曖昧な想いの重さ
夕暮れが教室の窓から差し込む。
オレンジ色の光が机に反射し、影を長く伸ばしている。
私はノートに文字を走らせながらも、視線は自然とSに向かう。
Sはいつものように、友人たちと笑い合い、軽やかに話す。
心臓が跳ねるたび、
胸の奥が痛くなる。
触れたいのに、
触れられない。
声をかけたいのに、
かけられない。
放課後の教室は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。
私はSが自分の方を見ていないことを、誰よりも知っている。
なのに、
視線が自然と追ってしまう。
どうして、
こんなに心が揺れるのか
——自分でも答えはわかっている。
「好きだから」。
Sにとって、私はただの隣にいる存在でしかない。
誰にでも笑顔を見せるSに、私が特別扱いされることはない。
けれど、
それでも私はSを見つめ続ける。
誰でもいい訳じゃない、Sだから。
心の中で小さく呟く。
「触れられない距離でも、Sのそばにいたい」
友人のKが教室に入ってきて、Sに何か話しかける。
Sは笑顔で応え、頷く。
そのやり取りを見て、私は胸がざわつく。
自分の存在が届かないことを、
改めて思い知らされる瞬間。
誰でもいい訳じゃないのに、私はまだSの笑顔だけで胸を満たされようとしている。
その夜、帰り道で私は空を見上げる。
夕焼けが少しずつ色を失い、夜の気配が広がっていく。
Sに触れられない距離を前に、胸の奥にぽっかり穴が空いたような感覚があった。
誰かに相談できるものでもない、ただ私だけの苦しさ。
それでも、諦めきれない自分がいる。
Sの存在は大きすぎて、他の誰かで埋められない。
誰でもいい訳じゃない、
Sだから——この想いは誰にも替えられない。
家に着くと、ノートを開き、今日見たSの姿や、胸の奥で揺れた感情を文字に書き出す。
書くことで少しだけ整理できる。
けれど、整理されるのはほんの一部で、胸の痛みは消えない。
心の奥で、Sだけが特別であることを再確認する。
布団に横になり、天井を見つめる。
心の中で何度も繰り返す。
「好きなのは、Sだから。誰でもいい訳じゃない」
言葉に出せない想いは、胸の奥で熱く燃え続ける。
触れられない距離、
伝えられない想い、
それでもSの隣に立ち続けたい——そんな曖昧で、重い想いを抱えながら、私は眠りについた。




