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 生まれ変わりというものは、黄泉へ旅立つ人を怯えさせないための方便だと思っていました。

 テレビで前世がとか、魂がとか言う人達も、きっと都合のいい幻を見ているのよと鼻で笑ったものです。


 …それら過去の行状をスライディング土下座で謝り倒したいなぁ、なんて思う今日この頃。

 ええ、つまりワタクシ、現在進行形で生き証人をやっております。

 前世の記憶ばっちりの、生まれ変わった女の子です。



 以前は人間の女子でした。

 名前はミワです。何故カタカナ表記なのかというと、この辺りが非常に曖昧な記憶になってるからです。因みに名字も思い出せません。というか、個人名はほぼ記憶していません。テレビだとか冷蔵庫だとか、物に対する知識はありますが、親兄弟友人知人、更には地名なんかもぼんやりとしていて、ほぼ記憶にありません。


 都合のいい記憶喪失みたいだって?本人が一番そう思ってるんですから、痛いツッコミはナシでお願いします。


 ともかく。非常に偏りはありますが、ここではないどこかで生まれ、人間でいたことだけは記憶しているんです。でも幾つまで生きたとか、幸せだったのかとか、結構重要なことがごっそり抜け落ちてるもんですから、人生やりなおしてるお得感がないことは明記したい。させて欲しい。

 

 だからって、一つもいいことがないわけじゃないですよ?多少は俗にいう転生チートがありますから。 

 ここは前世の自分が生きていた国とは根本的に違います。文明は科学発達以前のものですし、夢物語とされた超常能力が日常的に横行しています。

 もう素敵にファンタジーでして、空を飛ぶ大陸と地下に広がる迷路のような世界まであるんですよ。あ、普通に海とそこから顔を出してる大陸もありますから、高所恐怖症の方と閉所恐怖症の方も安心です。


 しかしまあ、世の中の設定がそんだけぶっ飛んでれば、種族設定も同じようにぶっ飛んでるわけです。

 基本的な造作が、前世で慣れ親しんだものと変わりなかったことには、感謝します。つまり目が二つと鼻と口が一つ、耳と腕・足が二つずつがベースだと思って下さい。希に目が多かったり無かったり、指は本数が違うことがデフォだったりしますが、二足歩行ってだけでも心に優しいんです、ええ。


 この状態をベースに、鳥の羽をつけたり、魚の鰭をつけたり、耳が毛だらけで垂れ下がったり、長めの牙があったり、つまるところどっかに動物の特徴があると獣人です。どこの大陸、海、地下でもお目にかかることが可能です。

 次にご紹介しますのは、竜人の皆様。鱗つきの肌をお持ちで、お顔の作りも友好一族である竜と非常に似通っています。カテゴリー的には獣人の皆様と一緒にしたい気もしますが、あちらを前世の記憶で亜人と表現するのなら、こちらはトカゲ人間と表現するのがぴったりということで、抵抗大です。寧ろ分けといてくれてありがとう。主に地下に大きな国を築いていらっしゃいます。


 そしていよいよ、わたしが属している魔人です。ベースは獣人の皆さんと一緒で、人間のように滑らかな肌をして、体の一部に角だとか蝙蝠の羽だとか持ってる、悪魔のような容姿です。でも、悪魔じゃないんで誤解なく。魔人の『魔』は、魔力の魔です。この世界でどの種族より魔力が強い、支配階級の一族ってだけです。数は少ないけど、獣人の十分の一くらいしかいないけど、魔力だけなら竜人に勝てるんです、竜にも対抗できるんです。すごいでしょ?えへん。

 あ、おまけで人間もいます。彼等は実のところ人口の半分以上を占める多数民族なんですが、食物連鎖の最下層に位置しています。


 そう、最下層なんですよ…前世での立場とは真反対の被捕食者。


 人間は、獣人、竜人、魔人から食料とか奴隷とか素敵な呼ばれ方をする存在です。魔力が低く、体のつくりがひ弱で(牙、爪などの武器を持たない上、身体能力も低すぎる)、その割に繁殖力が強いからちょっとくらい多めに食べちゃっても大丈夫!などと痛々しいキャッチコピーもお持ちです。前世では知力で何とか凌いでましたけど、ここでは無理です。どの種族も賢いですからね。

 …因みに彼ら、わたしの食料でもあるんです。いえ、幸い血肉を啜るタイプの魔人じゃないんで、ちょびっと”コン”と呼ばれる生体エネルギーを吸わせていただければ殺しちゃうことはないんですけどねぇ。

 ただし、想像と違ったのは毎日人間を食べてるわけじゃないって事。基本的には普通の食事で賄ってます。人間を食べる方が効率が良いですけど。

 まあ、詳しい話はまた機会があったらさせていただくとして。


 転生チートについて、でしたか、本題は。


 まず魔人社会の構造についてご説明致しますと、王様を頂点とした貴族社会で、良くも悪くも実力第一主義です。

 とはいえ魔力はかなりな確率で血筋に左右されますので、名家にはそれに見合った実力のお子様が産まれるのがデフォルトです。伯爵様のご家庭には次期伯爵様に見合った魔力をお持ちの方が一人、二人は必ずいらっしゃるって事ですね。


 しかしどこにでも例外というのはあるものでして。


 素敵に突然変異種の庶民が現れたりするんですよ。わたしのような。

 はい、これがチートです。爵位を持ったお家じゃなくて、平民の庶民のちゅうちゅうの家庭に生を受けちゃう辺り、すっごいチートっぽいと思いません?思いますよね~でもこれがまずいんです。

 卑しい身分の娘が分不相応な魔力を持ってると知られると、人買いに攫われて体の良い暗殺者にされたり、親に爵位はあるけど実力不足の跡継ぎしかいない貴族に売られたりしちゃうんですよ。こわい…。


 わたしがこれに気付いたのは、言語を覚え薄ぼんやりと過去の自分を思い出し始めていた三才の頃。

 成長に合わせて魔力が滲み始めていた愛娘を前に、異様に目を輝かせたクソオヤジ…失礼、父さんが、怯えた表情の母さんに、このまま成長すれば高く売れるとわくわく話していたときです。

 そうか、チートは生活が脅かされるのかと本気で怯え、それ以来己の魔力を故意に封印して生きてきました。


 守銭奴…すみません父さんは、少々魔力が大きい程度の凡人に育ち上がった娘を、たまに恨めしげに睨んでおりましたが、母さんは年を追うごとに明るくなっていったので、実力を隠したのは正解だったようです。

 ま、このチートは人生にあまり役立ちそうにありませんが、前世で世の中を渡ってきた経験は十分すぎるほどありがたいギフトでした。

 友人達より給料の良い職場、公爵家のメイドに収まっているわたしは、青空の下シーツを干しながら本日もしみじみ幸せを噛みしめるのです。



 

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