フレイ再び
<闘技場・Aブロック会場>
最終的にステージの上に一人立っていたのはマモリだった。
他の約15人は気絶しているか動けないでいた。
ステージの上に倒れている出場者たち、スタッフを含めたその場にいた全ての人が、信じられないという表情をしている。
マモリの強さは常識をはるかに超えていたからだ。
それがまだ成人していない少女だったのだからなおさらだろう。
「…えぇ…Aブロック2人目の代表はマモリ選手です!!」
もしここに観客席があったならば間違いなく歓声が起きていただろう。
ともかくマモリは、余裕で予選を通過した。
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<闘技場・本戦会場>
予選は闘技場の屋内だったが、円形に作られた闘技場の中心は大きな吹き抜けとなっており、そのこが本戦会場だ。
円形の吹き抜けを囲うように作られた観客席。
そして吹き抜けの中、中心にはロープのない石造りのリングが設置されている。
まあスタジアムではよくある形だろう。
観客席にはすでに数百人の人間が本戦を待っていた。
実際には準決勝の2試合と決勝戦の計1試合だけなのだから、規模は小さいのだが、それでも郊外から 観戦に来る客も少なくはない。
もっとも、その客のほとんどは賭博という楽しみで来ているのだが。
「はぁ、楽しみですな。」
「ええ、魔法も武器もなしの格闘試合は最近ではなかなか見れる機会もありませんから。」
「どの出場者が勝つか賭けをしませんか?」
「いいですとも、私はあのジャンという青年に賭けましょう。」
「おや、本命ですな。」
実は先ほどの予選試合はビデオ実況されていたのだ。
つまり観客たちは4人の出場者を知っている状態だった。
当然、マモリのことも、ジャンのことも。
控え室で待機するマモリは、現在緊張で体を震わせているところだった。
「あわわわ…俺何も考えてなかったけど、この格好でたくさんの人の前に出るんだよね…?」
「そうよ。さっきチラッと見たでしょう?客席の人たち。ざっと1000人はいるわね。」
「そんなに!?…確かにそれくらいいたかも…なあガメイラ!俺こんな格好で人前に出て…変に思われないかな…?」
「今更何言ってるのよ。マモリちゃん今までその格好でたくさんの人と会ってきたじゃない!」
「それはそうなんだけど…それは別に、普通に話すのは普通っていうか……だって今から会場に出るっていうことはたくさんの人が俺を見るんだよ!?」
マモリは本当に今更自分の格好が恥ずかしくなっていた。
今までは特に自分の格好など気にせず、普通にしていればいいと思っていたからだ。
だが、今回はそうではなかった。
たくさんの人がマモリを見たくてマモリを見る。この事実にマモリはかつてない恥ずかしさを感じていた。
「うわぁ…やっぱり恥ずかしくなってきた…!帰りたい…」
「もう遅いわよ?それに、とにかく優勝するしかないんでしょう?」
「うぅぅ、そうだけど…」
「なら気合い入れなさい!」
「それにこの大会、ただじゃ終わらない気がするの…」
「っ!…それって…やっぱりオレが女装の変態男として名を世界に知らしめるってこと…!?」
「違うわよ!何卑屈になってるのよ…。今までだってそんな風に思われなかったでしょ?みんな女の子だって思ってるわよ!」
当初は相手を油断させるために女の子のふりをするのはアリだと思っていたが、今は自分の男のプライドを守るために女の子でいようと決心した。なんとも矛盾しているが。
「そうじゃなくて…この大会、なんだか不穏な空気が漂ってる気がするの。」
「…不穏って…?」
「わからないわ。とにかくマモリちゃんは常に注意しておいて!」
そんなパッと見ひとり芝居のような会話を終え、マモリは深呼吸し、いつも通りにと心に言い聞かせながら会場に向かった。
ワァァァァーーーーーーー!!
会場で大きな歓声が響き渡った。
マモリは知らないが、先ほどの予選で圧倒的な強さと可愛さを観客に見せしめたのだから、かなりの人気者になっているのは確実だろう。
実際にいろんな方向からマモリちゃーん!と呼ぶ声が聞こえる。
「(…やっぱ恥ずかしい…)」
マモリは今までちやほやされることがあっても、それはよく知るスタートロイの人たちくらいで、こんな見知らぬ地で見知らぬ人たちに黄色い声援を送られてるのだから恥ずかしくないわけがない。
さっきの自己暗示が早くも解けそうだった。
ただ一つ救いなのは、その声援がむさ苦しい男だけでなく、女の子の声も多数混ざっていたことである。
「紹介が遅れました。Aブロック代表、見た目は可愛い女の子。だけどホントはかなり強い!パワフルカンフーガール!マモリ選手ーー!!」
レフィリーが仰々しくマモリを呼ぶのと同時に、会場が震えた。
マモリも苦笑いで手を振りながら石造りのリングに上がる。
「続きまして、同じくAブロックの代表、燃えるような赤い髪に豊満なボディ、だけどそのスタイルはワイルドコマンドー…」
…さっき予選落ちしていたお兄さんが言っていた女の人だ!
マモリはお兄さんの情報を真摯に受け止め、すでに意識を観客からまだ現れぬ対戦相手にシフトしていた。
「フレイ・バーバリア選手ーー!!」
「っ!!?」
「それって!」
マモリとガメイラはその名前を知っていた。
つい数時間前まで騙されたあげくに体を触られ、しまいには店内でドハデな乱闘を繰り広げることになった主犯の名前だった。
ただ、昨日は最終的にジャンにのされ、動けるはずがないのだが…。
会場に現れたのは間違いなくフレイ・バーバリアだった。
フレイは下を向き、暗い雰囲気でリングに上がってくる。
対戦相手のマモリを見て何も言ってこない。それどころか見ようともしていなかった。
ただ怒りを抑えてるだけだろうか。いや、明らかに昨日とは様子がおかしい。
マモリもガメイラもそう感じていた。
そしてその感覚は正しかったのだ。
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<闘技場・観客席>
「さあ、実験を始めましょう…」
マモリとフレイ・バーバリアを見つめ、金髪の少女…ラミアはにやりと笑うのだった。