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逆ハーレムの中でわたしのこと好きなの、ひとりだけだった。  作者: やなぎ怜


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(14)アイビー視点

 *



「……なんだかんだ、上手くやってるんだな」


 ――寒の砦の物見台のひとつ。冬の領域と接するこの砦は、春の国でもっとも低い外気温を記録する。


 アイビーは、寒さで鼻をかすかに赤くして、白い息を吐きつつ、同じ花の騎士である男の言葉に答える。


「そうだね。ノノカはとっても可愛いから」

「答えになってねえ……」

「結局ノロケかよ……」

「心配して損した……」


 ぶちぶちと同僚騎士たちから言われ、じっとりとした平たくした目を向けられるが、アイビーにはなんのその。


 愛おしいものを見るように目を細めれば、同僚騎士たちはことさら嫌そうな顔をした。


「噂ってアテにならないもんだな」

「それはそうでしょ。ノノカは控えめで、慎ましやかな子だよ。まあそれは長所であり、短所でもあるんだけれど――」

「いい! ノロケはもういいって!」


 アイビーが笑って、白い息が冬の森を背景に溶ける。


 その溶けた息の向こう側で――うごめくものに最初に目視で気づいたのは、他でもないアイビーだった。


「――急いで鐘を鳴らせ!」

「どうした?!」


「氷皇帝が来た」


 ――寒の砦の、物見台に設置された鐘がやかましく鳴らされる。


 響き渡る鐘の音を聞き、砦に駐留していた騎士たちが臨戦態勢をとる。


 日ごろ非常事態の訓練を欠かさない集団において、「氷皇帝が来た」と知らされてもパニックに陥る者は見られなかったが、一部の者に浮き足立つ空気はあった。


 氷皇帝は、神代の誓約によって春の国に入ることはできず、冬の領域に閉じ込められている。


 しかし現代に至ってもその力は絶大で、寒の砦へ近づくだけで春の国全体を凍えさせ、最前線に立つ騎士を生きたまま凍らせる。


 ゆえに、春の国はたびたび「魔女」の力を借り、氷皇帝を退けてきた。


 一度退けさせることができれば、幅はあるものの、数一〇年から長くて一〇〇年は安寧が約束される。


 ……そのはずだった。


 氷皇帝は、一年と経たずに再び姿を現した。


 そんな事実を前にして、浮き足立つ者がいるのは、無理からぬことだった。



 ――魔法で守られているはずの寒の砦の中にまで、雪まじりの寒風が吹きすさぶ。


 一度、氷皇帝と対峙した花の騎士たちに宿る魔力をも凍らせ、滞らせるほどのブリザードで、視界はあっという間にホワイトアウトする。


 怒号や悲鳴までを呑み込むほどの吹雪。


 だが――そんな中にあって、アイビーだけは膝をつくことはなかった。


 アイビーを、柔らかな白い光が包んでいる。


 アイビーの体内を巡る魔力は、氷皇帝の強大な力をもってしても凍りつくことはなかった。


 ――「魔女」の加護。


 アイビーは、腰に下げた小さなポーチの中にある、乃々花が渡してくれたお守りを思い出す。


 ――「アイビーのために、作ったものなので」。


 少しはにかみながらも、はっきりとそう言って手渡してくれた、乃々花のお守り……。


 アイビーは乃々花に寄り添ってもらっているかのような温度を感じながら、氷皇帝に剣を向ける。


 アイビーを包み込んでいた柔らかな光が、直剣へと移り、刀身を白く光り輝かせる。


 アイビーの中に、恐れはなかった。


 剣を振り上げ――一刀のもとに、アイビーは氷皇帝を斬り伏せた。

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