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 通常、女の子の髪が一瞬で真っ白になっちゃった場合、大問題です。

 これって、前世でも今生でも不変の真理ではあるんですが、周囲の反応が全く違うのです。昔なら同情されたり腫れ物に触るような対応をされたはずなのに、今は喜ばれる不思議。それも盛大に。

 パニックを起こすことに疲れたわたしが、何故人の不幸で歓喜するんだとご主人様方に尋ねたら、懇切丁寧に説明してくださいましたよ、信じたくない真実を。


 しつこいようですが、庶民に魔力の強い子供が生まれるのは、突然変異です。何もかもが予想外に起こります。

 通常であれば強い魔力に耐えうる血統、体を持って生まれるはずの子どもは、平均的なか弱い魔力を宿すことしかできない器で誕生するわけで、その歪はうっかり命を奪うほどに大きいんだそうです、恐ろしいことに。大きな魔力に軟弱な肉体が耐えられるはずなく、十にならずに突然変異の子どもはほとんど己の力の暴走で命を落としてしまうので、大きな魔力を持って成人できた者たちは更に希少性という価値が増すのだと。


 あ、余談ですけどわたしが長いこと魔力を封印していたのは、正解だったと言われました。体が出来上がる頃には魔力が安定するし、それを操ることに精神が耐えられる強度を有しているので、幼児期より危険が少ないんだそうです。それでも、器たる肉体が適応できなかった場合さっきの一瞬で肉片になったそうなので、『絶色』は体も含めて突然変異なのだなと、変に感心もされました。


 ………実は小さな頃の方が魔力を操れていたようです、とは言えませんでした。さっき親に隠すために魔力を封じたと告白した際も、小さな時にって表現でぼかしておいたので、まさか三つの子がやったとは思っていないでしょうね。

 チート能力ってすごいです。前世の記憶までそれに含まれるとは、恐るべし。


 話を戻して。

 それに白髪がどう関係するのかと言えば、髪は魔力の影響が最も出やすい場所であると。

 大抵の平民が濃い髪色をしているのに、貴族はほとんど淡い髪色をしてるのです。わたしはこれって血統のせいだと思ってたんですが、実は魔力のせいで色が淡くなればなるほど大きな力を持っているのだとか。実力を誤魔化すため、こっそり染めてる貴族もいるんだそうですよ。


 ご主人様方もプラチナブロンドでしたね。…それも白に近い…うん、染めてるんだよ、きっと!


 で、完璧な白髪になるのは、器の容量限界まで魔力を蓄えた突然変異の平民だけで、数百年に一人しか出ない希少な子。魔力で髪が染まった『色移り』の中でも『絶色』と特別扱いされる、高額取引間違いなしな珍獣がわたしなのですって。

 そりゃあ、ご主人様方も驚いた上に、ラッキーってなりますよ。お仲間に見せびらかすだけでも十分に価値のある絶色が飛んで火にいる夏の虫なんだから。この方々の実力なら、一度視界に入ったわたしを逃がさず捕まえておくことは、そう難しくないと思います。

 だからこそ、


「…退職させてください」

「却下」


 心の底からのお願い、つまり懇願です。うら若い乙女が涙ながらに訴える、悲痛な叫びですのに即却下しやがりましたね、ご主人様その一改めルーファス様!

 ふっかふっかにクッションのきいた大きな執務椅子に座ったご主人様の膝の上に、わたしってば確保されてます。お腹のとこがっちり押さえられて、捕獲です。予想通り絶対逃がさないって主張がひしひしと伝わる非常につらい体勢です。因みにここは、天井に大穴の開いた先程の部屋から、お子様縦抱っこで連行されて参りました客間です。いい加減はなしてくんないかな。


「辞めても、身の危険が増すだけで良いことはないですよ。是非ここで僕たちに守られて暮らしてください」

「…はあ…」


 勝手にほどかれた長い白髪を、隣にひっぱてきた椅子に座ってうっとり撫でてるご主人様その二改めフィンレイ様、せめてわたしの顔を見ておっしゃっていただけませんかね。さっきからずーっと髪”だけ”に興味を示すその姿、変質者にしか見えません。危ない性癖満載なザンネンすぎるイケメンですね、貴方。


「フィンレイ様、大切にされるのは良いことですがセーラは生きておりますのでガラスケースに飾らないでくださいね」


 だいぶ引き気味だったところにフランクさんのそんな呟きが届いて、体が飛び跳ねる位に怯えたわたしを宥めたのはルーファス様の無駄に大きい手だ。


「心配しなくていいよ。結婚して子どもを産んでもらうまで、そんな真似はさせないから」


 いくら優しくそうおっしゃられましても、用が済んだらガラスケース直行もありと聞こえるんですよ、わたしには。

 頭をかすめたのは前世で見聞きしたマニアックな映画やマンガの数々だ。あれらは本当に怖かった。文明が発達して衣食住に困らなくなると、人の優秀すぎる脳は暴走するってことを証明する作品たちだと思う。もしくは人間は須らくフェティシズムを心に潜ませる生き物で、うっかりそれらを発現させると恐ろしいってことなのか。

 どちらにしても、目の前に独特の性癖をお持ちの男性がいることに変わりはなく、背後の方もそれに対してなんら常識的対応をしてくれないことに変わりはない。

 つまり、結論として。


「お願いですから、別のお嫁様を探してください」


 思わず頭を下げてしまいました。どうか必死さが伝わりますようにと、さっきから高笑いで試練ばかり投げつけてくる神様にも、お祈りしてしまいました。

 それほど、このアホ兄弟…失礼、雇用主様から解放してほしかったんです。他人を利用価値でしか測れない価値観に、賛同できなかったんです。

 でも、この世界の考え方は、わたしの持つ倫理観とかけ離れていました。


「せっかく公爵家の妻にと望まれているのに、断る権利はお前にありませんよ」


 執事様はおっしゃいます。


「あー、あまり頑ななことを言うと、使いたくもない権力を使うことになるんだが」


 ルーファス様のお声は困っているように聞こえますが、内容は横暴なんです。


「君の生殺与奪権は、主人である僕たちにあるんだよ?」


 笑顔しか素敵じゃないフィンレイ様は、はっきり脅していらっしゃいます。


 お・ま・え・ら、人権とか倫理とか学べ!………と、わたしが思っちゃうのは魂に前世の記憶がこびり付いているから、なんでしょうねぇ。

 実力主義な魔人は、階級社会でもありますから、平民が貴族に逆らうとか、ましてや己の意思を主張するとかしないんですよ。下手にそんなことすると命がなくなるんで。わたしも何も知らずにその考えに染まっていたなら、ここでの会話に喜んでーっと返事をしたかもしれません。

 でもできない。これも転生チートの弊害でしょう、ええ。


「だって、嫌なものは嫌なんです。わたし通り越して能力値と交配結果しか考えていないルーファス様も、わたしの髪だけ好きで性癖が特殊すぎて理解できないフィンレイ様も、顔も見たことないのに結婚となったら旦那さんにしなきゃならないもう一人のご主人様も、全部がイヤ」


 纏わりつく手を振り払って言い切ると、青くなったのはフランクさんで、ひどく残忍な笑みを浮かべたのはフィンレイ様だ。因みに背後は見られないので、ルーファス様の様子はわかりませんが、これまでの経緯から決して好意的ではないと思われます。


「あ、謝りなさいセーラ!」

「嫌でもいいんだよ、君の意思は関係ないんだ」


 予想通りの反応に、ため息を禁じ得ないですね。権力者って、いつの世も同じ考え方しかなさらないようで、全く…どうしてくれよう。

 むくむく湧き上がる反骨精神はこの場合自分の首を絞めるので、穏便にわたしの思いを理解していただく方法を一生懸命考えていたんです。何しろ見える範囲の視線も怖いですが、どんどん拘束がきつくなる背後の方もプレッシャーでして、思いがけず必死ですよ、もう。

 冷や汗をかきつつも、こんな感じでどうだろうとまとめた考えに口を開いたときでした。


「あのですね…」

『ドッガーン!!!』

「嫁はここか!!!」


 大きな声でした。でも、ですよ。それより大きかったのは、ドアが吹っ飛んだ音です。

 舞い散る破片の雨の中、眇めた目で見つけた破壊王は、お美しいお顔のお兄さんでしたとさ。

 正体が、わかる分だけむかつきます。何故?



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