オルゴールの心臓が動くとき
夜を恐れ、中々寝つけない主を思ったご両親からの優しさ。それが私です。癒しを届けておいで、とお父様から贈られた私の心臓は幼子の寝かしつけ役にぴったりでした。
と言っても、私の心臓はそう長くは奏でられません。そのため、心臓が止まりかけると、主のご両親がぜんまいを巻く。それを何度か繰り返し、主は眠りに就くことができました。
そんな寝かしつけも、いつしかお役御免となりました。成長した主は一人で眠ることができるようになり、私は物置の奥へと仕舞われることとなりました。一度、主が嫁入りの際に光を浴びましたが、心臓は止まったまま、仕舞われてしまいました。
光の射さない闇の中、私の心臓が動くことはありませんでした。この心臓が動くことは二度とないのだろうと思いながら、眠っておりました。
ごそごそという物音に私は目を覚ました。しばらくすると、手が伸びてきて、私を持ち上げました。手の主は記憶にあるものよりも歳を重ねた顔立ちをしておりました。
“ばあば”と呼ばれた主でした。そして、もう一人、少女がいました。
少女は昔の主と同じように夜を恐れる顔をして震えておりました。
「久しぶり」
主は愛しそうに私を撫でると、私を片腕に抱き、少女の手を引きます。
連れられたのは灯がぽつんと光る寝室。主の手によりぜんまいが巻かれ、心臓が動き出す。
止まっていた心臓は人の手でのみ動き出す。決して大きくはないけれど、可愛らしい拍動がメロディーとなる。
灯の淡い光の傍で、彫刻の施された木目の蓋が開かれる。ガラス一枚を隔て、私の金色の心臓が向き出しにされる。
ピカピカな心臓が奏でるのはキラキラと輝く星の歌。星々が瞬く中、私の心臓は愛らしい旋律を奏でていく。
この心臓が脈打ち、星々を歌うのは随分と久しぶりのこと。上手に拍動を伝えられるだろうか、と緊張したものの、昔のように心臓は歌ってくれる。
少女が私の心臓を見つめます。
「きれい」
少女は私の心臓に触れようと手を伸ばしますが、ガラスが守ります。褒めてもらえるのは嬉しいのですが、お父様からいただいた大事な心臓にそう容易く触れられるわけにはいきません。
穏やかな顔つきになった少女と安心した様子の主。少女は私の心臓の鼓動に合わせて星の歌を上手に歌います。主の歌声も加わります。
「まだつき合ってくれる?」
尋ねる主の手に応じるように私の心臓は力強く奏でます。
夜のひと時は怖くない。眠りに就くのは少し先のようです。




