9.無い経験で絞り出す
(2020・01・09)更新しました。
ダイヤルを合わせ、ボタンを押すと同時に――。
『馬鹿野郎! 何悠長に考え事してるんだよ!』
耳につんざくような怒声が響いた。
えんじと戦っているイチからだ。
「そんなこと言われても、こっちの攻撃が効かないんだからどうしようもないでしょ!」
チラッと目をやると、イチもえんじから近接戦闘に持ち込まれて苦戦していた。遠くを見やるとケイとマックスが必死の形相で戦っている。今のところは五分で戦っているけど、勝てるかは微妙なところだ。
『何か作戦はないのか!? このままだとお前も危険だろうが!』
そんなことは分かっている。だが腐っても名門中等校に受かった人たち。こちらの一枚上手の作戦を立ててくるため、反撃がしづらい。
ていうか、あんたの方が頭良いんだから考えろよ!! と言いたくなったが抑えた。
[熱きを穿ち、熱を奪え"投氷群"!]
と、青服がまた攻撃を繰り出してきた。氷の弾丸が無数にこちらへ向かってくる。
["水壁"を築きなさい!!」
私は咄嗟に手を地面に着けて、厚めの水の壁を作った。氷の弾丸はその中を通り抜けようとするが、大きさは米粒並みだったため、溶けて私の元には届かない。
(ん? 壁を築く?)
その言葉について少し吟味する。そして、とある作戦に辿り着いた。
私は青服に聞こえない遠目の位置で、急ぎイチに作戦の内容を伝える。その間にも青服は攻撃をやめないため、避けながらの会話となったが。
『一か八かだが了解! やってみるよ!!』
その言葉を最後に、私たちは自分たちの戦いに集中した。
相手はこれ見よがしに腕弓を撃ったり、さっきの氷の弾丸を撃ったりと、やけに忙しなく攻撃を仕掛けてきた。早めに蹴りを付けようという思惑なのだろう。
私は一回使い切った弾倉を入れ替え、弾の無駄撃ちをしないように自分の操力を織り交ぜ攻撃していた。
追いかけられている状況に変わりはない。追いつかれるのも時間の問題だ。
「はぁはぁはぁはぁ……」
次第に相手の呼吸に疲れの色が見え始めた。
恐らく、力の使い過ぎによるものだろう。
(イチ、まだなの?)
そろそろ弾が切れる頃。私も焦りが見え始めているみたいだ。
(早くして。もう弾がなくなる……)
全然音沙汰がない。厳しいかな、と思っていたら、
「ぐっ、ぐわああああああああ!」
相手が突然悲鳴を上げた。よく見ると右肩に矢が刺さっている。腕弓の短い矢ではない。イチの弓から放たれた長い矢だ。
イチはそのままえんじにも矢を放って動きを止めていた。
私はこのタイミングで前へと出る。そして銃口を向け、2発の弾丸を発射した。
「痛ぇっ!!!」
1発は青服の太腿にもう一発追い打ち。そして――。
「があああああああ! くそっ! お前ら卑怯だぞ!!」
もう一発はえんじの外套を纏った奴の方を狙った。えんじの太腿から、血が噴き出す。痛みに耐えかねたか、その場に膝を着いた。
私達はそのまま互いの相手を入れ替え、お互いに相手の側頭部に蹴りを加えた。
そして、完全に相手の意識を闇に葬った。
更に起きてから動かないように、体を例の縄を使って相手を縛り上げ、動きを封じた。
「間一髪だったな。けがの程度は大丈夫か?」
「うん、何とかね。死ぬかと思ったけど、何とかなったよ」
互いに息を切らしながら声を掛け合う。本当に作戦がはまってよかったと思った。
作戦はこう。
まず、私が青服をある地点まで誘導する。それまでにある程度体力を削らなきゃいけなかったから大変だったけど、相手は子供だからと見誤ったのか、早めの決着を望んだのか、連続して攻撃をしてくれた。おかげで、第一段階は難なくクリア。
問題はここから。相手の動きをそこにとどめておかなければならない。これがだめだったら、第一段階も無駄になってしまう。これが一番の作戦の要だった。
幸いに青服ももどかしくなってこっちのことしか考えておらず、自分の位置を把握していなかったため、個々も順調だった。
そして、その位置に誘導した後は、イチのタイミング次第である。
イチには青服とえんじが背中越しに一直線になる瞬間を作って、それから矢を放つように指示を出した。そうすることでえんじが死角となり、イチが矢を放っても気づかれない状況となる。
後は放つことで案の定、えんじはその矢を避けた。しかし、その矢はその後ろにいた青服に当たるように仕向けられたものであったことに、えんじも青服も気づいていただろうか。
まぁ、気づいていたら絶対にこうはならなかっただろうけど。
結果から言って、この作戦はうまくいった。
しかしそれには、私たちに二人以上の体力があるのと、どれだけ相手に力を使わせるかが一番重要だった。
もしも、相手が体力温存型だった場合、この作戦は無駄であったが、近接戦闘に慣れていること、腕弓の早撃ちをしていたこと、そして、物操力をありったけつぎ込んでいたことを考慮すると、恐らく瞬発型だろうと予測を付けた。同時にそれはビンゴであったため、今回の作戦が成功したのだ。
少しおいてケイとマックスの方を確認する。どうやら向こうも終わっていたようだ。傷だらけだが、二人とも立っている。こっちに気づくとマックスが手を振って応えてくれた。
「どうやら、向こうも捕まえたみたいだな」
息を切らして汗を拭いながら、イチがそう話しかけてきた。
うん、と私は頷いて答える。ようやくこれで、この20年にも及ぶ事件に決着がついたということだ。




