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交差点  作者: ケリッド
19/19

交差19 キティちゃんのキーホルダー

若菜編。更新遅れました。

「起立!!気を付け、礼!!」

「さようなら」

 帰りのホームルームが終わり、生徒がゾロゾロと教室から出ていく。


「う〜〜〜ん」

 私は大きく伸びをした。

 6時間ずっと受けてきた授業から解放されるこの時が、最高に気持ちが良い。

「ん〜〜っと、さぁ私も帰るか。優夏〜」

 私は机にかかっている鞄を手に取り、優夏の元へ足を運んだ。

 優夏は今頃机の中から教科書やノートを鞄の中に入れている。

 普通帰りのホームルームが始まる前にはみんな帰る支度をする。号令と同時に早く帰りたいからだ。

 それは私も変わらない。

 でも優夏はいつも号令してから支度し始める。

「もう優夏、今頃支度してんの?遅いよ〜」

 ようやく支度が終わり、優夏は立ち上がった。

「えへへ、マイペースマイペースぅ」

 優夏はニコッと笑って言う。その笑顔はやっぱり可愛い。

「あら、そう」

 …調子狂うな。

「あ、若菜ぁ、ごめん、今日一緒に帰れないのぉ」

「えぇ、なんでさ?」

「えへへ、ちょっと用事なのぉ」

「用事?何の?」

「バイトの面接ぅ」

 優夏はピースをしながら笑顔でそう言った。

「へぇ、優夏バイトするんだ」

「うん。じゃあ遅れたら困るから行くねぇ。じゃあねぇ〜」

「あ、ちょっ…」

 優夏はスカートを揺らしながら走って教室を出ていった。

 あののほほんとした性格の優夏がバイトなんて勤まるのか疑問に思いながら私も教室から出た。


 玄関で靴を履き替え、校庭に出た。

 校庭ではいろいろなところから音が聞こえる。

 グラウンドからは野球部やサッカー部の声。

 体育館からはバスケ部やバレー部のボールをつく音。

 音楽室からは吹奏楽部の演奏。

 そして校庭で交わされる生徒たちの話し声。

 そのいろいろな音が合わさり、まるでオーケストラのような、あるいは歌のような、そんなふうに聞こえる。

 激しくない、とても静かで、それでいて1つ1つの音に喜びや情熱、そのようなものが感じられる。

 みんなそれぞれ、『今』を楽しんでいる。


 そして私はふと思う。

“私は『今』を楽しんでいるのか?”

“この校庭に広がる歓喜の歌の中に私の居場所はあるのか?”と。

 答えはNO。

 毎日同じことの繰り返しの日常を永遠に過ごさなければならない。

 そんな日常の中に私は楽しみなんか感じない。

 そう考えると、悲しくなった。

「みんなが羨ましい…」

 私は小さく呟き、校門を出た。


 私はいつも優夏と通る駅までの道を歩いている。

 私の家は学校から少し遠く、最寄りの駅から4つ行ったところに学校がある。

 だから帰りは優夏と一緒に駅まで帰る。

 優夏と私は家が逆方向なので一緒に帰るのは駅までだ。

 まぁ、今日は優夏がいないので1人で帰っているが。

 チリンチリン!!

 後ろから自転車のベルが鳴った。

 振り返るとうちの学校の生徒だった。

 通学路の道はとても狭く、2人並列で歩くと幅が無い。

 当たり前の光景。

 私は当然のごとく、道を譲る。

 自転車が通り過ぎ、私はまた歩き始めた。

 するとまた後ろからチリンチリンとベルが響いた。


 自転車多いな…。


 また道を譲る。


 学校が終わったばかりなので通学路は生徒だらけ。

 私みたいに1人で帰る生徒。

 友達と帰る生徒。

 自転車で帰る生徒。

 彼氏彼女と一緒に帰る生徒。

 みんなこれからどうするのだろう。

 また1人ひとりに“選択肢”が与えられる。 ま、その選択肢も『遊ぶ』か『帰る』の2通りくらいだろう。

 私はもちろん後者。

 優夏がいれば遊んだり、買い物したりするんだけど。

 あ、でももし、優夏がバイトの面接で受かったら遊ぶ機会も少なくなるな。

 何で突然バイトなんかしようって思ったのだろうか。

 別に優夏の家はお金に困ってないし、むしろお金持ちの方だ。お小遣いだって結構貰ってるのに。

 まぁ、私には関係ないことだ。

 優夏だって何か考えを持ってのことだろう。


 そんなことを考えているうちに、私は駅に着いた。

 駅には思ったほど学生がいなく、チラホラ制服が目に入る程度だった。

 やっぱり学校が終わってまっすぐ帰る人なんてあまりいないのだろう。


 私はケータイを開いて時間を確認した。

 電車が来るまでまだちょっと時間がある。

「本屋にでも行こうかな…」

 私はケータイを閉じ、駅前の本屋に行くことにした。


 駅を出て本屋に行く途中、私は突然知らない男2人組に声をかけられた。

「ねぇ、君今暇なの?」

 は?

「え、いや…、あの…」

「暇だったら俺らと遊ばない?」

 これは俗に言う『ナンパ』?

 ナンパなんてされたことないし、もともと人見知りな私はこの状況でどうして良いかわからなかった。

「え…、ちょっと、困ります…」

「困りますとか可愛いね〜」

 何この人たち…。

「遊ぼーよ、ほら早く」

 男の1人が私の腕を掴んでムリヤリ連れていこうとする。

 イヤだ…、怖い…。

「や、やめてください!!」

「おぉっと、いいねぇ」

「君気が強いね〜」

 掴まれてる腕を引き離そうと必死に抵抗するが、相手は男。力の差は歴然としている。

「離してください!!」

「離したら一緒に遊んでくれる?」

 男たちはヘラヘラ笑いながら言う。

 怖い…、誰か助けて…。

 私の『本屋に行く』という選択は間違いだったようだ。

「早く行こう…あ、悠也ぁ!!」

 男たちは私から視線を後方に移した。

 何、また1人増えるの…。

 恐怖から私の体が震える。

「おい、お前ら、その子は俺の女だ。手出したらどうなるかわかってんのか」

 は?

 私は驚いて後ろを向いた。

 うちの学校の制服。

 そしてどっかで見た顔がそこにあった。

「マ、マジか、わりぃわりぃ…。じ、じゃあ俺らはもう行くわ!!じゃあな!!」

 ナンパしてきた2人組は走ってどこかに行ってしまった。

「大丈夫ですか?」

『悠也』と呼ばれる人が、まだ怖くて震えてる私に優しく声を掛けてくれた。

「だ、大丈夫です…」

「すいません、勝手に俺の女って言ってしまって」

「いえ、助かりました…」

 私は顔上げ、その人の顔を見た。

 どっかで見た顔なんだよな…。

「ん?どうかしました?」

 私は気付かぬうちにじっとその人を見ていた。

「い、いえ!!あ、助けてくれてありがとう、私もう行きますんで」

 なぜか私はいてもたってもいられなくて、逃げるように立ち去ろうとした。

「あ!!カバン忘れてますよ!!」

 気付けば私は何も持っていなかった。

 恥ずかしい…。

「あ…、キティちゃんのキーホルダー…」

「は?」

 なんだ?この会話。前もどこかで…。

「あ!!マックで紙コップ拾った人だ!!」

 あ、私、つい大声だしちゃった。

「覚えてましたか?」

 その人はニコッと笑って言った。

「ええ、まぁ…」

 今思い出したんだけど。

「それは嬉しいです。はい、これ」

 そう言ってその人は丁寧にカバンを差し出した。

「あ、ありがとう」

 私は少し戸惑いながらカバンを受け取った。

「それじゃあ俺はこれで」

 その人は軽く手を上げ、行こうとした。

「あの!!名前、なんて言うんですか?」

 私は自分の口からそんな言葉が出た後にびっくりした。

 なんでそんなこと聞いちゃったんだろう。

「俺は木ノ下悠也。君は?」

 木ノ下悠也か…。

「私は中村若菜です」

「中村さんね、覚えておくよ。それじゃあ」

 木ノ下くんはそう言って駅の方へ行ってしまった。

「良い人だったな…」

 木ノ下くんの後ろ姿を見ながらそうつぶやいた。

 そこでまたまた視界に入った時計を見た。


 あ、電車行っちゃった…。

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