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聞こえない声
どうしよう。
鉢が取れた。
『姫!姫っ!!』
慌てて鉢を拾い上げて呼びかける。
鉢の中に顔を突っ込んで耳を澄ます。
――聞こえない。
さっきまで笑ってたのに。
力が抜けて、鉢を抱えてぺたんと座り込む。
様子のおかしい私に気付いて、志朗様が慌てて顔を覗き込む。
「はち?大丈夫?!」
「志朗様……」
――弱々しくなんかなかった。
そこには意志の強そうなキリッとした眉に引き締まった顔立ちの青年がいた。
驚きと戸惑いと心配と、少しの喜びがまぜこぜになった顔をしてる。
「どうしよう。鉢が取れちゃって――」
「うん。良かった」
私の頭もぐちゃぐちゃだ。
腕に抱えた鉢からは、やっぱり何の声も聞こえない。
「良かった……?」
ぜんぜん良くない。
だって姫の声が聞こえない。
ここへ来てからずっと一緒で、ずっと笑ってて、いつも「ばかねぇ」って呆れてて――。
涙がどんどんあふれてくる。
見上げると白い月が大きくにじんでて、志朗様が心配そうにこっちを見ている。
「私……」
私、姫がいないのにどうして生きてるんだろう。姫の体で。
おかしくない?
おかしくないわよって言ってくれる姫がいないのに――。




