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暗黒神話:未明×康平

 未明が、キッチンで何やらやっている――やらかしている。

 いったい何をしているのやら。

 康平は、きっと恐ろしいことになっているキッチンを思って、溜息をついた。

 朝起きて、開口一番、未明が今日だけはキッチンを使わせて欲しいと主張したのだ。

 彼女の料理の腕は、壊滅的である。本当に、シャレにならない。何を作らせても、地球上の食材を使っているとは思えないできばえになるのだ。

 リビングを行ったり来たりしていた康平の耳に、ガチャン、と一際大きな音が届いた。

 思わずリビングから飛び出しかけて、絶対に入ってくるなと言明されていたことを思い出す。

 ――鶴の恩返しかよ……。

 怪我でもしていないだろうかと思うと、おちおち座ってもいられない。

 どれほど時間が過ぎただろうか。

 康平は、いつの間にか、不安を掻き立てる物音の数々が止んでいたことに気がついた。

 そして、カチリとリビングの扉が開く。そこから覗いた姿に何も問題がないことに、ひとまず胸を撫で下ろした。

「康平、お待たせ」

 未明が、静々と入ってくる――その手に、何か得体の知れないものを載せた盆を持ちながら。

「……それは……何だ……?」

 茶色で、ドロッと変形し、何やらところどころが妙に突き出している。

「これね、チョコレートケーキ」

「……は?」

「だからね、チョコレートのケーキなの。あのね、ネットで、『バレンタインデー』っていうやつの特集を見たの。そこに、このケーキの作り方が載っててね……ちょっと、見た目は写真とは違うけど、材料と分量は同じだしちゃんと手順どおりにやったから、きっと、味は同じ筈だよ」

 照れたように頬を心持ち赤らめながら、未明がテーブルにその物体を置く。

 これが、ケーキ……?

 どう想像力を働かせても、そうは見えない。

 立ち竦んだままの康平に、未明が笑顔を向ける。

「ね、ほら、座って? お茶も用意するから、待ってて」

 独り残されて、一瞬この場から逃げ出そうかという考えが康平の頭の中をよぎる。だが、先ほどの未明の嬉しそうな笑顔が、碇となった。

 そうこうするうちに、彼女が戻ってくる。万事休すだ。

「やだ、まだ立ってたの? もしかして、待っててくれた? そんなのいいのに。ほら、座って座って!」

 未明に腕を引かれて、康平はソファに腰を下ろす。そして、切り分けられた――というよりも取り分けられた、という表現の方がぴったりと来る盛り付けをされた『チョコレートケーキ』を前に、思わず息を呑んだ。

 正面には、期待に満ちた、未明の眼差し。

 康平は、ええいままよとソレをスプーンですくい、一気に口の中に突っ込んだ。

 ――あれ?

 思わず、動きが止まる。

「康平?」

 不安そうな未明の声。

「うまい」

「ホント!?」

 本心からの言葉だった。見てくれはサイアクだが、味はいい。

「ちゃんと、うまいよ」

 康平のその言葉に、未明が満面の笑みになる。

「良かった!」

 あまりの喜びように、あれほど躊躇した自分に罪悪感すら覚えた。何となくバツが悪くて、お茶を口に運ぶ、が、続く彼女の台詞に、むせた。

「今日から、わたしがご飯を作ってあげる!」

 味はいい。確かに味はいいが、この見てくれはまだまだ改良の必要がある。

「未明、これはうまかった。だがな、食事は俺が作る。料理が好きなんだ。頼むから、作らせてくれ」

 未明が「ええぇ」、と口を尖らせたが、そこは譲れない一歩だった。

 いずれは、彼女に任せることができるようになるのだろうけれども。それは、まだ先の話。


いかがでしたか?

本編を読まれた方は、やつらはこんなことをやってるのか……と思っていただけたでしょうか。

未読の方は、本編のストーリーとは離れていますが、キャラクターは大体こんな感じです。

いつも読んでくださって、ありがとうございます。

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