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逆ハーレムの中でわたしのこと好きなの、ひとりだけだった。  作者: やなぎ怜


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「あの、あのとき集められたのは……その、みなさん見目麗しい方々ばかりでしたでしょう。そういう方ばかりを集めたとは聞き及んでいましたが、ほら、僕はそばかす顔で、パッとしない顔立ちじゃないですか。だからなんていうか……こういうの、よくないんでしょうけれど、比較……しちゃって。いつも劣等感でいっぱいでした」


 「魔女」であるわたしに侍る花の騎士たちの選定基準に、容姿が含まれていたことはこのとき初めて知ったけれど、「だろうな」とも思った。


 一方、堰を切ったかのように話を続けるジョシュアを見ても、わたしは彼が不細工だとかはとうてい思えなかった。


 たしかにカッコイイ系ではなく、どちらかと言えば今のジョシュアは、成長途上ということもあって、カワイイ系と言えるだろう。


 けれどももしかしたら、それはジョシュアのコンプレックスかもしれないと思って、わたしは黙っていた。


「僕の兄さんたちは、みんな綺麗なんですよ。だからずっと、自分の容姿はコンプレックスで、なんていうか、被害妄想的に、きっとあなたも僕のことなんて気に入らないと思っていました。でも」


 ジョシュアがわたしを見る。


 まっすぐに見る。


 そこには、先ほど見せた気まずさは、カケラもなかった。


「でも――あなたは僕も、他の方々も、平等に扱ってくださった。それで僕、わかったんです。世の中にはちゃんと、僕の兄さんたちと比べたりせず、僕のことを見ていてくれる方もいるんだって……目が、覚めたんです」


 だから、どうしても「ありがとう」という気持ちを伝えたかった――。


 ……ジョシュアはそこまで言って、はっと我に返ったような顔になり、ほのかに赤面する。


「あ……ごめんなさい。すごく独りよがりでしたよね。すいません……」


 申し訳なさそうな顔をするジョシュアに、そんな顔をする必要はないと言いたくて口を開いたけれど、舌がもつれたようになって、なかなか上手くしゃべれなかった。


 それでもどうにか、今のわたしの気持ちを口にする。


「ううん。謝る必要なんてないよ。『ありがとう』って伝えられるのはうれしいし、それにむしろそう言うべきなのはわたしのほうだったっていうか……」

「え? そんなことありませんよ! あなたはそんな義理なんてないのに、立派に役目を果たされました。僕たちを救ってくれました。それなのに、あんな仕打ちは許されるものではないと……」

「……いやいや。そんなことあると思うよ?」

「いえいえ、そんなことありません!」


 ……なぜか、ジョシュアと奇妙な言い合いになってしまった。


 道行く男性たちが、なにごとだとばかりにわたしたちへ視線を向けているのがわかる。


 それを見かねたのか、アイビーがわたしとジョシュアの奇妙な言い合いにストップをかけた。


「注目集めてどうするの?」

「あ……すいません」

「僕も、思わず……」

「ジョシュア、私たちはもう帰るよ。日も暮れて、ずいぶんと冷え込んできたしね。それに、君も待ち合わせをしていたんじゃないのかい?」

「え、あっ、そうだった……。えっと、その、本当にあなたに感謝しているのは本心ですから! それで、ええと、えと、どうか、お気をつけて帰ってください……」


 ジョシュアはわたしたちに向かって深く頭を下げたあと、また何度かぺこぺことしつつ通りの向こうへ足早に姿を消した。


 その場に残されたわたしは、ややぽかんとしつつ、ジョシュアの背中を見送ることしかできなかった。


 けれどもジョシュアが去って、わたしの心に残ったのは、気まずさでも、寒々しい思いでもなかった。


 「ありがとうございました」――ただそのひとことだけで、あたたかな、報われた気持ちで胸がいっぱいになった。


 単純だなと思う。けれどもその単純さを、失いたくはないとも思った。


「あれは恋人と待ち合わせていますね。最近、ジョシュアに恋人ができたともっぱらの噂でしたから」


 日が暮れた、月がぴかぴかと頭上で輝く帰り道。


 ふとジョシュアの待ち合わせの相手はどんな人間かと思って、そのまま口に出したわたしにも、アイビーは丁寧な答えをくれる。


「きっと、ノノカの態度で自信をつけたんですよ」

「……そうだったら、うれしいです」

「きっとそうです。ジョシュアは自信のなさすぎるところが欠点でしたから。でも、彼は変わりましたよ」


 アイビーと並んで、ゆっくりと帰路を往く。


 アイビーが歩調を合わせてくれているのがわかって、うれしくて、そしてもうこんな風に外出できるのが次いつになるともわからないので、名残惜しい気持ちにもなる。


「ノノカにも、自信をつけてほしいのですが」

「わたし?」


 アイビーからの突然の言葉に、わたしは何度かまばたきする。


 アイビーは微笑みながらも、どこか困ったような顔で笑った。


「ノノカにはいいところがたくさんあります」

「……そうですか? そんなことは――」

「覚えておいてほしいのですが、そうやって卑下されると悲しくなるんですよ。ノノカを好きな人間は」


 アイビーは悲しそうに微笑んで、それでもどこか茶目っ気のある語調で「私のことですよ」と付け加える。


「……わからないです」


 続く言葉は「ごめんなさい」という謝罪だったが、けれどもアイビーの言葉を思い出して、どうにか呑み込む。


 「わからない」というのは、わたしの偽らざる本心だ。


 わたしのいいところなんてわからないし、アイビーがわたしを好きだという事実も。


「でも」


 ……でも、たしかなことはひとつある。


「『好き』って言ってもらえるのは……うれしいです」


 まだ、アイビーの、わたしへの好意の種類はよくわからないけれど。


 でも、アイビーから好意を伝えられるのは、「好き」だと言ってもらえるのは、素直にうれしい。


 アイビーは、目を細めて笑う。


「それじゃあ、これからはもっと言いますね」

「え……それは、ちょっと、勘弁して欲しいです……」


 これもまたわたしの本心だったが、アイビーは愉快そうに低い笑い声を上げるのだった。

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