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夜を越えて巡る朝:小夜×省吾
「これ、あげる」
そう言って小夜が省吾に差し出したのは、一口で食べられてしまいそうな小さな茶色の物体。
「これは、何?」
受け取ったものからは、香ばしいような甘いような、不思議な香りがする。
「お菓子」
確かに、この香りはそうなのだろう。だが、一般的な焼き菓子よりも、随分と色が濃い。
「ミヤがね、今日はだいすきな人にこのお菓子をあげる日なんだって。あとね――」
小夜はそこで言葉を切り、省吾の胸の辺りをひっぱって、身体をかがめるように促す。求められるがままに頭を下げると……。
頬に、柔らかく温かなものが、触れた。
ピシリと、身体が固まる。
「――!?」
「ミヤがね、こうしてあげると、省吾が喜ぶよって。……喜んだ?」
そう言って、真っ直ぐに覗き込んでくる、深紅の瞳。
省吾はミヤを呪っていいのか、それとも彼女に感謝するべきなのか、判断を下しかねた。
いずれにせよ、期待に満ちた眼差しには、こたえてやらねばなるまい。
「ああ、嬉しいよ」
彼のその言葉に、小夜は微かな、けれども満足そうな笑みを、浮かべた。