初めての女装
マモリの強い要求に、一同は戸惑っていた。
その理由はマモリと離れたくない、危険にさらしたくない、この国を守ってほしいという想いの他にもあったからだ。
アイリと国王の目が交差する。
そしてアイリはため息をつき、マモリの方に向きなおった。
「やっぱり…どうしようもない運命なのかもね…マモリ。」
「は?」
まるでこうなることがわかっていたように、アイリはマモリに微笑みかけた。
「国王様…この子とお別れの時が来たみたいです。」
いつになく真剣な表情になるアイリ。
「…そのようだな…。国としても、これ以上マモリに負担をかけまいと体勢を整えていたところだ。…いい時期かもしれんな。」
国王も同様に真剣な表情でマモリを見つめる。
「私も…用意はできています。」
「おいジード、この2人…何の話をしてるんだ…?」
勝手に話を勧める母親と国王についていけず、ジードに助けを求める。
だがジードにも訳がわからない会話だった。
「さぁ…それよりマモリ!まさかこの国を出るつもりじゃないだろうな!!?」
「あのじいさんがもっと遠いところに行ったんだ。オレも行くよ。オレ、ずっと女の格好なんて嫌だもん。」
「…マモリ…」
マモリが遠くに行ってしまう。それだけはマモリの言葉からも国王たちの会話からも理解できた。
ジードの言葉を遮ったのは国王だった。
「誰か!宝物庫の奥のあれを持って参れ!」
続いてアイリも、穏やかな顔でマモリの前に立つ。
「マモリ…これでフルアーマーの魔法を使いなさい。」
そういってアイリは左手に魔力をこめ、空間に小さな穴を作る。
その中に右手をいれ、開いた空間から一本の剣を取り出した。
「これは守護の剣…聖剣イージス。お父さんが私とあなたを守るようにくれた剣よ。」
「父さんが…?」
「さあ…この剣でフルアーマーの魔法を使いなさい。」
「…でも…フルアーマーは…」
そう言われてアイリはマモリが父の装備しか使ったことがないのを思いだした。
「大丈夫よ。フルアーマーの武器と防具はセットなの。知ってるでしよ?新しい武器を手にしてフルアーマーを使えば、その武器に合った服や鎧が精製されるわ。」
「そう…だったんだ。」
「マモリは今男の服が着れない呪いにかかってるから、精製されるのは女の子の服だと思うけどね。」
アイリはまたいつもの笑顔で、でも少し淋しそうに言う。
「…てことは、これでフルアーマー使ったらどんな格好になるかわからないってことか…。恥ずかしいのや、変なのになったら嫌だな…」
フルアーマーの知らなかった機能は理解して、こんどは不安が大きくなる。
「大丈夫よ!ずっと母さんが持ってた剣なんだら。きっと凄く可愛い衣装が出きるわよ!」
もはや鎧ではなく衣装と言い出す母。
「マモリ、母さんの愛と…父さんの魔法を信じなさい」
マモリの両肩をポンと叩き、今までにないくらいの笑顔を見せる。
「……わかった。」
そう言ってマモリは魔力を手の内にある聖剣イージスに込め始める。腹をくくったようだ。
「フルアーマー……イージス!!」
マモリの体が七色に輝き出し、纏っていた布切れが宙を舞い、マモリの体が新しい素材に包まれていく。
やがてマモリから発せられていた光が消えていく。
光りが消え、そこに立っていたのは紛れもなく美少女だった。
肩と胸には鎧と言える金属アーマーがついているが、丸みを帯びて可愛らしいデザイン。
その下ではスクール水着のような藍色の布が腰のくびれを強調している。
淡いスカイブルーのスカートはプリーツ状になっており、太ももの半分の位置で布がなくなっていた。
さらに下には黒のニーソックス。その絶対領域はマモリが男とわかっていても、ドキドキさせるのに十分だった。
一瞬その場が沈黙する。
「え…?…ぅわ!!」
マモリは下を見て自分の格好を見てとても恥ずかしくなり、母や国王に背を向けてしゃがみこんだ。
ミニスカートなどはいたこともないのだから、普通にしゃがめばスカートの中が見えてしまうことなどわかるはずもない。
運悪くその先にはジードが立っていた。
「!!!!」
スカートの中を確認するジード。白い生地にレースをあしらった可愛らしいショーツ。
そして女の子にはあるはずのない膨らみ。
ジードは溢れ出そうになる鼻血を理性で止める。さすがは一国の跡取り。
「か…か…かか…!」
マモリは後ろの声に一瞬肝が冷えた。
「カワイーーー!!マモリーー!!」
案の定ハイテンションになった母親が抱きついてくる。
「マモリすごく可愛いわよ!あぁ…さすが母さんの娘だわ!」
「娘じゃないから!」
「ねぇ!下着はどうなってるの?どんないやらしい下着はいてるのよ!」
「人前でそういうこと聞く!?それでも親か!」
アイリは楽しくてしょうがない。
「それに自分でも見てないんだからわからないよ…」
「じゃあスカート捲って見てみなさいよ!」
「できるかぁ!!!」
一人スカートの中知っているジードは、何とも言えない優越感に浸っていた。
「オホン」
国王の咳払いで、アイリも我に返り、また真剣な表情に戻る。
すると、扉が開き、大臣が一人入ってくる。
「陛下、あれをお持ちしました。」
「あれ?」