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第二話 コンプレックスを力に?

 

『さぁ!どう動く二人の陰キャ!!』


 二人は無言のまま距離感を取りつつ、互いの出方を疑う。

 陰バは無言が基本。

 数秒の睨み合いだが、時間が長く感じる。

 どちらが先に動くか。


闇叫(ダーク・オーディオ)……」


 ボソッと呟き、先手を打ったのはルーキー陰キャ銀河。

 ほっぺが膨らむ程息を吸う。


「わっ!!」


 大きく口を開けて、ボソッとした声からは想像出来ない程の大声を撃ち放った。

 口から衝撃波が放たれて机の上の椅子が弾け飛んで、佐々本先輩へと飛んでいく。


『彼のアビリティは声だ!どう対抗する陰キャ佐々本!!』


 周りの陰キャ達は耳を塞ぎ、飛んできた椅子を身体を揺らして避ける。

 だが、佐々本先輩もその大声に耳へのダメージを受けた。


 佐々本権 HP100→85


 更に飛んでくる椅子にに対抗する。


蓄蓄髪(バリバリ・ヘアー)


 ボソッと呟くと、先輩のもじゃもじゃした髪が針のように尖り、1メートルも伸びた。

 飛んできた椅子を髪が貫通して先輩に届く前に食い止めて、逆に投げ返した。


『彼のアビリティ蓄蓄髪が、椅子から守った!!』


 逆に投げ返された椅子が銀河君の肩に掠った。


 綺羅星銀河 HP100 → HP91


『二人のアビリティが早速ぶつかって行く!!』


 そう。これが僕ら陰キャのみが持つ能力。

 "コンプレックス・アビリティ"。略してコンプレ・アビリティ。


 我々陰キャが持つコンプレックス。マイナスの要素となる部分が陰バでプラス効果に働く。

 銀河君の場合は、声が能力になっている。つまりは声に何かしらのコンプレックスがあり、それがアビリティに繋がっている。

 それに佐々本先輩もあのチクチクしてそうな髪がコンプレックスなのだろう。それがアビリティとなっている。


 二人のアビリティの披露が終わり、また一旦の静寂を迎えた。


 30秒経過──


『30秒が経過した!!ここからはカードの使用が許可されるぞ!!』


 二人のスマホの上より3枚のカードが浮かび上がった。

 そう、これが陰バを左右するもう一つの戦略要素のカードだ。

 バトル中、40枚のデッキからランダムに最大3枚のカードが常に浮かび上がる。

 そのカードを駆使してバトルを有利に動かす。

 二人は手札を覗き、銀河君がカードを一枚選び発動した。


「僕は強化カード"スピードフォース"を発動!!」


 カードは三種類。強化カード、補助カード、攻撃カードが存在する。

 今のカードの種類は強化カードだ。


『スピードフォースはバトル中速度を1.2倍にする!この狭い空間なら距離を詰めるにはもってこいだ!』


 ──TIME 0.20──


 体力ゲージの上にタイマーが表示された。

 次のカードを使用したい所だが、そうはいかない。

 使用しカードには発動ラグが存在し、プレイヤーはカードの強弱で次のカードの使用までの時間が掛かるシステムだ。

 今回のスピードフォースの場合は20秒の発動ラグがある。

 その為、自分は次の使用タイミングで使えるカードを選びつつ、逆に相手は敵のラグがあるうちにカードを使用して攻めるという駆け引きがある。

 だが、ラグが無くなってカードを使用出来るようになっても発動しない者ももちろんいる。

 そしてカードを発動すると、そのカードは消えて次のカードが手札に加わる。


 銀河君は狭い理科室ながらも素早く動いて距離を詰めて行く。

 その間に息を吸って次の攻撃に備える。

 さぁ先輩はどう動く。この状況で。


「攻撃カード"アトミック・ブラスト"!!」


 先輩がカードを発動するした。

 すると後ろから無数の火球現れ、銀河君目掛けて飛んで行った。


『アトミックブラストは攻撃魔法!!相手への直接攻撃が可能!!ラグは30秒だ!!』


 銀河君は飛んでくる火球を掠りながらも避けた。

 だな、速度が上がっているとはいえ、避けるのは容易ではない。


「蓄蓄髪!」


 佐々本先輩は銀河君が逃げる先に現れて、トゲトゲの髪を一気に伸ばした。

 咄嗟に銀河君の少量溜めたボイスを放った。


「わっ!!」


 少しだけ溜めたボイスでは吹き飛ぶまでには行かなかった。

 佐々本権 HP85→75


 先輩はダメージを受けながらも攻撃を止めず、髪が銀河君を襲い、身体中に突き刺さった。

 そこに飛んできた火球も直撃して、壁に叩きつけられた。


「ぐわっ!」


 綺羅星銀河 HP91→47


『おおっと!攻撃カードとのコンボ攻撃で一気に体力を半分奪った!!』


 流石は3連勝陰キャ。戦いをよく理解している。

 フィールドの状況を把握して、的確なカードを使用している。


「これは佐々本君の勝ちかもしれんな」

「ルーキーじゃ流石に無理か」

「戦いの差がここで出るかぁ」


 観戦している陰キャ達も諦めている。

 やはり連勝陰キャの方が強いか。

 余裕が出来た先輩は勝ちを確信して、ゆっくりと近づく。

 髪を尖らせ、ぐったりとしている銀河君に突きつけた。

 勝負ありか──


「補助カード"トリモチ"発動!!」

「何!?」


 突然起き上がりカードを発動した銀河君。

 先輩の足元にもっちりとした餅を踏んでいる。


『これは補助カードのトリモチだ!!』


 補助カードは、サポート的役割の効果が多い。

 今回の"トリモリ"はプレイヤーの半径2メートル以内に溶けた餅を配置する。

 その餅を踏んだ敵の行動を何秒間か封じる能力。

 発動ラグは15秒。


「し、しまった!」


 顔を上げる銀河君。

 口にはいっぱい空気を吸っている。

 倒れている間に息を吸って、技を溜めていたのか。


「わっ!!!!!」


 銀河君は大きく口を開けて、激しい衝撃波が放たれた。

 真正面からモロに攻撃を受けた。頭がキンキンと痛み、身体も衝撃波で吹き飛ばされて棚に激突した。


 佐々本権 

 HP75→10


 棚にぶつかった衝撃で棚の上の本が落ち、先輩の頭に直撃した。


 佐々本権

 HP10→0


 ルーキーが勝利した。

 なるほど、自分のアビリティを最大限に活かせる為にワザと敵陰キャが近づくまで待っていたのか。

 先輩は接近戦特化なアビリティ。だから、トリモチは先輩メタのカードだ。

 コンボ攻撃も大事だ。だが、メタカードも陰バの重要戦術。


『勝者はルーキー陰キャ佐々本君!!経験値でランクアップだ!』

「や、やった」


 ボソッと呟く銀河君。

 銀河君のスマホに経験値が加算された。


 勝利経験値 500

 下剋上成功報酬 +500

 必殺技勝利 +100

 合計獲得経験値 1100

 Lank2→7


 下剋上システムによって下のランクの陰キャは、相手のランクとの差×50ポイントの経験値が獲得出来る。


「凄え、一気にランクを7つも」

「これはスーパールーキー誕生か?」


 一気にざわつく陰キャ達。

 確かに連戦した陰キャにルーキーが勝つのは珍しい。

 トレーディングカードゲームで言うなら、公認大会で連覇している奴を大会初出場の奴が勝利して優勝するくらいの難易度。


 銀河君はメガネをクイッと上げて自慢気になっている。

 だが、ここで調子に乗ると陰キャ特有の傲慢が起こるだろう。

 それだけは気をつけて欲しい。


『負けた佐々本君は、逆にランクがダウン!』


 敗北経験値 −100

 必殺技敗北 −100

 下剋上敗北 −250

 コンボ攻撃成功 +100

 合計獲得経験値 −350

 Lank12→10


 下剋上システムは敗北者にも適用される。

 敗北した上のランクの陰キャはランクの差×25ポイントマイナスされるシステムだ。


『残念ながら佐々本君の連勝はルーキー陰キャによって阻止された!!』


 先輩は悔しそうに地面を叩くが、これが陰バの世界だ。

 連勝がストップし、自分の名声も途切れてしまった。

 勝利したルーキー陰キャを称えて全員が拍手を送る。


「くっそ!賭けに負けた!」

「久しぶりに賭け勝利!!」


 賭けに勝って喜ぶ者、負けて悔しがる者。

 これが陰バの勝者と敗者。

 僕は銀河君の勝利によってコインがプラスされた。

 これにより、コインで陰バのカードパックを買えるのだ。

 陰バが終わると、互いのスマホは手元に戻る。戦いで荒らされた理科室は元通りに戻った。


『これにて!!今日の陰バは終わ──』

「おい誰だ!!うるさいぞ!!」


 先生が入って来た。

 だが、理科室には誰もいない。

 皆んなドッジボールで逃げるのが上手いくらい、素早く動き隠れれるからだ。


「気のせいか」


 先生は無事に出ていき、全員が机の下から出て来た。


『危なかったねぇ。とにかく陰バはお開きと行こう。また明日!!』


 全員陰バが終わると黙々と部屋から出て行く。

 その姿はまるで路地裏にいる危険な事をしている連中のように見える。

 明日は誰が陰バをするかな?


 僕は一人、家へと帰った。

 こうしないとランクを上げれないか。

 早くランクを上げて、陰キャを脱出しないと。



今回登場したカード


強化カード 


スピード・フォース  

ラグ 20秒

効果 バトル中速度を1.2倍にする。


攻撃カード


アトミック・ブラスト

ラグ 30秒

効果 相手に5発から8発の追尾効果の火球を撃ち放つ。1発のダメージは5。


補助カード


トリモチ

ラグ 15秒

効果 自身の周囲、半径2メートル以内にトリモチを配置する。踏んだ相手は約4〜5秒動けなくなる。



最後まで読んでくださりありがとうございます。


よろしければ次の話も読んでみてください。


面白いや続きが見たいと感じたなら、評価やブックマークをよろしくお願いします。



陰バのルールや登場したカードを別に書き記そうかと思いますが、そっちの方が良いでしょうか?

もし、何かこうして欲しいと言うのがあったらぜひコメントお願いします!

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