マリーティア
アウタナの間にはマモリのキャロットの2人だけになった。
「あら、行っちゃったわね…まあいいわ。彼はレオナードに任せましょう。それよりマモリくん。さっきの部屋ではもう少しで彼と一つになれるところだったのに、うちの妹もどきが邪魔しちゃってごめんなさいね。」
「そんなことは望んでなかったし、むしろ助かったくらいだよ。…それより俺に用っがあるって言ってたね?」
「ええ、少しお話しましょう。あなたのフルアーマーの魔法のことよ。」
「っ!!」
「…あなた、今マモリちゃんのこと君付けで呼んだわね。マモリちゃんが男の子だって知ってるってことでしょう?私のことも知っているみたいだし。何者なの?」
マモリとガメイラはパプリカに対する警戒心をさらに高めた。
「マモリにくんにフルアーマー…厳密には英雄ゼウの装備だけど、それを使わせないようにあのジジィに指示したのは私です。」
「なっ!!」
「ゼウのことも、フルアーマーのこともよく知っているわ。交流もあったので。だから当然、彼が邪神アスモデウスと闘って死んだことも、フルアーマーが息子であるあなたに受け継がれたことも、知っているのよ。」
マモリはこの城にはジャンの友達を助けるために来た。呪いをかけた老人を追うのを中断して。だからこの城であの老人の関係者に出会うなんて思っていもいなかったのだ。それを関係者どころか指示したとまで言う人が突然現れたのだ。
「どど、ど、どういうことだ!?」
てんぱって、うまく口が回らない。
「どうもこうも、そのままの意味よ。私はあなたのことを知っているし、あなたにゼウの装備を使えないようにするよう私がジジィに頼んだのは私。あ、ラミアも私の部下よ。でも、まさかこんな方法で呪うなんて思ってなかったけどね。…でも、女の子の格好がよく似合うのね。その衣装も、さっきのドレスもよく似合っているわよ。誰も男の子だなんて思わないでしょうね。」
「ううううるさい!!」
「お父さんに似なくてよかったわね。」
確かにマモリの父・ゼウは、豪傑の名がふさわしい男らしい男だった。
「それで……どうして俺に呪いなんてかけるように言ったんだ!!?」
「あなたの中には使われては困る物がいくつかあるのよ。」
「つ、使われては困るもの?」
「あまり詳しいことは知られるわけにはいかないのよ。ごめんなさいね。」
「なんだよそれ、そんなのこんな面倒なことしなくても、頼まれたら使わないってば!!」
確かに、使われては困るものがあればそれを使わないようにするか、最悪渡してしまえばいい。それがたとえ父の形見でも、そこは事情によりけりだ。
「…あのおじいさん、ラミアちゃん…そしてこの人たち。とてもまともな人たちじゃないみたいね。そんな人たちが使われては困るものって何なのかしら?」
ガメイラも気になるようだった。
「だからそれは言えないわ。それにマモリくんを呪ったのは、放っておいたらマモリくんはきっとその装備を使うでしょうから。私たちを止めるためにね。」
「止める…?何か企んでるんだな!!?何なんだあんたたちは!!?」
マモリは左手のイーフリートを構えて、パプリカに疑問をぶつけた。
「じゃあ少しだけ教えてあげるわ。私たちは魔法組織『マリーティア』。この世界が嫌いな者たち。それにそんなに構えないでいいわよ。私は今のあなたをどうするつもりもないのだから。」
「マリーティア?世界が嫌い…?そんな説明じゃわからないよ!」
「クス。元気ねぇ…男の子みたい。」
「男の子だよ!」
「…じゃあこれも教えてあげる。この樹…魔界樹アウタナ。私はこれをとある場所に運びたいのよ。でも大きすぎるでしょう?これをあなたたちみたいに転送するには、私の魔力だけじゃ足りないのよ。」
「はぁ?こんな大きな樹をどこに運ぼうって言うんだよ?」
「マーズ大神殿よ。」
パプリカは声のトーンを落として答えた。
「マーズ大神殿?どうしてあんな場所に…?」
「…知ってるの!?ガメイラ。」
「え!?(……そうか、アイリがあえて何も言わなかったのね…)…マーズ大神殿っていうのはこの世界が誕生した時から存在すると言われている最古の大神殿の一つよ。今は誰もいないはずなんだけど…。そこにアウタナの樹を運んでどうしようっていうの!?」
ガメイラはパプリカたちの企みがますますわからなくなった。
「これ以上は言えないわ。」
どうやら本当に教える気がないらしい。
<バルキュリア城・アウタナの間のさらに奥、魔法部屋>
「いい加減おろしなさいよ、レオナード!!」
「申し訳ありません、キャロット様。…もう着きましたので。」
そう言ってレオナードは暗く、倉庫のような部屋の中心にキャロットをおろした。
さっきまでパプリカたちがいた部屋である。
さらに部屋には、キャロットがおろされた位置を中心として、部屋中に魔法陣が描かれている。
「何よ…ここ……あれ!?」
キャロットは立ち上がろうとして足を立てようとしたが、動かない。足だけでなく、手も頭も、全く動かない。
「……う、動かない…!どういうことよ、レオナード!!」
「はい。キャロット様にはこれから使用する魔力装置の動力源になって頂きます。」
相変わらずレオナードの受け答えは丁寧だった。状況が状況だけに、嫌みのように聞こえてしまう。
「動力源って…どういう意味よ!私をどうする気!?」
「どうする気もございません。あなたはただ、そこでじっとしていればいいのですよ、キャロット様。」
そう言ってレオナードは部屋の隅の方に歩いて行った。暗くて見えにくいが、そこには確かに大それた機械のようなものがある。
「これは魔力増幅装置です。あなたの魔力を利用して、パプリカ様の魔力を数十倍に増幅することができます。」
「お、お姉ちゃんの魔力を!!?なんでそんなこと!!」
「あの樹を転送させるためですよ。あの規模の物質…それも無限に魔力を持った魔界樹ともなれば、いくらパプリカ様でも単身で転送魔法を使えないのですよ。だからパプリカ様は、自分の魔力をさらにランクアップさせるために、あなたを育ててきたのです。」
キャロットにはその言葉の真意がよくわからなかった。
「(自分の魔力をランクアップさせるため……私を育ててきた……?)…何それ……どういうこと?」
「先ほど言われたでしょう?あなたはパプリカ様の本当の妹ではない。血など繋がっていません。あなたは幼い頃、この森で拾われたのですよ。パプリカ様によって。あなたの魔法の素質を見抜き、自分の糧として利用するためにね。」
ショッキングな事実だった。今まで何の疑いもなく姉と慕ってきた人が、実の姉でなかったこと。そして利用するために育てられていたこと。
「そんな……嘘よ!レオナード、あなたおかしくなったんじゃないの!!?あの優しいお姉ちゃんがそんなことするはずないでしょう!!?」
「嘘ではありません。先ほどの間で見たでしょう?アウタナの幹に埋もれているたくさんの人間の亡骸を。そしてパプリカ様の本当の顔を。」
「……っ!」