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逆ハーレムの中でわたしのこと好きなの、ひとりだけだった。  作者: やなぎ怜


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(15)

 *



「氷皇帝が復活した、んですか……?!」

「いや、もう退けられた。そなたの助力あってのことと聞いておる」


 玉座に腰を下ろした春の国の王様は、仰々しくも聞こえる声でそう告げたあと、「これからもよろしく頼むぞ」と言って話を切り上げて謁見の間から近衛騎士に囲まれて去って行った。


 王様が退場したあと、わたしも謁見の間を出される。


 突然、王宮の近衛騎士たちが家にやってきて、物々しく護衛されて二度と足を踏み入れることはないと思っていた王城の大手門をくぐった。


 そしてあれよあれよという間に、王様と謁見――。


 告げられたのは、「氷皇帝が復活した」というおどろくべき事実と、「氷皇帝は退けられた」という淡々とした事後報告。


 なにがなにやら、である。


 ものすごく高い天井の、王城の廊下へ出れば、すぐにアイビーの姿が見えた。


 今回、再度現れた氷皇帝は、アイビーが単身で倒したらしい。


 なにがなにやら、である。


 しかも単身で倒せたのは、わたしの「魔女」の力のお陰であるらしい。


 なにがなにやら……。


「お疲れ様だね」

「いえ、アイビーのほうがお疲れでは……?」


 氷皇帝を単身で退けた英雄――。アイビーは今回そんな称号を得たわけだが、当たり前のように、いつも通りの態度でわたしに微笑みかけてくる。


「全然。むしろ元気いっぱいだよ」

「頑強ですね」

「ノノカの愛の力のお陰でね」


 わたしは素早く瞬きをした。


「ノノカに貰ったお守りのお陰で、命拾いしたどころか、氷皇帝を単身で退けることができた……ってところ」

「あれは……ただのお守りですよ」


 わたしの言葉に、アイビーはなにも言わずに微笑んだ。


 わたしはやっぱり、なにがなにやらという感じで、強張った顔を向けることしかできない。


「なにもかもが急展開すぎて……」

「もう花の騎士をたくさん侍らせる必要がないって話は聞いた?」

「はい……。今回の一件で、そういうことをしても意味がないとわかったから、もう強制させないから安心してくれ、って」


 なにがなにやら、であるのだが、アイビーはわたしの……「愛の力」とやらのお陰で氷皇帝を退けるほどの力を発揮したらしい。


 王宮側はその一件をもって、無理に「魔女」の逆ハーレムを作って力を分け与えてもらうという手法は、あまりいいものではなかったという結論に至ったらしい。


 なにがなにやら、というか、なんだかなあ……という話である。


 下々の者が為政者に振り回されるのは、世界が変わっても同じらしい。


 わたしは思わず、疲れたため息を吐く。


「お疲れ様だね」

「そうですね……」


 本当に、なにがなにやら、である。


 ……でも、そうやって思考をぐちゃぐちゃにしておかないと、どうしようもなく恥ずかしくって、消えたくなる。


 ――「愛の力」って。


 当然のようにみんな「愛の力」「愛の力」と連呼していたが、わたしは恥ずかしくて仕方がない。


 わたしだって確信しきれていなかった、アイビーへの本心が、筒抜けになったも同然なのだ。


 恥ずかしすぎる。


 アイビーがいつもより三割り増しくらい、いい笑顔でいるくせに、まだなにも言ってこないことも。


 わたしはまな板の鯉だ。


 ……けれど、そのまま包丁が入れられるのを待つ気はなかった。


「アイビー、あの、家に帰ったら話したいことがあります」


 わたしが小声でささやくと、アイビーは三割り増しだったいい笑顔を、五割増しくらいにして、「うん。楽しみにしてる」と言ったのだった。

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