第二章 ゼロの戦い
居住区とステラの第一研究室へ続くその廊下も、酷く崩れてしまっていた。
まともな照明のない暗い廊下は、足場も悪く、ゼロがライトで照らさなくてはまともに進むこともできない。ナタリーはゼロの後ろについて来てはいるが、少しゼロから距離を開けて歩くようになっていた。ゼロがナタリーとの距離を確認しようと振り向く度に、ナタリーはびくりと身を震わせた。
この廊下を進んで行けば、ナタリーたちクルス一家が生活していた居住区に辿り着くことができる。そこにある緊急時用の脱出艇を使えば、ナタリーを地球に帰してあげることができるのだ。
先程の固定電話での話を聞くに、オリジンは何故かナタリーを恨んでいるらしい。監視カメラを使ってゼロたちを見ているのであれば、オリジンがいるのは居住区にある警備室であろう。つまり、居住区にはオリジンがいるはずで、どうやら彼女の傍らにはジェイソンもいる。
脱出艇にナタリーを乗せるには、障害があまりにも多い。追ってくるサーバントの存在もある。右腕を失った今、ゼロにしてみても、これから先のことに不安を禁じ得ないというのが、正直な所であった。
しかし、更なる苦難がゼロとナタリーに降りかかる。
ゼロとナタリーが暗い廊下を歩いていると、何時の間にか、彼らの足音に加えてもう一つ、足音が廊下に響いていることに気が付いた。ゼロがその足音の主を確かめるため、ライトで辺りを照らす。ナタリーを抱え、守りながら。ゼロは周囲を探り、足音の主の姿を求める。
ゼロが照らす光の中に一瞬見えたのは、ずだ袋に開いた穴から覗く、見開かれた双眸。
ナタリーの悲鳴を合図にするように、一人のダッドがナタリーを襲った。ゼロは応戦しようとしたが、ダッドはゼロの腕がない右方向から、ナタリーの腕を掴んだ。ダッドを払いのけようと急ぎ振るわれたゼロの左腕は、既にダッドがいない空を切った。
ダッドはナタリーの肌に爪を立て、突き刺した。それから、ダッドはナタリーが抵抗することに逆上し、そのまま刺さった爪で肌を引き裂いた。
ゼロの視界に映ったのは、ナタリーの血。ナタリーの腕から血が流れたのを見るや、ゼロは怒りに囚われ、ライトを赤く光らせた。ゼロの拳がダッドの後頭部を殴打する。ゼロは倒れたダッドの上に跨り、ずだ袋に覆われたダッドの頭を、左手でひたすら殴り続けた。
ずだ袋の下から滲みだした血が、床にまで滴り始めた頃、ゼロはようやく我に返った。既に大量の血を流しているダッドは、息絶えてしまったようだった。
その凶行を、ナタリーが青ざめた顔で見ているとゼロが気付いた時には、何もかもが遅かった。
ナタリーはゼロを、怪物を見るような目で見つめていた。
闇に薄っすら浮かび上がる、血の滴るゼロの手をじっと見て、ナタリーの脳裏に恐怖の記憶が湧き上がる。
それは、血走った目をした女性が、ナタリーを襲う記憶。
「やだ、やだ、やだ……」
それは、狂ったように力強くナタリーをぶつ女性にナタリーが感じた、底知れぬ恐怖であった。
「恐い、恐い恐い恐い……!!」
ナタリーに手を振り上げる女性のおぞましい顔が、何度もナタリーの頭に浮かび上がって。
「嫌!!」
ナタリーはその場から、ゼロから、逃げ出した。
ゼロは、自分を見るナタリーの怯えた目に酷く戸惑った。ナタリーを恐がらせてしまったことを悔やみながら、もうナタリーが、自分を今までのように見てくれなくなってしまう気がして。
ゼロが戸惑い、立ち止まった時間は、そのままナタリーとゼロの距離を引き離した。
ゼロはなんとか気を持ち直し、暗闇の何処かへ逃げ去ったナタリーを追って、走り出した。
ナタリーを追って廊下を進むゼロは、廊下の分かれ道に差し掛かった。二手に分かれた廊下は、やはり電灯が壊れていて、どこまでも暗い。
ナタリーがどちらの道を進んだのか、何か手がかりはないかと探すゼロは、床に点々と続く血の跡を見つけた。
(ナタリーの腕から流れた血かもしれない)
ゼロはその可能性に賭けて、血の跡が残る右手の道を進んだ。血の跡は次第に途切れ途切れになっていったが、まだ乾ききっていない血に、ゼロはナタリーがこの道を進んだことを確信した。
暗闇をぼんやり照らすライトを頼りに、ゼロはナタリーを探し続けた。やがて、緩やかに下へと下っていく廊下は終わり、ゼロは一つの扉に辿り着いた。簡素な手動の金属扉である。その周囲は、ヘブンズガーデン内で起こったと思われる爆発の影響が少ないらしく、その扉は形をしっかり保っていた。
ゼロは扉のドアノブに手を掛けようとした。ドアノブには、血が付いていた。ドアノブを回して扉を開けると、ゼロの視界にいくつもの巨大な浄水槽が広がった。
そこはヘブンズガーデンの下層。ヘブンズガーデン内の生活に使われる水を作る、浄水場であった。
床に設置された円形の浄水槽の、少し上空に取りつけられた鉄板の道を、ゼロは歩く。浄水槽の底に取りつけられた電灯は壊れておらず、水色の灯りが水槽内の水を通って、浄水場全体を薄く照らしている。充分な光量だ。
ゼロは自身のライトを切って、浄水場の奥へと進んでいった。浄水場は三つのエリアに分かれており、それぞれのエリアは扉と廊下で区切られている。
ゼロが一つ目の浄水場エリアを抜けて、次のエリアに続く廊下へと出る扉に近づいた時だ。ゼロのセンサーに、悲鳴が聞こえてきた。
ゼロは急ぎ、扉を開けて廊下を走った。悲鳴は絶えず廊下の向こうから聞こえてくる。ゼロが廊下を出る扉へ辿り着き、扉を開けると――――
そこには、ナタリーがいた。そして、もう一人。
“一人”と言っていいのかは分からない。ナタリーの体を掴む巨体の怪物、サーバント。サーバントは、浄水槽の灯りに照らされて、不気味にその姿を闇に浮かび上がらせていた。
そのエリアの天井には、大きな穴が開いていた。どうやらサーバントは、その穴から降りてきたらしい。
「嫌!! 助けて!! お母さん!! お父さん!! ゼロ!!」
ナタリーの泣く声がする。ナタリーもサーバントも、まだゼロに気付いてはいない。ゼロは迷うことなく、サーバントに向かって行った。ナタリーを救うため、サーバントの背後から、その背中を蹴り飛ばすつもりでゼロは走る。
だが、片腕を失ったゼロのアンバランスな体は、ただ走るだけでも大きな音を立てた。サーバントはその物音を聞き取り、すぐさまそれに反応して見せた。振り返りざまに振られたサーバントの太い腕が、ゼロを強く殴り飛ばす。
ゼロは鉄板の道から転げ落ち、浄水槽に落ちかけたが、寸での所で浄水槽の端に掴まった。
「放して!! 放して!!」
ゼロが浄水槽から這い上がった時には、既にナタリーとサーバントの姿は消えていた。ゼロが辺りを見回すと、隣の三つ目のエリアにナタリーを抱えて去って行く、サーバントの後姿がちらりと見えた。
そして、サーバントは廊下の扉を壊した上に、隣のエリアの床の鉄板を引きはがし、鉄板を次々と投げつけて、廊下の道を塞いでしまった。
ナタリーを連れ去られてしまったゼロは、道を塞ぐ鉄板と扉に手を掛け、こじ開けようと精一杯力を入れた。けれど、壁や床に突き刺さっている鉄板はびくともしない。サーバントが降りてきた穴も、ゼロには到底届かない高さにある。
もう、辺りを破壊しながら進むサーバントの物音も、ナタリーの悲鳴も聞こえなくなって。
ゼロはこうして、非常の事態に陥ってしまったのであった。
ゼロはサーバントとナタリーが今何処にいるのか、その手がかりを求めて、浄水場周辺の地図を探した。
一つ目の浄水場エリアにまで戻ってきたゼロは、その入り口に求めていた地図を見つけた。
サーバントとナタリーが消えた三つ目の浄水場エリアの先には、上階の噴水庭園へ続くエレベーターが存在しているらしい。噴水庭園はステラの第一研究室のすぐ隣だ。そして、ステラの第一研究室を抜ければ、居住区へと続く廊下に出る。
(サーバントは、居住区に向かっているに違いない)
ゼロはそう確信すると、急いで浄水場を出た。地図によれば、先程の分かれ道をもう片方の道に進めば、第一研究室の方へと行けるらしい。今頃、サーバントはエレベーターの空洞部を無理やり登っているに違いない。
サーバントに追い付くためには、廊下から第一研究室方面へ向かい、噴水庭園に先回りするしかない。
ゼロは走った。ナタリーを救うため、なんとしても、サーバントに追い付かなくてはならない。ゼロの電子回路が思い浮かべるのは、ダッドを殺した彼を見る、ナタリーの怯えた表情。
恐ろしい怪物を見るようなその目は、ゼロの心を軋ませる。
ナタリーのその表情一つで、ゼロは自分の全てが否定されてしまったような気がした。ナタリーを守るための自分。イーストンに自我を与えられてから、ゼロはずっとナタリーを守るために努力しつづけてきた。いつだって、ゼロはナタリーの気持ちを考え続けてきたし、ナタリーを理解しようと悩んでいた。
守るべきであると、定められた存在であるナタリー。長い生活の中で、ゼロはナタリーのことを少しずつ理解していった。それと同じに、ナタリーもゼロのことを段々と理解していったはずなのに。ナタリーはゼロを恐れて、逃げてしまった。
今まで互いに積み上げてきた物が、たったの一瞬で、全て消え去ってしまうようで。ゼロはとにかく、恐かった。
ゼロが暗闇の廊下を進んでいると、壁に取りつけられた電光掲示板に、突如ノイズが走った。
そこに映ったのは、オリジンの顔であった。
「ゼロ。もう諦めなさい。サーバントが浄水場にいたのは、偶然じゃない。私がサーバントにあそこに向かうよう指示したの。あの子があなたから逃げ出して、浄水場へ逃げたのを監視カメラで見つけたから」
天井の監視カメラが動き、ゼロの方へ向く。オリジンはカメラを通してゼロを見て、ゼロに語りかけていた。
「ゼロ。あの子があなたに対して何をしたのか、忘れた訳ではないでしょう? あなたの記憶は、人間とは比べ物にならない程、はっきりと残っているはず」
暗闇の廊下に浮かぶオリジンの映像は、酷く不気味に思える。ゼロはライトを赤く光らせ、オリジンの言葉に反意を示した。
「また、あの子に裏切られてもいいの? あの子はあなたを選ばなかった。あなたではなく、家族とジェイソンを選んだ」
ゼロの赤いライトが、強く輝く。怒っていることを表すように、強く。ナタリーにではなく、画面の向こうのオリジンに向けての怒りを、ゼロは示した。
「ゼロ……。あなたは、サーバントにもジェイソンにも勝つことはできない。できることなら、強制停止装置を使ってあげたかったけど……。あれは、イーストンがプログラムを凍結させてしまった……。あなたはもう、苦しむことなく眠っていればいい。これが、最後の忠告」
オリジンは、電光掲示板のモニターの映像が消える前に、言った。
「もう、あの子のことは諦めなさい。ゼロ。あの子は、あなたに守られるべき存在ではない。あなたを裏切った、悪魔に他ならない」
モニターから映像が消えると、ゼロはモニターに拳を叩きつけた。
(ナタリーは裏切ったんじゃない。ナタリーは最後まで悩んでいた。きっと、そうに決まっている)
ゼロは少しの間、己を落ち着かせるために思考した。そして、ゼロは割れたモニターから拳を引き抜いて、ナタリーを助けるため、噴水庭園へと向かった。
ゼロが廊下の先に見た物は、床と天井が崩れて、廊下の途中から広がる、半透明の膜越しの宇宙空間であった。
ヘブンズガーデン各所で起こったらしい謎の爆発によって、建造物同士を繋ぐ渡り廊下が途中で壊れてしまったのであろう。等間隔で設置された、空間遮断エネルギーシールド、SSS(Space Separating Shield)によって、有酸素空間と宇宙空間とが区切られていた。有事の際はこうしてスペースコロニー内と宇宙空間を遮断しておかなくては、抜け出る空気に流されて宇宙に放り出されてしまう。
他にも道はあるようであったが、ゼロは遠回りする時間を惜しんだ。ゼロはSSSを通り抜け、宇宙空間へ出た。
廊下の続きは崩れて通れなくなってしまっているが、建造物にも渡り廊下にも、等間隔で非常用出入り口が取りつけられている。ゼロはそこから廊下の続きへ入るため、無重力の宇宙空間へ跳んだ。宇宙に機体を投げ出して、向かいの崩れた廊下の外壁に取り付いた。
ゼロの機体は無重力空間での活動がしやすいよう、手足の磁力装置でスペースコロニーの壁や床に張り付くことができる。ゼロは両足からの磁力で、廊下の外壁に立ち、非常用出入り口を探した。
ゼロが非常用出入り口を見つけ、その取っ手に手を掛けた時だ。
遠くにある建造物。ヘブンズガーデン居住区がある建造物の窓から、自分を見ている存在にゼロは気が付いた。
ゼロよりも遥かに人に近い形をした、人間の男性を模した、白い一機の人型ロボット。丸い頭部には、ゼロと同じく一つのライトだけが付けられ、全身には隙間なく装甲が取りつけられている。芸術彫刻のような、整った人体を模した機械。
完成機、ジェイソンの姿がそこに在った。
ジェイソンは見下すように、ゼロへと赤く輝くライトを向け、腕を組んで直立していた。
ゼロはジェイソンの姿を、複雑な想いを持って見つめた。嫉妬のような、悲しみのような。ジェイソンについてどう想えばいいのか、ゼロ自身にも分からない。
だが、確かにゼロにも認識できる感情が一つ。
それは、高みにある窓から、悠々と自分を見下すジェイソンに対する、“気に入らない”という嫌悪感。
ジェイソンがゼロに向け、軽くジェスチャーを見せた。それは、人差し指を立てて手前に曲げる、“Come here”(かかってこい)のハンドサインだった。
ゼロは怒り、ジェイソンに向けて赤くライト光らせた。ジェイソンはそれを歯牙にもかけぬ様子で、居住区の奥へと戻って行った。
ジェイソンが窓から姿を消すと、ゼロは非常出入り口から廊下の中に入った。
噴水庭園へと廊下を進むうち、ゼロが走らせておいた暗号解析プログラムが、一つの動画ファイルの暗号を解読し終えたことを知らせた。
廊下を急ぎ進みながら、ゼロは動画ファイルの再生を始めた。
◆◆◆
それは、イーストンが自身を撮影しながら話す、彼の独白記録であった。
「えー……、これはヘブンズガーデンでの生活を記録することを目的とした、映像記録だ。まあ、三日で飽きて日記帳に戻るかもしれないが」
自室で椅子に座りながら、へらへらと笑うイーストンの姿が、ゼロには無性に懐かしく感じられた。
「まずは、自己紹介をしておこう。僕はイーストン・クルス。このヘブンズガーデン計画の主導者である、ステラ・クルスの夫であり、彼女の研究の助手を務めている。結構前にニュースになった、“人間の記憶の電子化”を成功させたというのが、何を隠そうこの僕だ。すごいだろ?」
日付は、西暦二〇三〇年、十二月六日。一つ目の動画ファイルよりも、以前に撮影された物だ。
動画の中でイーストンが言った、“人間の記憶の電子化”というのは、人間の脳にある記憶を、HDD等の機械に電子情報として保存するという、イーストンの研究成果の一つだ。
その技術はゼロを作る際にも活かされたと、よくイーストンはゼロに嬉々として語ってくれた。
「ステラのことは、どちらかと言えばオリジンと呼んだ方が通りがいいかもしれないが、まあ許してくれ。僕らは娘のナタリーと、このヘブンズガーデンで暮らすことになった。ヘブンズガーデンは、“無重量状態下での動物の正常な発生”というステラの研究のための施設だ。要するに、“どうしたら宇宙で動物がちゃんと産まれてこられるのか、しっかり育つのか”っていう研究だね。ああ、やっぱりみんなは人間の赤ちゃんも、ちゃんと産まれてこられるのか気になるかい? まあ、それに関しては、僕の夜の頑張り次第かな! はっはっはっ!!」
前回の動画といい、この動画といい、一つのメモリーカードにまとめてあることに一体どういった意味があるのか、ゼロには理解できなかった。単に、ヘブンズガーデンの様子を伝えるだけの動画だ。それ以上の意味があるとは思えない。イーストンの下らないジョークに価値があるとも思えない。
「あとは、僕自身の研究のためでもある。ヘブンズガーデンには僕の作業場も用意してもらったんだが、これがなかなか使いやすい。製鉄は設定した通りに自動でやってくれるし、加工するための設備も揃っている。これらを使って僕が作っているのが、そう。ロボットだ」
走ることに傾けていたゼロの意識が、少しだけ動画に移る。
「地球で作っていた試作機をヘブンズガーデンに持ち込んだ。僕は“ゼロ”と呼んでいるが、こいつの調整も済みつつある。そろそろ実際に動かしてみようと思っている。最近では様々な現場にロボットを投入するのも当たり前になったが、ゼロと他のロボットの違いは、彼のAIにある。僕が組んだこのAIは、人間の心に限界まで近づけた物だ」
動画の中で、イーストンが興奮気味に語る。
「学会では反対意見も多くでたし、ステラにも猛反対されたが……。僕が作らなくても、いつか誰かが作るだろう。その誰かが、人間とロボットの関係を間違った方向へ導かないよう、僕が先にそれをしなくてはならない。今回は、護衛用のロボットにこのAIを実践的に載せるということで、各界の協力を許された。危険行動を取らないようプログラムをし、その上、強制停止機能まで付けた」
かつて、イーストンがゼロに直接話してくれた話であった。いつもおちゃらけているイーストンが、突然真面目な話をするものだから、ゼロは心底驚いたのを覚えている。
「ゼロを作るのは、僕等にとって何よりも大事な、ナタリーのためでもある」
段々と落ち着いてきたイーストンは、優しげな口調でナタリーの名を出した。
「人間とロボットは友達になれる。ゼロは、きっとナタリーの友達になってくれる。ナタリーはこのヘブンズガーデンで一人だ。仕方がないとはいえ、あの子には可哀想なことをした……」
しかし、イーストンの表情はすぐに、至極暗く、目に強い力を感じる物へと変わる。
「ナタリーは、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群、ウェルナー症候群に代表される、早老症を患っている。ナタリーの早老症を、ステラは“クルス・プロジェリア症候群”と名付けた。クルス・プロジェリア症候群は新種の病気で、ステラが研究して作り出した六種の薬を定期的に服用しなければ、ナタリーは体の一部機能を失ってしまう。それに、薬がなくては、体の老化が著しいスピードで進行してしまう。放って置けば十歳を迎える前に死んでしまう所だったが、薬によってなんとか寿命を二十代前半にまで引き延ばすことができた。幸い、老化の進行も食い止められている。ナタリーは髪も抜けず、年相応の外見でいられているよ」
クルス・プロジェリア症候群。ナタリーが産まれた時から課せられた、呪いだ。
「クルス・プロジェリア症候群は、先天的な遺伝子異常が原因だ。薬で誤魔化しても、根本的な解決にはならない。だが、去年、ステラの実験が信じられない可能性を示した。宇宙から降り注ぐ放射線である、宇宙線の量が大きな場所でなら、ナタリーの病気の進行は自然と遅くなると言うんだ。例えば、スペースコロニーの中とかね。薬の効果と合わせれば、三十代か、四十代まで生きることができるようになると予想されている」
これも、ゼロがイーストンから聞いていたことだ。ステラが開発されたばかりの放射線装置を使い、ナタリーの病気の進行速度のデータを取った結果、分かったことであるとか。
前代未聞のその論文は、数々の反論を受けながらも、ステラが娘のために新たな可能性を掴み取ったということで、認められていったという。
「病気の進行を遅くしながら、その間にナタリーの治療法を探す。地球では今も、クルス・プロジェリア症候群の研究が進められている。僕らは地球からのデータを受け取りながら、本来の研究と並行して、ナタリーの治療法を研究する。文献データも通信で受け取れるし、研究は順調にいくだろう」
ゼロは、ナタリーが辛い運命を背負って生きていることを知っていた。とても儚いナタリーを彼が守ろうと思うのは、決してプログラムのせいだけではない。
「“無重量状態下での動物の正常な発生”という研究は、各国の支援を受けて、この宇宙生活を手に入れるための手段だ。そう言っても、この研究は未来の人類の宇宙進出にかかせない物になるだろう。僕らはその責務を全うするつもりだ。その上で、娘を救う。とても難しいことだが、やり遂げてみせるよ」
イーストンが傍に置いてあったペットボトルの水を飲み、一息ついた。
普段はふざけた態度を取っているが、イーストンは強い信念を持つ人間であったと、ゼロは思っている。ステラはゼロに対して基本的に冷たかったが、イーストンはゼロの産みの親でありながらも、良い友人として接してくれた。
イーストンが動画で言っていた、“人間とロボットは友達になれる”という言葉は、決して上辺だけの物ではない。
「あぁ、疲れた。ちなみにこの動画は、四テイク目だ。もう二度とやらないよ。ははっ」
そして、イーストンは立ち上がり、カメラの電源を切った。
◆◆◆
動画が終わると、もう噴水庭園はすぐそこにまで迫っていた。
(この動画たちが伝えたいことは、何なのだろう)
今の動画の中でイーストンが言っていたことが、あの焼死体と、このヘブンズガーデンとどう関係があるのか、まだゼロには分からない。
それでも今は、守るべき存在のために、ゼロは走った。
噴水庭園に入るための扉をこじ開けて、ゼロは中に入った。
扉が壊れていなかったことを考えると、サーバントはまだ噴水庭園を通ってはいないと思われた。ナタリーを助け出すチャンスは、まだ残っている。
ゼロは暗い噴水庭園をライトで照らす。入口に電灯のスイッチはあったが、ゼロは電気を点けなかった。噴水庭園も温室程ではないにしても、それなりの広さを持っている。ゼロは視覚よりも聴覚を頼りに、サーバントとナタリーの存在を探った。
ゼロの足が何かを蹴とばした。芝生の上を滑るそれは、一本の園芸用の鎌であった。倉庫にしまい忘れたままであったのであろうそれを、ゼロは拾った。サーバントに対して通用するかは分からないが、右手が無くなってしまった今、致命傷を与えるためには武器が必要だ。
ゼロがライトで周りを見渡すと、木製の倉庫小屋が見つかった。ゼロの記憶では、これはイーストンのお手製の小屋だったはずだ。壁際に建てられたその倉庫小屋には、様々な園芸用具がしまわれており、倉庫小屋の裏には、電灯のスイッチがあった。一応、ゼロはその倉庫の場所を覚えておくことにした。
そして、ゼロが庭園の中腹辺りに来た時だ。ゼロは暗闇の向こうから聞こえてくる、獣のような呻き声を聞き取った。
ゼロはライトを切って、闇に紛れた。
芝生を踏みつける重い足音が、少しずつ近づいてくる。機械の体を持つゼロは、人間とは違い、微細な体の揺れを起こさずに、静止していることができる。CPUの処理を減らすことで、冷却機のファンが回る音さえ極限まで抑えることが可能だ。
一つの物と化して、サーバントを待ち構えていたゼロは、闇の中に響く唸り声が迫るのを待った。
ついに呻き声が目の前を過るとき、ゼロは闇にゆらりと蠢く、サーバントの姿を見つけた。それに、サーバントに担がれるナタリーの姿も。
ゼロは鎌を振り上げ、サーバントに襲い掛かった。鎌はサーバントの左肩に突き刺さり、不意を突かれたサーバントが叫び声をあげる。
サーバントがナタリーを掴む腕の力を緩めた時、ゼロはナタリーを一気に己の胸に抱き寄せた。
「……、ゼロ!!」
ゼロの片腕に抱かれて、ナタリーは泣き腫らした顔に、安堵と喜びに満ちた表情を浮かべた。
「ごめんね、ごめんね……。ゼロ、私……」
ゼロはナタリーの背中を軽く手で何度か叩いて、ナタリーにライトを青く光らせた。
ナタリーの必死に謝る姿が、ゼロに昔のことを思い出させる。ゼロが電源を切られて、倉庫にしまわれてしまう前、ナタリーは同じように泣きながらゼロに謝っていた。
遮蔽物一つない噴水庭園で、ナタリーを連れて逃げるのは不可能だ。ゼロはナタリーを連れて、壁際に走った。そして、ゼロは先ほどの倉庫小屋へと向かい、その裏にある電灯のスイッチを入れた。
電気が点いて明るくなった噴水庭園が、その全景を見せる。
遠くに見える噴水は、噴水口が壊れてしまっていた。水も出ていないようで、池には何やらゴミのような物が大量に入れられていた。
明るい場所でなら、まだゼロにも戦いようがある。勝算は無いに等しいが、ゼロはナタリーに噴水庭園の入口を指差した。
「ゼロ……。危ないよ。ゼロも逃げよう……?」
ゼロは首を振った。サーバントから普通に逃げ切るのは不可能だ。だから、サーバントを足止めするか、ここで倒す必要がある。
サーバントがゼロたちの方へ向かってくる。肩に刺さった鎌を引き抜き、投げ捨て、咆哮を上げて走り出す。
ゼロはナタリーに早く行くよう、背中を押した。
「ゼロ……。……、私、待ってる! ゼロのこと、待ってるから!!」
ゼロの手を握ってそう言ったナタリーが、走って行く。ゼロはそんなナタリーの様子に、自分が嫌われてしまったのではないと分かり、心底安堵して。ナタリーを守るため、ゼロは迫りくるサーバントに立ち向かった。
サーバントの拳をかわして、ゼロはサーバントの脇腹を殴った。サーバントは痛がりこそしたが、やはり大して効いてはいないようだ。
怒り狂って追ってくるサーバントから逃げ、ゼロは物置小屋へと入った。サーバントはすぐさま、物置小屋の壁を殴り壊したが、ゼロはそれを読んで、小屋の反対側に待機していた。
ゼロのその手には、一本の鍬が握られており、鍬を握るその手は――――
高く、高く、振りかぶられていた。
ゼロが鍬を振り下ろすのは、小屋の壁に空けた穴から、中に身を乗り出すサーバント。優勢を信じ切っていたサーバントは反応できず、鍬の刃は背中に深く突き刺された。
サーバントの悲鳴が庭園に鳴り響く。ゼロは鍬からすぐに手を離し、次は鎌を手に取った。鎌の刃で、サーバントの首を斬りつけようと振りかざす。
しかし、サーバントは鍬が刺さったままで暴れ始めた。ゼロはサーバントの腕に殴られ、小屋の壁を突き破って、芝生の上に転がった。
サーバントは背中に刺さった鍬を抜き、それをゼロに投げつけた。鍬の刃がゼロの体に当たったが、幸い、数少ない腹部の装甲に当たってくれた。サーバントに殴り飛ばされても、手から鎌を放さなかったゼロは、その鎌でサーバントの首を切る隙を窺がった。
人間よりも強い力を持っているゼロだが、異常に発達した筋肉を持つサーバントには遠く及ばない。サーバントの拳をガードすれば、ゼロに残された左腕はいとも容易く打ち砕かれてしまうだろう。ゼロには、なんとかサーバントの暴力をやり過ごし、道具を使って致命傷を与えるしかない。
だが、サーバントはゼロの数少ない勝機を知ってか知らずか、ゼロに近寄らず、周囲の物を投げつけ始めた。
「ゼロ!! ゼロ!! ゼロォオオオオオ!!」
高速で飛んでくる瓦礫や鍬を、ゼロは走り続けることでかわしていく。周囲に投げる物が無くなると、サーバントはゼロに素早く近寄った。
ゼロは瓦礫をサーバントに投げながら、細かく動き回り、サーバントの大ぶりな攻撃を待った。とにかくサーバントを苛立たせ、隙のできる攻撃を仕掛けてきたのを避け、その隙にサーバントの首を切るのがゼロの狙いだ。
ゼロの狙い通り、サーバントは怒りを露わにし始めると、ゼロに向かって全身を使った打撃を繰り出した。ゼロは機械特有の無駄の無い動きでそれを避けて、背後に回り、計算通りに鎌を振るった。
けれど、首を狙って振られた鎌は、サーバントに傷を付けはしなかった。サーバントは首を百八十度、人体では有り得ない動きで回転させて、鎌の刃を歯で受け止めたのである。
サーバントの人間と同じ形状の歯が、鎌を強く咥えた末、その刃を噛み砕いてしまった。
予想外のサーバントの動きに、ゼロは反応しきれず、サーバントに体を掴まれた。ゼロの思考回路は危険を察知したが、それに応じた動きは存在しないことを、ゼロは同時に理解した。
サーバントの圧倒的な筋力によって、ゼロの体は投げ飛ばされる。芝生と地面を抉って、体全体の装甲と機構が壊れながら、ゼロは地面を転がった。
ゼロが立ち上がろうとした時、ゼロは自分の右脚の動きがおかしいことに気が付いた。右脚を確認すると、右脚のひざ部分の関節に、深々と鉄の破片が突き刺さっていた。
転がった勢いで、地面に落ちていた鉄片が刺さってしまったのであろう。ゼロは右脚もまともに動かなくなり、立ち上がり損ねて、よろめいた。
怒りに駆られたサーバントは、隙だらけのゼロに襲い掛かる。サーバントが力任せに、ゼロの胴部を殴った。ゼロはまた殴り飛ばされて、噴水のゴミが溜まった池に突っ込んだ。
CPUをフル稼働させて、サーバントへの対抗策を探すゼロは、噴水池を間近で見て初めて、“それ”に気が付いた。
噴水池に放り込まれ、積まれていた、“それ”。“それ”はただのゴミなどではなく、死体であった。
ずだ袋を被らされた者と、被らされていない者。
ずだ袋を被らされていない死体は、髪を全て引き抜かれ、焼きごてを当てられたかのように顔が焼け爛れていた。
以前、ゼロが確認したダッドと同じ。ずだ袋を被っている死体も、ずだ袋を取れば同じ焼かれた顔を見せるだろう。
そこにあったのは、全てダッドの死体であった。
かつては美しかった噴水が、今ではダッドの死体遺棄場と化していたのだ。
飛び掛かってくるサーバントの巨体を避けられず、ゼロは死体の山に埋もれた。サーバントはゼロの上に馬乗りになって、ゼロに拳を振り下ろす。ゼロは左腕で頭部を守ったが、左腕は衝撃に耐えられず、破砕音を発しながら壊れて行く。
左腕だけでは守り切れず、ゼロの頭部にサーバントの拳がめり込んだ。ゼロの視界にノイズが走り、プログラムがゼロの視界を赤くして、危険を知らせる。
体を動かそうとしても、上に乗るサーバントは重く、どう足掻いてもどかすことはできない。もはやどうしようもないと、ゼロには思えた。
サーバントの圧倒的な暴力に、ゼロが屈しかけた時――――
ゼロのHDDに保存された記憶が、とある音声が、自ずから再生された。それは、彼にとってとても大切な人の声。
ナタリー・クルスの、声だった。
「ゼロ……。……、私、待ってる!」
(――――負けられない)
「ゼロのこと、待ってるから!!」
(――――こんな所で、終われはしない)
ゼロは咄嗟に、左手に触れたダッドの死体を掴んだ。そしてそれを、サーバントに向けて力任せに投げつけた。死体はサーバントの顔に当たり、サーバントが視界を奪われた一瞬に、ゼロは左腕から欠けて落ちた装甲を拾い、サーバントの喉に突き刺した。
サーバントがゼロの上から離れ、首本を押さえて苦しがる。ゼロは急いで起き上がり、歩きながら、右脚がどこまで動かせるか確認した。
走ることはできないが、立ち上がったり、歩いたりするくらいなら可能であるようだった。サーバントが苦しがっている間に、ゼロは物置小屋へと、右脚を引きずりながら急いだ。
「ゼロ……! ゼロ! ゼロ!!」
サーバントは喉に刺さった装甲の破片を引き抜いたが、喉まで貫通した傷は、食道と気道に血を流していく。サーバントは喉を掻き毟り、次第に怒り出して、地面に拳を叩きつけ始めた。
窒息するかしないかのぎりぎりの苦しみに、激しく咳き込みながらも、サーバントは激情していく。苦しみを誤魔化すように、サーバントは闇雲に暴れ回った。地団太を踏んで地面を大きくへこませ、壁を叩き崩し、壁には大きな穴が開いた。
壁に空いた穴の向こうに見えたのは、宇宙空間。衛星内の空気が宇宙空間に抜け出し、強い空気の流れが発生した。激しい空気の流れは、庭園内のあらゆる物を宇宙に吐き出そうとするだけでなく、さらに穴を大きくしてしまった上、庭園の地面とその下にある重力発生装置を破壊した。
サーバントは地表に突き出てきた水道管に掴まり、空気の流れに逆らった。
その後すぐに、壁の中のセンサーが反応し、穴を塞ぐように、SSSが張られた。異常が発生した庭園を隔離するため、ナタリーのいる廊下と庭園の間にも、SSSが張られた。
重力発生装置が壊れたことで庭園内の重力が消え、ゼロの体が軽く宙に浮かんだ。
ゼロの手には、一本の金槌。その金槌は、空気の流れに乗って、物置小屋の跡からゼロの近くに飛んできた物だ。
ゼロは足の装置から磁力を発生させ、壁に足を着けて、地面と水平に立った。ゼロのライトが向くは、壁の大穴の近くで、水道管に掴まるサーバント。
互いに限界まで追いつめられ、この無重力下で、ゼロとサーバントの戦いは最後の局面を迎えた。
ゼロとは違い、サーバントは無重力状態では、重力のある時のようには動けない。サーバントは地面や壁に掴まりながら、なんとか体勢を保っている。
壁を蹴り、ゼロがサーバントに迫った。壁に手を付くサーバントへと、ゼロの体が宙を飛ぶ。ゼロが金槌で、サーバントの後頭部を狙う。サーバントは金槌を腕で防ぎ、サーバントも壁を蹴って、宙へ跳んだ。
ゼロは左手から磁力を発生させてから、壁を蹴る。そのままドーム状の天井に手で張り付き、そこから天井を押して跳び、次々と素早く移動して、サーバントを攪乱していく。サーバントはゼロを見失い、ゼロはそんなサーバントの背後に跳んだ。
しかし、ゼロが間合いに入る直前、サーバントは突如、壁を殴りつけ始めた。
壁を殴り、穴を開け、そこから空気の奔流がゼロとサーバントを襲う。サーバントは壁の装飾に掴まっていたが、宙を飛んでいたゼロは穴に吸い寄せられてしまった。
穴から宇宙空間に体が出切ったところで、ゼロは穴の縁を掴んだ。直後にSSSが張られて空気の奔流は収まったが、サーバントは次々に壁を壊していく。室内に戻ったゼロを、空気の奔流が飲み込んで、壁の穴へと吸い寄せる。
庭園内にあった全ての物を、空気の激流が壁の穴から無限の宇宙へと、押し出していく。
噴水池に集められたダッドの死体も、床から剥がれた芝生や倉庫の道具も、壁に掴まるゼロとサーバントにぶつかってくる。
サーバントは依然、壁を殴り続けている。これ以上は耐えられないと、ゼロは軋む左腕に危機感を持った。だから、ゼロは最後の賭けに出た。サーバントが壁に穴を開けた時、ゼロは空気の流れに身を任せた。
穴に吸い込まれていくゼロは、穴を開けたサーバントへと、急速に引き寄せられる。ゼロは近くなっていくサーバントからカメラを逸らさず、左手の金槌を振りかぶった。
狙うのは、サーバントの後頭部。如何に発達した筋肉を持っていようと、筋肉の薄い後頭部は、外部からの衝撃も通るはず。
引き寄せられる勢いのままに、ゼロは必死に壁に掴まるサーバントの後頭部へと、金槌を叩きつけた。高速度とゼロの力が加わった金槌は、サーバントの脳を大きく揺さぶった。
脳震盪を起こしたサーバントは、激しいめまいに襲われる。
ゼロはサーバントの背後に回り、全力でサーバントの背中を蹴り飛ばした。宙に蹴り飛ばされたサーバントの先には、半透明のSSS越しの宇宙空間が見えた。
サーバントはすぐに意識を取り戻したが、その時には、既に手遅れであった。宇宙へと放り出されたサーバントは、手足をばたつかせ、掴まるものを探して足掻いていた。
ゼロがSSS越しにサーバントを確認すると、サーバントはゼロに手を伸ばし、何かを必死に言おうとしていた。
ゼロには、サーバントが何を言っているのかが分かった。サーバントは、呼んでいるのだ。
ゼロを。
ゼロの名前を。何度も。何度も。
次第に、サーバントは酸欠になり、全身の体液が蒸発し、その体は乾いていった。そして、サーバントは息絶え、宇宙の彼方へと消えていったのであった。
戦いは終わった。
けれど、ゼロの心はどういう訳か、サーバントの最期の姿に、無性に悲しさを感じていた。
その理由は、ゼロにも分からなかった。




