見たんだ。

 紙は奥まで入ってたし、人の気配もしたから取り出せなかったが、依頼したのは想定外だったんで、こっちから一家もろとも殺しに出向いたって訳だ。良い様だろ?」


 その目には詫びの気持ちも、反省の色も浮かんでいなかった。これほどまで心が壊れた人間はなかなかにいない。

 自然と下した拳の握りが自分の手すら血を滲ませるほどに、怒りが爆発しそうだった。

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