表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きなのは、あなただからで誰でもいい訳じゃない  作者: 櫻木サヱ
優しいね、の一言

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

偶然の接点

放課後の教室は、誰もいないはずなのに、微かに机と椅子の軋む音が響く。


私は窓際に座り、ぼんやりと外を見ていた。



「A、あの……ノート貸してくれる?」


振り向くと、そこにはSが立っていた。

普段は笑顔を絶やさず、誰にでも優しいSが、今、私にだけ目を向けている。


心臓が一瞬、


跳ね上がった。


「え……あ、いいよ」



慌ててノートを差し出すと、Sは少しだけ微笑んだ。その笑顔はいつも通りなのに、なぜか胸に刺さる。


「ありがとう。助かる」



ほんの一言だけど、その声が、教室の静けさに響いた。私の心はざわつき、手のひらに汗が滲む。


Sはノートを受け取り、軽く頭を下げて自分の席へ戻っていった。

私もつい視線を追ってしまう。

戻ってくる途中、Sは友人に小さく笑いかけながら言葉を交わす。


そのささいな仕草ひとつひとつに、心がぎゅっと締めつけられる。


私はノートを握りしめながら、息を整えようとする。しかし、机の上に置いたペンが小さくカタカタと音を立てるたび、頭の中にはSの笑顔が繰り返される。


触れられない距離、でも確かに隣にいる存在。


次の瞬間、Sが振り返り、私に視線を向けた。


目が合う。


短い時間だったけれど、確かに私を見ている。


胸の奥が熱くなり、手が震えるのを感じた。

Sは微笑んだまま、すぐに友人の方を向く。


まるで何事もなかったかのように。


でも、私は知っていた。


Sの笑顔は誰にでも向けられるものだということも、私が特別扱いされているわけではないという現実も。それでも——その笑顔をこの目で見られるだけで、胸の奥が少しだけ満たされる。


教室を出るとき、廊下ですれ違ったSが私の肩に軽く触れた。


偶然の接触なのか、それとも意図的なのかはわからない。


ただ、触れられた瞬間、心臓が飛び出しそうになる。私は顔を少し背け、息を整える。


「……やっぱり、Sが好きだ」


誰でもいいわけじゃない。


Sだから、

私はここにいる。


距離が遠くても、特別扱いされなくても、この気持ちは揺るがない——そう自分に言い聞かせながら、私はゆっくり教室を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ