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好きなのは、あなただからで誰でもいい訳じゃない  作者: 櫻木サヱ
始まりは、いつも曖昧だった

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3/4

触れられない距離

放課後の教室は、まだ昼の名残の光が差し込み、机や椅子の影が長く伸びている。


窓際の席に座る私は、ノートの端に文字を走らせながらも、視線は自然にSの方へ向いてしまう。

Sは友人たちと楽しそうに話し、時折笑い声を上げる。


ーその笑顔を見て、胸の奥が熱くなる。


けれど、同時に、距離が遠すぎることを痛感する。

Sと私の間には、目には見えないけれど、確かに厚い壁がある。


私はその壁を押し破ろうとすればするほど、余計に心が緊張して、足元も手先も硬直する。触れたい。声をかけたい。

だけど、それをしてしまえば、Sとの関係が壊れてしまうのではないかという恐怖が先に立つ。


「A、今日は手伝ってくれないの?」


教室の片隅でMの声が響く。


「え、あ……うん」


ぎこちなく返事をする。

ノートを閉じ、重い足取りで黒板の方へ向かう。


心の中でSの存在が大きく膨らむ一方で、現実に戻される感覚。


Sは遠く、手の届かない場所にいるのだと、改めて思い知らされる。


廊下に出ると、Sが友人と並んで歩いていた。

偶然、目が合った気がする。

Sは一瞬私を見たような気がしたが、すぐにまた友人の方を向き、楽しそうに話し続ける。

私の胸がぎゅっと締めつけられる。


触れたい。


話したい。



だけど、


私の声はそこに届かない。

まるで、風に吹かれる落ち葉のように、距離感だけが強調される。


私は歩きながら、自分の胸の奥で小さな呟きを繰り返す。

「誰でもいい訳じゃない……Sだから、私はここにいる」


言葉に出せない想いは、胸の中でだけ生きている。

Sの存在があまりに大きく、触れられないことで痛みもまた増していく。


それでも、


ただそばにいられるだけで、少し救われる気もする。誰も知らない、

二人だけの関係——触れられないけれど、存在を確かめ合う静かな時間。


教室に戻ると、Sはまだ友人たちと笑っている。


私の目には、

Sの笑顔が眩しくて、


刺さる。


誰でもいいわけじゃない、誰にも替えがきかない。


それなのに、

Sは他の誰かと笑っている。


私の心が少しずつ削られていくのを感じる。


それでも、私は自分に言い聞かせる。



「この距離だからこそ、私はSを見守れるんだ」


触れられない距離を前に、胸の奥がじりじりと痛む。


だけど、Sの隣に立ち続けることが、

今の私の精一杯の選択だった。


誰にも知られない、この心の痛みを抱えながら、私は今日もSの笑顔を遠くから見つめる



——そんな午後だった。


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