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フルアーマー ・クロスドレス  作者: 夢一
2章 武闘大会
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ガメイラ


<カウロイ村>


 スタートロイ王国から少し離れた小さな村。国が統治する、農業や家畜の飼育が盛んな村だ。

 マモリも作物を買いに、母のアイリと何度か来ていたため、よく知っている村だ。

 最近では山賊がよく食料を奪いに来るため、スタートロイの兵士が常駐している。


 老人はこの村の方向に来たのを見ていたマモリは、ここで情報を得ようと立ち寄ったのだった。


「あのじいさん、ここにいてくれたらいいんだけどな…。いなくても誰か見たっていた人がいたらいいんだけど…」


「あれ?マモリ君でねか!」

「(ギク!)」

 小太りのおじさんがマモリに声をかけた。マモリがカウロイ村に来るたびに、野菜を分けてもらったりとお世話になってるおじさんだった。

 だが女装しているため、あまり知ってる人には会いたくないマモリだった。


「どした、そんなめんこい格好して。マモリ君は女の子だったかいな?」

 陽気に笑いながらマモリに近づくおじさん。

 いつもならその陽気な笑いにとても癒されるのだが、今回は事情が違っていた。


「…どうもおじさん。いつもお世話になっています。」

 マモリは苦笑いでその笑顔に応え、挨拶する。

「この格好は…まあいろいろ事情があって…あんまり触れないでください。」

 顔を真っ赤にするマモリ。説明するにもなんと言っていいかわからない。男の格好ができなくなったなんてバカバカしい気もして言うに言えなかった。


「わはは。そんな下ばっかり向いてっと、お天とさんに怒られるぞ!似合ってんだから堂々としろ!」

 おじさんの言葉に少し安心したマモリは、老人のことを聞いてみることにした。


「おじさん、今日は別の用事で来たんです。昨日杖に乗った黒いローブのおじいさん、この村に来ませんでしたか?」

「ローブのおじいさん?ああ……どうだったかなあ…わからねえや。」

「そ、そうですか…」

 別にとぼけている様子もなく、すっとんきょうな返事をするおじさんだった。

 その時…


ドガァァァン!!!


 何か硬い物を壊すような大きな音に驚くマモリとおじさん。

 その直後にガラの悪そうな大きな声が響き渡る。


「オラオラオラー!さっさと食料を出しやがれ!ここの食いものは山賊・バーバリ団のものだろうが!」


**********


 マモリとおじさんはすぐにその場に駆け付けた。

 そこにはさっき声を上げたリーダー格の長髪の男と数人の乱暴そうな男たちが、村の物を壊してまわっていた。


「おじさん…こいつらは!!?」

「…この辺を荒らしている山賊だ…」

「でも城の兵士がいるはずじゃ…そのおかげで山賊はいなくなったって聞いてたのに!」

「…ああ、なんでも昨日、大きな怪獣が街を壊したらしくってな…その復旧で城に戻ってんだ…!」

「あっ!(…あの巨大ババロンのせいだ…!)」


 マモリは兵士不在の訳を知り、それをどこかで聞いたこの山賊たちが戻ってきたんだとわかった。


「…ん?なんだかやけに可愛い娘がいるじゃねえか!あいつは俺の物にしよう…」

 長髪の男がマモリに気づき、全身を見定めた。それはもう、頭から足の先まで、舐めるように。

「へへ、おい野郎ども!あの娘を捕まえてこい!!」

「「へい!!」」


 マモリに男たちが襲い掛かってくる。凶悪そうな顔立ちだが、どこか下っ端感の拭いきれない男たちが。


「わ、来た……フルアーマー・イージス!」

 魔空間にしまっておいた聖剣イージスと、その服を召喚する。


 イージスを手にするやいなや、マモリは襲いかかる男たちの手を華麗にかわしながら、男たちが持っている武器を次々と破壊していく。

 実戦で使うのは初めてだったため、その動きにマモリ自身も驚いた。羽のように体が軽く動くのだ。

「この剣…すごい!」


「な…なんだこの女…!」

 驚く長髪の男。


「女じゃない!オレは…男だ!」

 まあ、そう言われてもまずは信じられないだろう。

 山賊たちからすれば、マモリはどう見ても美少女剣士だ。


「嘘つけぇぇ!そんな可愛い娘が男のはずがあるかぁ!」


 マモリは勢いに乗せて長髪の男に切りかかった。

 長髪の男はギリギリその攻撃をかわす。が、持っていた武器を手放してしまう。

 だがすぐに体勢を整え、マモリに突っ込んできた。

 至近距離で懐の小刀を取り出し、マモリの腕を狙う。

 マモリもその攻撃をよけるが、胸元のガメイラに小刀が当たってしまう。


「あ!!!」

「小娘が…なめるなー!」

「男だって言ってるだろー!」


 お互いが一度後ろに跳び、すぐに切りかかる。

 長髪の男の攻撃をさらに前に突っ込むことでにかわし、背後に回り、マモリは長髪の男の後頭部を柄で強く打った。


 長髪の男は気を失い、前のめりに倒れた。


「うわぁぁ…」

 慌てる下っ端たち。

「し、しかたねぇ…ずらかるぞ!!」

 そう言って武器を破壊された下っ端たちが、長髪の男を担いで逃げて行った。


**********


「…ふう。」

 軽く一仕事終わったというように溜息を吐くマモリ。


「マモリくん、ありがとう!それにしても強えな~…戦う美少女!勝利の女神様だ!」

 おじさんが笑いながらマモリの肩をたたく。

「ちょ…それはやめてよ、おじさん!」


「お姉ちゃんありがとう!」

 近くで見ていた少年や少女、村人が次々とお礼を言う。

「だからオレは……はぁ、もういいや。」

 みんなの笑顔でどうでもよくなった。むしろこの場合、男と思われた方が変態扱いされるんじゃないかと思うマモリだった。



「へぇ…なかなか可愛いわね、マモリちゃん。」


 すぐ近くから突然声が聞こえ、マモリは警戒心を強めた。

「!!」

 周りを見回してみても声の主らしき人はいない。というか、その声元はあまりにも近すぎた。


「ここよここ!下!」


 マモリは母の言葉を思い出す。

 ――今はまだ眠っているみたいだけど、じきに目を覚ますわ――

 確かにそう言っていた。マモリは恐る恐るガメイラを見る。


「そうよ!私!ガメイラ!」


 その声は確かに胸のペンダントから聞こえていた。


「さっき目が覚めたわ。ここわ…カウロイ村ね。私が起きたってことは…。マモリちゃん?」

「え!?…いや…えぇ!!?」

「何驚いてるのよ…。それにしてもマモリちゃん大きくなったわね。」

「え!何言ってるの…?オレのこと知って……君(?)、なんなの?」


 急に馴れ馴れしく話しかけてきたペンダントに戸惑いを隠せない。


「私は人格魔導具のガメイラよ。あなたの旅のサポートをするためにあなたのお父さんゼウに作られたの。その時あなたはまだ小さかったから覚えてないわよね?」


 覚えてないどころか、こんな奇妙な存在が家の物だったなんて全く知らなかった。


「私にはこの世界の全てに近い知識が入っているわ。それはきっとこれからのあなたに必要なもの。」

「…どういうこと?」

「…ん?だから、これからあなたが旅をするために私の知識が必要になるだろうってこと。」

「旅って…俺は用事は終わったらすぐに帰るつもりなんだけど…」

「え?」


 ガメイラはしばらく黙り、また声を出した。顔も口もないから話し出すタイミングが全く読めない。


「その用事って…その呪いを解くことでしょう?」

「呪いのこともわかるの!?」

「ええ。あなたは今男の子の服が着れない呪いにかかってる。あなたから魔力をもらって話してるんだから、それくらいわかるわ。その呪いをとくためにってことよね?」

「そう!そういうこと!!」

「…だったら私が力を貸してあげる。っていっても、まずはその呪いをかけた張本人を見つけなくちゃだけどね。」


 その言葉でマモリは老人を探していることを思い出した。


「そうだよ!あのおじいさんを探さなきゃ!誰か知ってる人…」


「おおい、マモリくん!!」

 それぞれの作業に戻っていく村人の中、おじさんにまた声をかけられた。

「さっきはありがとな。兵士さんも明日にはまた戻ってくれるらしいてよ。」


「そうなんだ!良かった!」

 その言葉を聞いてマモリは安心する。

 実は自分が村から離れて大丈夫かと心配していたのだ。


「それからな、さっきマモリくんが言ってた杖に乗ったローブのじいさんの事、思い出したよ!昨日確かに黒い何かが杖に乗ってウォーロッセオの方に飛んでいくのを見たんだった。」

「え!!……ウォーロッセオかぁ…遠いな。」

「これから作物を届けに行くんだけど、一緒に連れて行ってあげようか?」


 おじさんはもともと作物をいろんな場所に届けるような仕事をしていたので、専用のジープを持っている。

 ウォーロッセオは歩いて行ったら一週間はかかるような場所だ。

 マモリはこれを絶好のチャンスと思い、乗せてもらうことにした。


「ありがとう、おじさん!よろしく頼むよ!!」

「よし!!じゃあ家に行ってジープに乗ってな!すぐ準備すっから。」


**********


 マモリは行き慣れたおじさんの家に行き、ジープに乗った。

 しかし、老人が思っていた以上に遠くに行っており、本当に呪いが解けるのか不安になっていた。


「大丈夫よ。ウォーロッセオに行けば確実にそのおじいさんに会えるわ。」

 ガメイラの言葉には確信があるようだった。


「それにしてもマモリちゃん…」

「…何?」

「美人に育ったわね。」

「やめてよ!」


 そしてマモリを乗せたおじさんのジープは、ウォーロッセオに向けて出発したのだった。


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