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プロローグ
彼が私の両手を取って向かい合った。
その手の感触をすっかり覚えてしまっている自分に絶望する。
「はち――。嫌い?何でも言うこと聞くよ?」
「なんでも……」
私の手を痛いくらい握りしめる。
この人は、なんでこんなに必死なんだろう?
でも、見上げると、彼の口元は笑ってる。
「うん。……なんでも」
してほしいことなんて何にもない。
ただそこにいてくれたらそれでいい。
それから、はちって呼んで――。
「はち」
彼の手がゆっくり動いて頬に触れようとした時――
『はち!』
姫の慌てた声が聞こえて頭の重みが急になくなる。
ゴツンと何かが落ちる音がして、一気に視界が広くなった。
目線の先には、よく知ってるのに見慣れない顔があって。
その向こうに、明るい月が見えた。




