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婚約破棄された氷の公爵令嬢は、隣国の冷酷皇太子に拾われ溺愛されながら全てを奪い返す〜裏切り者には最悪の結末を〜

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/03/27

 その日、全てが終わった。

「エリシア・フォン・ルヴァリエ、公爵令嬢よ。お前との婚約は破棄する」

 王宮の大広間。

 華やかな夜会の中心で、私は断罪された。

 婚約者である第一王子アルフォンスの隣には、見知らぬ女が寄り添っている。いや——知っている。最近噂になっていた平民出の少女だ。

「貴女は冷酷で、民を顧みない悪女ですもの」

 少女は勝ち誇ったように笑った。

 周囲の貴族たちもざわめく。

 ——すべて仕組まれている。

 私は理解していた。

 この国は、私を切り捨てるつもりなのだと。

「何か言い残すことは?」

 アルフォンスが見下ろしてくる。

 私は静かに微笑んだ。

「いいえ。——ただ一つだけ」

 その瞬間、空気が凍りつく。

「貴方たちは、必ず後悔する」

 それだけを言い残し、私は王宮を追放された。

 雪の降る国境。

 全てを失った私の前に現れたのは、一人の男だった。

「面白い女だな」

 銀の髪に冷たい紅の瞳。

 その男は、まるでこの世の支配者のような存在感を放っていた。

「私は隣国ヴァルディア帝国の皇太子、レオンハルトだ」

 その名を聞いた瞬間、背筋が震えた。

 冷酷無比、敵には容赦のない“氷皇”。

「行く宛てがないのなら、来い」

「……なぜ、私を?」

 問うと、彼は楽しげに笑う。

「復讐したい顔をしている。気に入った」

 ——その一言で、運命が変わった。

 帝国での生活は、想像以上だった。

「エリシア、お前はもう私のものだ」

 初日からそう言い切ったレオンハルトは、狂気じみた執着を見せた。

 衣装、住まい、護衛。

 すべてが最高級。

 だが、それ以上に。

「誰がお前を傷つけた?」

 彼の声は、静かに怒りを孕んでいた。

「……王国の者たちです」

「ならば潰そう」

 あまりにもあっさりと告げる。

 私は思わず笑ってしまった。

「ふふ……本当にやるのですね」

「当然だ。お前は私のものだからな」

 その言葉に、胸が熱くなる。

 失ったはずの居場所が、ここにあった。

 復讐は、完璧に進んだ。

 まず、王国の財政を崩壊させる。

 次に、貴族たちの不正を暴露。

 そして——

「アルフォンス王子、貴方は国家反逆罪で拘束されます」

 帝国軍が王宮に踏み込んだ。

「な、なぜだ!?エリシア!」

 縋るような声。

 私はゆっくりと歩み寄る。

「覚えているかしら?“後悔する”と」

 彼の顔が青ざめる。

「やめてくれ……!」

「もう遅いのです」

 冷たく言い放った。

 隣では、あの少女も震えている。

「助けて……!」

「あなたも同罪です」

 私の一言で、彼女は絶望に沈んだ。

 全てが終わった夜。

 帝国のバルコニーで、私は空を見上げていた。

「満足したか?」

 背後からレオンハルトが抱き寄せる。

「ええ……全部、終わりました」

「ならば次だ」

「次?」

 振り向くと、彼は真剣な顔で言った。

「今度は、お前を幸せにする番だ」

 その言葉に、心が震える。

「……もう、十分すぎるほど頂いています」

「足りん」

 きっぱりと言い切る彼。

「お前は、これからも私に愛され続ける」

 強く抱きしめられる。

 その腕は、どこまでも優しく、そして逃げられないほど強かった。

「エリシア。——愛している」

「……私も、愛しています」

 かつて全てを奪われた私が、今は全てを手にしている。

 復讐も、愛も。

 そして——

 この冷酷な皇太子の、底なしの愛情も。

 こうして、氷と謳われたプリンセスは。

 世界で最も危険でありながらも、その鋭さを矯めて一途に一人の女性に想う男に愛されながら、

 誰よりも幸福な人生を歩むことになったのだった。



◆ ◆ ◆ ◆



 帝国は、静かに繁栄していた。

 かつて王国を崩壊へと追い込んだあの戦いから、半年。

 今や私は——正式に、帝国の次期皇妃として認められている。

 だが。

「エリシア、どこへ行く」

「……庭園へ散歩に」

「一人で?」

 背後から、ぴたりと腕が絡め取られる。

 ——逃げ場はない。

「護衛はつけていますわ」

「足りないな」

 即答だった。

 私は小さくため息をつく。

「レオンハルト様。さすがに過保護では?」

「当然だ」

 彼は一切迷いなく言い切った。

「お前は私のものだ。万が一にも危険に晒すわけにはいかない」

 その声音は、静かで。

 けれど底に沈む狂気は、以前よりも濃くなっている。

 ——完全に囲われている。

 けれど、不思議と嫌ではない。

 庭園に出ても、状況は変わらない。

 数歩歩くだけで、背後に気配。

「……ついてきていますね」

「当然だろう」

 いつの間にか隣にいる。

 もはや気配を消すことすら隠さない。

「仕事はよろしいのですか?」

「終わらせた」

「先ほど山積みでしたよね?」

「全て片付けた」

 さらりと言う。

 ——この人、本当に人間なのかしら。

 そんなことを思っていると、不意に手を取られる。

「冷たいな」

「風が強いですから」

 次の瞬間。

 ふわり、と温もりに包まれた。

 彼のマントだ。

「……レオンハルト様」

「風邪を引くな。お前が弱るのは許さない」

 至近距離で囁かれる声。

 鼓動が、嫌でも速くなる。

「大げさですわ」

「大げさで結構だ」

 そして。

「お前に関しては、全てが最優先だ」

 ——重い。

 けれど、その重さが心地よい。

 その日の夜。

 私は自室で書類を整理していた。

 皇妃教育の一環として、政務にも関わるようになったのだ。

 すると、扉も叩かずに入ってくる影。

「……またですか」

「問題ないだろう」

 当然のように隣に座る。

「問題はあります」

「ない」

 即否定。

 そして、私の手元の書類を奪い取った。

「これは明日でいい」

「いけません。期限が」

「延ばした」

「……勝手に?」

「当然だ」

 もう言葉が出ない。

 彼はそのまま、私の肩を引き寄せた。

「少しは休め」

「十分休んでいます」

「足りない」

 低く囁く声。

 そのまま、額に軽く口づけられる。

「……っ」

「顔が赤い」

「……近いのです」

「もっと近くてもいいが?」

「それは……」

 言葉に詰まると、彼は満足そうに笑った。

 しばらくして。

「エリシア」

「はい」

「逃げるなよ」

 不意の言葉。

 私は目を瞬かせる。

「逃げる理由がありません」

「そうか」

 彼は、ほんの一瞬だけ安堵したように目を細めた。

 ——この人は。

 こんなにも強く、冷酷なのに。

 時折、ひどく不安定になる。

「どこにも行きません」

 私はそっと、その手に触れた。

「私は、ここにいます」

 すると。

 彼は強く、私を抱きしめた。

「……ああ。離さない」

 まるで、奪われることを恐れるかのように。

 翌日。

 帝国中に、新たな噂が流れた。

 ——皇太子が、未来の皇妃を溺愛しすぎている、と。

 実際、その通りだろう。

 会議中でも視線は常にこちら。

 他の男が話しかければ即座に割り込む。

 距離が近ければ、不機嫌になる。

「レオンハルト様」

「なんだ」

「少しは控えてください」

「無理だ」

 秒で否定された。

「お前がいる限り、無理だ」

 そして当然のように手を絡めてくる。

 ——諦めるしかない。

 夜。

 再び、二人きりの時間。

「エリシア」

「はい」

「お前は、私のものだ」

「ええ」

 もう否定する気はない。

 それどころか。

「レオンハルト様も、私のものです」

 そう言い返すと。

 一瞬、彼は目を見開いた。

 そして——

「……そうか」

 低く笑う。

「いいだろう。互いに逃げ場はない」

 その言葉と同時に、唇が重なる。

 深く、逃がさないように。

「愛している」

「私も……愛しています」

 もはや、この関係に終わりはない。

 復讐の果てに始まった関係は、

 今や、どこまでも歪で、どこまでも甘い。

 そして——

 誰にも壊せないほど、強く結びついている。

 氷の令嬢は、もう孤独ではない。

 冷酷な皇太子に捕らえられ、

 逃げ場を失いながらも、幸福に満たされている。

 それはきっと——

 この世界で最も、危険で、甘い愛の形。

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