ある少年の日記
○月×日 晴れ
今日、お父さんとお母さんと僕と妹で、美じゅつかんに行った。
ぼくが描いた作品が賞をとって、その賞品に美じゅつかんの無料けんをもらったんだ。
三人とも楽しそうで、ぼくはとってもうれしくなった。
お父さんにしおりを買ってもらった。一生大事にするって決めた。
○月×日 晴れ
今日はぼくの誕生日だった。
お父さんもお母さんもプレゼントを買ってきてくれた。
お父さんは地球儀、お母さんは文ぼう具セット。
ぼくはこれで、これからもたくさん勉強するんだ!
妹はお金がないからプレゼントは買えなかったって言ってたけど、かわりにぼくの頬にキスをしてくれた。
それだけで十分だ。
○月×日 晴れ のち くもり
今日はとってもいやなことがあった。
お父さんの高いつぼを壊してしまった。
どうやらそのつぼは、えらい人にあげるつぼだったらしい。
お父さんは凄く怒った。謝っても許してくれなかった。
○月×日 くもり
お父さんがぼくを見てくれない。
妹もお母さんもぼくを心配してくれるけど、でもお父さんは……。
ぼくのせいだ。ぼくがお父さんのつぼを割っちゃったから。
ごめんなさい、ごめんなさい。
○月×日 くもり のち 雨
妹が死んだ。事故だった。
ぼくはとなりにいたのに、助けられなかった。
血がたくさんだった。もう嫌だ。
ぼくのせいだ。ぼくのせいだ。ぼくのせいだ。
となりに、いたのに。
ああ、明日は妹の誕生日だったな。
○月×日 雨 と 雷
お父さんもお母さんも、妹が死んでから一言もしゃべってない。
きっとぼくのことが嫌いになったんだ。
お母さんも前までは話してくれたのに、もう、見てくれない。
……胸がちくちくする。ぼくも、どうかしちゃったんだ。
月 日 あめ と かみなり
さいきんはずっとあめだ。かみなりもなってる。
このまえまでは、おひさまもぴかぴかで、はれだったのに。
いまでは、みるかげもない。
……ぼくは、どうすればーーー。
どんなに謝っても、どんなに話しかけても。
見てくれない。反応してくれない。
ぼくは、本当に存在していた?
妹の唇の感触も、お父さんの平手の感触も、本物だった。
なのに、みんなぼくがいないみたいに過ごす。
ずっとこのままなくらいなら、いっそ。
数日後、少年は死体で発見された。