世界樹の祈り:マリア×サリ×スレイグ
「マリア、これやるよ」
そう言って、サリはマリアに手にしていたものを差し出した。
「?」
袋の中に入っているのは、なにやら茶色くゴツゴツしたものだ。一見すると、泥団子のようだ。首をかしげて赤い目を瞬かせたマリアに、サリが得意げに豊かな胸を張る。
「そんな見てくれでも、菓子だってさ。何でも、今日は、大事な相手にその菓子をやる日なんだって。食べてみなよ」
サリのその言葉に早速口を挟んだのは、スレイグだ。
「ええ!? 僕にはないの!?」
「あるわけあるか! 今の言葉を聞いていなかったのか? 『大事な人』って言っただろ?」
「イヤだなぁ、照れちゃって。あ、でもそうか。なら、僕が君にあげればいいんだね。僕の気持ちを有りっ丈詰め込んだやつを買ってくるから、待っててよ!」
「いらん! って、ちょっと待てって! 買ってきたって、あたしは食べないからな!」
サリの台詞などまるで耳に入っていない様子で、スレイグは意気揚々と飛び出していった。彼が開け放していった扉を閉めてサリは「あの莫迦」と毒づいたが、キョトンと彼女を見つめているマリアに気付き、何とか笑みを向ける。
「いいから、食べてみな。うまいらしいよ」
促されて、マリアは一つその物体を摘み上げ、口に運んだ。広がったのは、甘さと、微かな苦味。
「おいしい」
「良かった!」
サリの嬉しそうな笑顔をマリアはジッと見ていたが、ふと、袋の中に手を入れると、菓子を一つ、マリアの口元に運んだ。
「何?」
「食べて」
「え、でも……ま、いっか」
サリは、マリアの手にあるそれを、パクリと食べた。
「おいしい?」
「ああ、うまいよ」
「良かった」
ふ、とマリアの口元がほころぶ。自分が菓子を口にしたときよりも嬉しそうなその顔に、サリは胸がいっぱいになる。思わず手を伸ばして彼女の髪をクシャクシャにしてしまい、もつれた髪を慌てて手櫛で整えてやる。
「これからも、いろんなことを覚えていこうな!」
サリのその言葉に、マリアがコクリと頷く。サリには、マリアに見せたいものも、聞かせたいものも、まだまだたくさんあるのだ。