ウォーロッセオの闘技場で
<闘技場のある町・ウォーロッセオ>
数百年の歴史を誇る巨大闘技場で有名な町。
今でもその闘技場では毎週何かしらの競技が行われている。
ゆえにこの町には腕に自身のあるもの、闘いが好きな者、またそれを見物したい者がたくさん集まる町なのだ。
「ありがとう、おじさん!ここでいいよ!」
ウォーロッセオ内の商店街でジープを止める。
「そうけ?まあこんだけ人がいれば誰かそのじいさんを知ってるかもな!」
「うん!ほんと助かった。戻ったらまたおいしい野菜食べさせてね!」
「おう、それじゃ気をつけてな!」
マモリはジープを降り、おじさんと別れた。林檎を一つお土産にもらって。
「とにかくあのじいさん探さないと…。この町に居てくれるといいけど。」
「大丈夫よ。きっとこの町にいるわ。」
「なんで解るんだよ。」
「女の勘よ!」
「(女なんだ…)」
自身満々に喋る胸元のペンダント・ガメイラに、マモリは相変わらず何からどう突っ込んだらいいのかわからないでいた。
もらった林檎を食べながら町の中心に向かう。
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<ウォーロッセオ・とある場所>
一人で暮らすには充分過ぎる広さだが、大人数が入るには少し狭い空き家の一室。
「例の娘が町に入ったみたいだね。」
セクシーに足を組み換え、ボトルの酒をコップに注ぎながら話す女。
その狭い部屋には十数人の男たちがぎゅうぎゅう詰めで棒立ちになり、女の話を聞いていた。
「いいかい…しくじるんじゃないよ!」
女は冷たい目をしていたが、その瞳の奥はギラギラさせている。
「「へい!」」
そして男たちはぞろぞろと部屋から出て行った。
どいつもこいつも、どこか普通と違う、いかにも野蛮そうな連中だった。
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<ウォーロッセオ中心部・闘技場前>
「大きいな~…」
大都市の球場と同じくらいある大きな円形の建物を下から見上げ、マモリは大きな亀みたいだなどと考えていた。
「世界中でも有名なウォーロッセオの闘技場よ。毎週いろんな大会が行われるの。賞金も出るのよ!だからこの町には腕自慢や賞金目当ての人がたくさん出るの。」
「へ~ぇ……ガメイラって本当に物知りだね。」
目の前の建物と回りの強そうな人々、それとガメイラの情報が一致しており、マモリはようやくガメイラの知識を信用することにした。
「マモリちゃんも出てみたら?」
「何言ってるんだよ。俺がここに来たのは別の目的が…」
「うふふ、わかってるわよ。ただ今の可愛いマモリちゃんの姿をたくさんの人に見てもらうチャンスだと思って。」
「……なおさら出る気なくなったよ。」
そんなたわいもない話を胸のペンダントとしているマモリは、回りからはきっと電波少女だと思われてるだろう。
ふと正面を見ると、マモリと同じくらいの少女が歩いて来るではないか。
フリフリの可愛らしいワンピース。
シヨートボブの金髪。
手には花瓶の様なものを大事そうに抱えている。
「…可愛い…」
ついそう呟いてしまうマモリ。
その少女に見とれていると、あり得ないことに、ベタなことに、その少女が突然現れたいかにも乱暴そうな男に襲われはじめた。
「キャーーー!」
「ぐへへっ、可愛いなお嬢ちゃん。お兄さんと一緒に遊ぼうや」
お兄さんと言うにはあまりにも無理のあるその男は、少女の腕を掴み、ひょいっと持ち上げた。
「ええ!?」
そんな馬鹿なと言いたいところだが、現に起こっているのだから仕方ない。
「…し、しょうがない、ほっとけないよ!」
マモリはイージスを召還し、剣と鎧を装備する。
「…おい、その子を話せ!」
あまりにも突然な出来事だったが、日頃魔物に襲われてる人を助けるのが日課のマモリにとっては、日常と変わらない行動である。
その声に男と少女がマモリの方を見る。
「おお!もう一人可愛い子がいるじゃねえか!今夜は両手に華…」
まあ手を放さないだろうと思っていたマモリは、男が言い終わる前に動き、剣を振る。
「おおっ!」
男は驚き、少女を掴んでいた手を慌てて放す。
少女はその勢いで倒れ、花瓶が割れてしまった。
マモリはまだ用があるのかと言うように、男を睨む。
男は居たたまれなくなり逃げてしまった。
「ふう、大丈夫?」
少女に手を差しのべる。少女もその手をとり、立ち上がった。
「ありがとう…。…でも、花瓶が…」
「え?ああ、ごめん。…大事な物だったの?」
「そういうわけじゃないけど………う、うぅ…」
少女は泣き出してしまった。
おろおろと慌て出し、言葉に詰まるマモリ。
「お母さんが病気で…でも病院に行くお金がなくて…この花瓶を売ればそのお金ができるはずだったの…」
またしてもそんな馬鹿なと言いたい展開だが、少女の涙を見ては何も言えない。
「…せめて私が大会に出て…賞金を貰えるくらい強かったら…」
泣きながらとんでもないことを言い出す少女。どう見ても大会に出て闘うなんて無理そうだ。
「このままじゃ…お母さん死んじゃう…」
少女の目から涙がボロボロとこぼれ落ちる。マジ泣き。
「わかったよ…オレが大会に出る…。だから泣かないで…」
「…本当?」
まるで少女に丸め込まれたようになってしまったが、マモリは他に泣き止ませる方法が思いつかず大会に出ることを決意してしまった。
「いいの、マモリちゃん?」
「だってしょうがないじゃないか…。ほっとく訳にもいかないし、病院の治療費なんて持ってないんだから…」
「マモリちゃん…将来苦労しそうね。」
ガメイラは心からマモリの将来が心配になった。