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 わたしの疑問は置き去りに、説明は続きます。


「ある事情から、我が公爵家では次期公爵夫人にどうしても突然変異種を迎える必要があった」


 わかります、ルーファス様。だから落ち子さんが理由ですよね、ええ。なので背後から囁くのはやめてもらえませんか。耳がくすぐったくてしょうがないんです。


「けれど闇市に出品されるのは五歳前後の子供ばかりです。これはと思うほど力の強い者を手に入れたとしても、数年たたずに命を落とすことがほとんどでした」


 淡々と話してますけど、結構内容がシビアじゃないですか。明らかに子供買ってますよね?わたしが過去の記憶を持ってなかったら間違いなく引っ立てられていたブラックマーケットで、それも数人。言葉の端々がおっかないのはデフォルトなんですね、フィンレイ様…。


「そこで苦肉の策として、己の魔力を餌に貴族と婚姻を結んで金を巻き上げようと企む、突然変異種を探すことにしたんだ。奴らは魔力の発現が比較的遅く、そのぶん力が弱いことが多い。それでも子供を産めるほど健康で貴族の末端程度の魔力は有しているから、贅沢を餌に吊り上げればいいと思っていたんだがな」


 カルヴィン様は、陽気で能天気だと登場シーンで感じたんですが、意外にも現実主義者であるのか淡々と他人の利用方法を語っておいでです。兄弟だね、血ですか。おっかないな。


「メイドを雇うのに紹介状を求めず、フランクに面談で魔力の有無を確かめさせ雇い入れる。その後、私かフィンが直接魔力量を見極めて、なんとか公爵家の血を残せそうならば契約を結んで子を産んでもらおうと思っていたんだが」

「それがどうしたらこんな状態になるわけで?」


 非常に不本意な膝だっこから無理やり体を捻って振り返り、背後で柔らかにほほ笑むルーファス様に不機嫌を隠しもせずに問うと、決まっているとのご返答。


「粗悪品でも体裁が整っているならばと諦めていたところに、滅多にない極上品が手に入れば舞い上がるだろう?」

「人を掘り出し物みたいに言わないで下さい」

「そんな失礼なことは思わないさ。眠れる財宝と言ったところかな。鑑賞もできる上、利用価値もあるんだから」

「失礼極まってますね。だいたい髪が白いってだけで、顔かたちが美しいわけでもないものを眺めてどうするんです?」

「?絶色は眺める価値があるだろう。珍しいんだから」

「………」


 噛み合わないな、会話が。美醜の基準がどうのというよりも、価値観の問題なんですかね。

 この星に生まれ育って十六年、それなりに常識を身に着けたつもりでしたが、三つ子の魂百までと申します。どうしたって遠い昔の記憶が、それは違うだろうとツッコミを入れてくるんですよ。

 でもま、ありましたか、珍獣ブーム。薄ピンクの水生生物とか、首周りにでっかい幕を張るトカゲとか、どう見たって可愛くないでしょうそんなものを、みんながこぞって眺めていたこと。

 わたし、きっとそれと同レベルなんですね。ああ、追加オプションとして有能な子供を必ず産めるってことで更にもてはやされるのか、そうなのか…。


 この星の人権擁護団体は、どこ?


「自分の目で見て初めて、色を抜いた髪と絶色では美しさが違うのだと知りました。この艶、輝き、素晴らしい…」


 シャンプーのCMですか。


「それほどお気に召していただいたなら、切って差し上げましょうか?」


 うっとりと表現するのがぴったりな、いっちゃった目つきのフィンレイ様に、下ろしたままだった長い髪をひと房とって示すと、横から手を出してきたカルヴィン様がどこから出したのか小型のナイフで十センチほど毛先を切断してくれました。

 あら、遠慮の無い、と笑う暇もなく、その先の現象に目を見開いちゃいましたけど。

 真っ白だった髪が、見慣れた黒髪に一瞬で変わったんです。マジック!手品も真っ青、超魔術ではありませんか!

 タネはどこ?仕掛けはなに?とワクワクしながらご主人様方を見上げますと、何故かちょっと驚いた風のカルヴィン様が、ぼんやり呟きました。


「色戻り…これほど変化が激しいのか、絶色は」


 また、知らない表現です。色戻り、きっと読んで字のごとくな意味なんだろうけど、悉く非科学的でもう、頭がついていきませんです、はい。

 毛髪は死んだ細胞じゃあなかったですか?それが体にくっついてるうちは魔力に染まって白くなって、切り離すと本来の色に戻るって…通電中の豆電球みたいなこと言わないでくださいよ。ありえない、そんなバカなこと!…だけどあるんだ、この世界。はあ。


「このように、貴女の髪は貴女と共にあってこそ、美しいのです。ですから鑑賞する価値があるとは思いませんか?」

「…あー限定品はそれだけで価値がありますものね。季節限定とか、期間限定とか、そうそう長い長い行列を作ってまで手に入れようとマニアは必死でしたね、懐かしい」


 わたしの価値は髪だけか!と叫びたいのを押さえた結果、何やらボロボロ記憶がこぼれたような気がしますが、聞こえなかったふり…


「マニア?季節限定は若い娘が菓子などで騒いでいるのを聞いたことがあるが、そのマニアとはなんだ?」


 しちゃくれませんでしたね、性能のいいお耳で。

 声に出したのはルーファス様でしたが、視線は全員分です。もれなくフランクさんまで教えろと視線でせっつかれては、笑ってごまかすこともできないじゃないですか。やれやれ。

 

「一つの物に異様な執念を見せる方々の事です。蒐集家と類似してるんですけど、近所の子たちと作ったわたし達だけの造語なんですよ」


 至極真面目に、真実を織り交ぜた嘘で取り繕ってみました。頭から尻尾まで嘘八百を並べ立てたんじゃ、どっかでばれますからね。こういうのは本当の事を言いながら適度に虚言を混ぜるのがミソなんです。

 自信満々の説明に相槌を打ったあと、全員マニアという言葉に興味を失ったようで、助かりました。

 なにしろわたし、近所には友達らしい友達がいなかったもので。地味に漏れ出した魔力が同じ年頃の子よりあきらかに多くて、つまはじきにされてたんですよ。何処いずこも同じで、人と違うって辛いです、うふ。


 その辺はともかく、身体の局地的な部分に多大なる興味があることは嫌々理解できました。希少性と利用価値についても、オッケーです。

 でも、納得できないことだってありますよ。


「ところで皆様、その珍種には心と意思があることをご存知ですか?」


 さあ、自由をかけて勝負を始めましょうか。



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