武闘大会開始
<ウォーロッセオ・闘技場>
武闘大会当日。
闘技場ではAとBの会場に別れて予選が行われていた。
マモリは参加登録を済ませ、Aブロックの会場に向かうところだった。
登録の際、受付の女性から「こんな女の子が…?」というような目で見られた。
しかし昨日会った少女ミアが、-女の子なんだから、みんな油断するわよ―と言ったのを思い出し、それが優勝への近道だと思い、不本意ながらも女の子と思わせて油断を誘おうと思ったのだ。
実際マモリは賞金でラミアの母親の治療費を稼ぐという目的があって、腕試しなどと言う名目は一切ないのだから。
都合の良いことに、マモリ以外にも女性の参加者は結構いたようだが、マモリほど若く華奢な娘はいなかった。
「マモリちゃん!おはよう!!」
昨日ここでと約束したラミアが声をかけてきた。
「おはよう。」
「わぁ!可愛い!!それどこで買ったの!?すっごくセクシーだし戦う女って感じ!マモリちゃんに似合ってるよ!」
ラミアはマモリのチャイナドレスを見てキャッキャと騒ぎ出した。
マモリはラミアに対しては男とばれて変態扱いされたくないと思っていたので、そう言われて喜ぶふりをするしかなかった。
「あはは、ありがとう。」
「魔法じゃなく気合いで何か出せそうだよね!」
「え…そう?」
ラミアは波○拳やかめ○め波のようなものを言っているのだろう。
実際には魔法とは少し違った形で炎を出せるのだから、あながち外れてもいなかった。
「それにそのセクシーなスリット…対戦相手が男の人だったら前屈みになってきっと動けないよ!」
可愛い顔をして平気で下ネタを言うラミアに、マモリは苦笑いで応えた。昨日の男たちのことが頭をよぎる。
「あ、じゃあそろそろ行くね!」
「うん、頑張ってね!!」
マモリとラミアはそこで一度別れ、マモリは予選会場へ、ラミアは客席へ向かった。
「マモリちゃん…」
呼んだのはラミアではなく、胸についているペンダントのガメイラだった。
「ん?何?」
「…いや、何でもないわ…」
「…何だよ…!」
「…ううん、別に…あ、その格好を褒められて喜んでるマモリちゃんが可愛いなって思って!」
「…おまえはオレをどうしたいんだよ…」
その後は何もつっこまず、会場に向かった。
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<闘技場・Bブロック予選会場>
そこに他の選手を圧倒している青年がいた。
ジャンである。
彼は昨日は何事もなかったかのような万全の体調で予選に参加し、あっという間に本戦の出場権を手に入れてしまった。
もともと優勝候補でもあった彼にとって、他の選手なんて目をつぶっていても勝てるといった具合だ。だがジャンにも気になることがいくつかあった。
「…マモリがいないなぁ、Aブロックなのか?ということは当たるとしたら決勝戦か…。楽しみだな!」
昨日のマモリの姿を思い出すと今でもワクワクが止まらないジャンだった。
「…でも…ブライの姿がない。もしブライがAブロックなんだとしたら、きっと俺と当たる前に2人がぶつかってしまう!!ということは、俺はどちらかとしか闘えないのか!?なんてこった!!」
ジャンは頭を抱えて悩み始めた。予選会場のステージの真ん中、気絶している猛者たちの山の上で。
ブライというのはジャンのライバルえある。その実力が互角と町の人間は判断しており、2人の対戦を心待ちにしているのだ。
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<闘技場・Aブロック会場>
予選はAブロックBブロックともにステージがあり、それぞれのステージでサバイバルバトルを行う形式だ。
それぞれのバトルで最後まで立っていたものが本戦出場となる。
各ブロック共に2回の予選を行い、2人ずつブロックの代表を決める形式だ。
Aブロックでの第一予選は、マモリが到着した時にはすでに終わっていた。
誰が残ったのか見ることはできなかったが、もしもマモリが予選に勝てばその人が本戦準決勝の相手になる。
「あ~あ、さっきの予選どんな人が勝ったんだろう。見たかったな…」
「あら、相手に興味があったの?この大会自体になんの興味もないと思っていたわ。」
「それはそうなんだけどさ…できるだけ楽に勝ちたいからね。相手のことは知っておいた方がいいだろ?」
「…マモリちゃんって時々すごく冷静になるわね。」
「もともとそのつもりなんだけど…」
そういうわけなんで、自分の予選時間が来るまで近くの人に聞いてみることにした。
1回目の予選でステージの上でのびてしまった人たちの回収にスタッフが手間取ってるようだったので、その待ち時間を利用して。
「ねえ、お兄さん!」
「ん…?」
片付け中のステージを傍観していた大の男に情報提供を求めるマモリ。
男は急に美少女(のような少年)から声をかけられたと思い、かなりドキッとした。
はたから見れば逆ナンにしか見えない状態だ。
「さっきの試合で勝ったのってどんな人だった?」
「…ああ、さっきの試合な。勝ったのは背の高い女だよ。ものすごい動きでな、全然相手にならなかったよ…」
「相手にならなかったって…?」
「ああ、俺もさっきの予選に出ていたんだ…」
よく見ると男の体はあちこちに痣や傷があった。
「そうなんだ…じゃんよっぽど強かったんだね、その人。…特徴は?」
「そうだなぁ、なんだか全然喋らなくて、目もすわってて、殺人ロボットみたいで怖かったかも…」
「へぇ…わかった、ありがとう!!」
「どういたしまして、ところでこれから…」
「では、第2予選の出場者の方はステージにお集まりください。」
スタッフの開始の呼びかけがかかった。
「あ、オレ行かないと!お兄さんありがとう!」
「えぇぇ!!?君も出るの!?え…!?」
すっかり逆ナンにあっていい気になっていた男は、いろんな意味で驚いてしまった。
ステージの上には自分を含めて15人くらいの男がいた。全員男だった。
最も、他の男から見れば女が一人混ざっているように見えるだろうが。
マモリは左手のイーフリートに包まれた拳を握りしめ、構えをとった。
今回の大会は武器の使用禁止、さらには魔法も禁止のため、炎は使えない。
純粋な肉弾戦の大会なのだ。
周りの男たちも見るからに筋肉の塊のような者ばかりだった。
しかもその男たちはほぼ全員がマモリの方を見ている。
「どうやらお色気作戦は通用しなさそうね…」
スタッフにばれないよう小声で話すガメイラ。
「なんだよその作戦!気持ち悪いこと言うな!…でも、油断を誘うのも無理そうだね。」
「前屈み作戦もね。」
「それはもともと狙ってない!」
そう、これはサバイバルなのだ。サバイバルではその場で最も弱そうな者が真っ先に狙われるのである。
この場合、当然その矢先はマモリに向けられるのだった。
「それでは、開始してください!」
スタッフの呼びかけと同時に男たちがマモリに襲いかかった。
昨日も全く同じような目にあっているため、マモリは自分も男でありながら、つくづく男運がないなと思った。
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<闘技場・観客席>
「本当にあれで男の子なの?どう見ても女の子じゃない!」
「ふぇふぇふぇ…母の血を強く受けているのじゃろう?とても父親には似てないからの。」
「ふーん、まあいいけどね。私の実験に貢献してくれるんだったら、なんだって。」
「本当にお主は悪趣味じゃのう…」
観客席で怪しい会話を繰り広げる金髪の少女と黒ローブの老人。
その老人は間違いなく、マモリを呪ったあの時の老人だった。