フルアーマー
<スタートロイ…町はずれ>
「ただいまー」
マモリは昼間の騒動を終えて町はずれの家に帰ってきた。
とたんにドタドタと騒がしい音が鳴り始める。
「おっかえりマモリーーーー!!」
マモリと同じピンク色の長い髪の女性がに勢いよく抱きついてきた。
「ちょっ、くっつかないでよ母さん!」
「えぇ!なんでよー。こんなに可愛い息子が帰ってきたらまずハグしてあげなくっちゃ!」
「もうオレ16だよ?恥ずかしいって…」
「いいじゃん!誰も見てないんだから。キスもしてあげようか?」
「絶対やめて!」
彼女はマモリの母、アイリ。
英雄ゼウが死んだ後もマモリを女手一つで育ててきたアイリは、マモリのことを誰よりも可愛がり、愛していた。
アイリとマモリはスタートロイの城下町から少し離れた丘の上に住んでいるのだ。
「聞いたわよ?また魔物を倒して街の人助けたんだって?」
「はやっ!ついさっきの話なんだけど…」
「母さんにはなんでもわかるのよん。」
アイリはとても16歳の子がいるとは思えないと、街の人からもよく言われている。
だが実はもう30を過ぎているのだが、見た目は20代後半、性格は20代前半といった感じだった。
「…まさか…オレのこと盗撮するような魔法使ってないだろうな…?」
「…それいいわね。」
「おい!」
「うそうそ。そんな魔法知らないから。」
アイリは魔法使いとしても有能な方で、マモリに魔力の操作などを教えたのも彼女だった。
「でもフルアーマーの魔法、だいぶ使えるようになってきたわね。」
「まあね。まあ父さんのくれた装備がすごいだけだけど。」
「それでも魔法自体をコントロールしないと、装備召喚もできないんだからね?」
「わかってるよ。だからまだ呼び出せない装備もたくさんあるんだ。」
『フルアーマー』の魔法は、亜空間にしまってある武器や防具を一瞬のうちに呼び出して装備することのできる魔法である。装備召喚には魔力が必要だが、一度装備してしまえばどんな代物でも自在に操ることができる。
強力な魔法剣や特殊なもの…伝説といわれるものでも操れてしまうのが、この魔法が最強といわれる所以だった。
そしてこの魔法が使えるのも世界中でマモリだけなのだ。
「それに気をつけなさいよ?あなたの持ってる武器や防具を狙ってる悪い奴だってたくさんいるんだから。」
「大丈夫だよ。そういう武器ヲタなやつらに強いのはいないからね。」
「なんでそんなこと言い切れるのよ…」
マモリとアイリはそのまま家の奥に入り、アイリは夕飯の用意を始めた。
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<スタートロイ…城下町…上空>
「ふむ…あの少年を追うのは簡単じゃが、それでは少し芸がないのぅ…」
先ほどマモリを空から見ていた黒いローブの老人は考えていた。
そこに1匹のババロンが飛んできた。近隣の森にはババロンが多数生息しており、スタートロイの人々の脅威となっている。
「下等手族か…まあこいつでもいいわい。」
そういいながら老人は右手をババロンの前に突き出した。するとババロンの体はまるで後ろから引っ張られるようになり動きが止まる。
今度は左手を森の方向に向け、何かを引っ張るようにして自分の胸元にゆっくり引きよせた。
直後、森が大きなざわめきに包まれ、たくさんのババロンが上空に飛び出した。そのままたくさんのババロンは老人の眼の前のババロンの元に飛んでくる。
いや、飛んできたのではなく引き寄せられてきたのだった。
「…魔獣合成…」
老人の眼の前でババロンたちは歪に混じり合い、大きくなる。
そこから粘土のように手足、翼、頭が現れる。
「ギギァァァァァァァ!!!」
ビルのように大きな姿になったババロンは、そのまま城下町に降りて行った。