いつか叶う約束:ファラシア×カイル×ノア×ゼン
「ねえ、ファー! 僕、ファーから欲しい物があるんだけど……いい?」
唐突に言い出したのは、カイルだ。しょっちゅうおねだりをする彼は、時々、とんでもない事も要求するので、少々警戒気味にファラシアは問い返す。
「――何?」
「そんなに身構えなくたって、いいのに。あのね、この地域特産の『チョコレート』ってお菓子」
意外に普通な返答に、ファラシアはホッとしながら頷いた。
「何だ……明日でもいい? 旅支度を整えるついでに買ってくるから」
「ダメ。今日がいいんだ」
「? 何で?」
「あのね、ここいらの風習で、今日は大事だと思っている人にそのお菓子を贈る日なんだってさ」
「え、そうなんだ……じゃ、早く買ってこなきゃ!」
「でしょ? 待ってるよ」
ファラシアの反応に、カイルはご満悦の様子だ。バタバタと慌しく出て行く彼女を、手を振りながら見送った。
*
夕食後。
「あ、カイル、これ……」
そう言ってファラシアが差し出したのは、綺麗な紙で包まれた手のひらに乗るほどの大きさのものだった。
「ありがとう!」
カイルは喜色満面で受け取る。だが、次の瞬間、肩をがっくりと落とした。
「あ、ノア。ノアも……あと、ゼンもね」
彼女は、続いて取り出したものを、女傭兵と山猫の変化にも差し出したのだ。
「これは……?」
「『チョコレート』ですって。大事な人に贈るものなんだって」
「――そうか」
いつも表情を変えることのないノアの口元が微かに緩むのを、ファラシアが嬉しそうに見つめる。
「あ~あ。そんなことだろうとは、思ったけどさ……」
カイルのボヤきは、温かな空気に消えていった。