誤解の影
翌日の放課後、教室にはわずかに残る生徒たちのざわめきがあった。私は鞄を抱えつつも、心は昨日のSとの触れ合いにまだざわついていた。あの偶然の手の触れ合いが、胸に甘く残り、日中の授業中も何度も思い返してしまう。
「A、ちょっといい?」
声に振り向くと、Sが廊下の奥から歩いてくる。しかし、その表情は昨日の柔らかい笑顔とは少し違い、どこか気まずそうに見えた。私は胸の奥で小さな違和感を覚えながらも、自然に近づく。
「どうしたの?」
問いかける私に、Sは少し戸惑ったように目を逸らす。手には昨日の資料の一部が混ざった封筒を抱えていた。
「えっと……あの、昨日の……ちょっと、別のことで話したいことがあって」
その言葉に、私は胸が少し冷たくなるのを感じた。昨日のあの触れ合い、あの微笑み……Sはまさか、私の気持ちに気づいていないのだろうか。それとも、意図せず誤解してしまったのか——心の中で複雑に揺れる。
「……うん、聞くよ」
私はそっと頷き、Sの横に立つ。距離は昨日よりもわずかに遠い。手が触れそうで触れないその距離に、胸の奥が締め付けられる。
「昨日、Aが手を……あの、手を貸してくれたとき、少し驚いたの」
Sの声は小さく、でもどこか柔らかさが残っていた。私は息を呑む——驚いたのは事実だろう。でも、その言葉の裏に、誤解や戸惑いがあることも感じた。
「え、私……?」
咄嗟に口に出す。Sの視線は少し逸れたまま、微かに肩をすくめる。昨日の出来事が、予想以上にSに緊張感や誤解を与えてしまったのかもしれない。胸の奥がぎゅっとなる。
「ごめん……別に悪気はなかったんだけど」
言葉を選びながら、私は真剣にSを見つめる。Sも私の真剣な眼差しに少しだけ安心したようで、肩の力を抜いた。だが、その間にも心の中でざわつく感情が、胸の奥で熱を帯びていく。
教室の静けさの中で、互いの呼吸や微かな仕草、視線の動きが、言葉以上に気持ちを伝える。触れられない距離がもどかしく、でも確かにお互いの存在を感じる瞬間——それは甘く切ない感覚を胸に残した。
帰り道、街灯の下を歩く私は、今日のSの言葉や仕草を思い返す。誤解は一瞬心を締め付けるけれど、互いの気持ちは確かに近づいている。小さなすれ違いさえも、心の距離を縮める伏線なのかもしれない。
夜、布団に潜り込み、天井を見つめながら、私はそっとつぶやく。
「誤解しても……Sのこと、もっと知りたいし、もっと近くにいたい」
甘く切ない誤解と、確かな気持ちが胸の奥で混ざり合い、恋心をさらに深めていくのを感じていく。




