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ソウル・パンツァー!  作者: しんとき
雨の森編
4/26

闇の中の刺客

「それで、じめじめじって名前のキノコはどうやって見つけるんだ?」

俺はバギーを運転しながら、後ろに乗っているハルカに問いかけた。

「匂いよ。じめじめじは独特な強い香りがするのよ」

「この雨の中、匂いを頼りに探すのか?」

森の中は相変わらずの土砂降りだ。

風は強くないが、キノコの匂いを辿れるとはとても思えない。

「言われてみればそうね。フーガも連れてくるべきだったわ」

フーガのことを犬か何かだと思っているのだろうか。

「仕方ないわね。片っ端から木の根元を探していくわよ!」

前々から思っていたが、ハルカは考えなしで行動する節がある。

フーガが心配性になるのも分かる気がする。

しばらくバギーを走らせ、ハルカのメモを頼りにじめじめじの生えていそうな木を探す。

「この辺りでいいか」

バギーを降り、3人で手分けして探すことにした。

フリモア1人で探させるのは少し不安だったが、本人は

「必ずマスターに美味しいキノコを届けます」

と息巻いていたので、止めることはできなかった。

ソウル・パンツァーも美味しいものを食べたいものなのだろうか。

とにかくこの雨の中、長時間外にいたくはない。さっさとジメジメジを探すことにした。

木の目元を1つ1つ懐中電灯で照らしながら歩く。

10本ほどそうしたところで、目的のキノコはあっさりと見つかった。

「これがじめじめじか...」

ハルカに見せてもらった絵と同じように茎が太くブヨブヨした見た目だ。本当に美味しいのだろうか?

手のひらぐらいの大きさのじめじめじを1つ採り、鼻に近づけてみる。

ハルカが言うような匂いはしない。むしろ無臭だ。

とりあえず何個か収穫しバギーの方向へ戻ろうとすると、バギーのある方向から突然叫び声が聞こえた。

「きゃぁぁぁぁっ!!!!」

ハルカの声だ。彼女の身に何かあったのだろうか。

俺はじめじめじをカバンに入れ、ハルカの元へと急いだ。


バギーを通り過ぎしばらく走ると、転がっている懐中電灯が目に入る。

「ハルカ、無事かっ!」

懐中電灯の近くに尻餅をつくハルカを見つけた。怪我はしていないようだ。

急いで近づくと、充満している独特な強い臭いが鼻につく。

ハルカの方へ懐中電灯の光を当てると、その顔には粘性のある黄色い汁のようなものが付着していた。

「お、お前...どうしたんだそれ?」

あまりの臭いに鼻をつまむ。ハルカには申し訳ないが、これ以上近づけそうにない。

「じめじめじを掴んだら、ネバネバした汁が顔に...」

どうやらじめじめじを強く握りすぎたせいで、中の汁が飛び出てきたようだ。

たしかに独特な香りだ。とてもじゃないが鼻がもたない。

これが顔面にかかった日には最悪の気分だろう。

ハルカは雨で汁を洗い流そうとするが、粘性が高いせいかなかなか流れ落ちてくれないようだ。

「じゃ、じゃあ俺はフリモアに強く握らないように注意しに言ってくるな」

「ちょっと!臭いからって逃げないでよ!」

ハルカに申し訳ないと思いつつ、俺はカバンを揺らさないように配慮しながらその場をあとにした。


少し歩くと反対側からこちらに向かって歩いてくるフリモアを見つけた。

フリモアもハルカの叫び声を聞いて、こちらに向かってきていたのだろう。

「おーい、フリモア!こっち...」

大声で呼びかけるのを止めて、全力でフリモアへ駆け寄る。

視界の端で何か黒い塊がフリモアの方へ飛んでいくのが見えた。

キョトンとした顔のフリモアを抱きかかえ、そのままの勢いで倒れこむように跳ぶ。

直後、フリモアが立っていた場所を黒い何かが通り過ぎていった。

「フリモアすまん!大丈夫だったか?」

急いで立ち上がり、フリモアの身体を起こす。

俺たちの目の前には、4本のアームをつけた黒いロボットが宙に浮いていた。

クラゲを横にしたようなデザインだ。あのアームでフリモアを捕まえようとしたのか。

「マスター、助けていただいてありがとうございます」

幸いフリモアに怪我はないようだ。

手を振ったときにたまたま懐中電灯の光が当たっていなければロボットの存在に気付けなかった。

狙われているという自覚が足りていなかった。追手についてもっと警戒をするべきだった。

「合流する前に捕まえようとしたのに中々やるじゃない坊や」

ロボットからスピーカーで女性の声が聞こえる。

見たところ大人が中にれるほどのサイズじゃない。どこかでコイツを操っている奴がいるのだ。

「でも、どの道あなた達はゲームオーバーよ」

後方からの気配に気付き後ろを振り向いたときには、別の2体のロボットがすぐそこまで迫っていた。

「フリモア!頼む!」

俺が言い終わるよりも早く、フリモアの身体は白い光に包まれていく。

そしてその光の中から、白い装甲をまとったソウル・パンツァーとしてのフリモアが現れる。

急ぎフリモアに背に乗り状況を分析する。

敵は3体。しかも囲まれている。

背後から近づいてきたロボットの内、片方は戦車のような見た目で、

もう片方の人型のロボットの背には冷徹な目をした男が乗っている。

「マスター気を付けてください。男が背に乗っている黒いロボットはソウル・パンツァーです」

頭の中にフリモアの声が響く。ソウル・パンツァーの状態でもコミュニケーションは取れるみたいだ。

多くを考えている時間はない。俺はまず、黒いクラゲ型のロボットの方へ向かった。

フリモアの腕から剣を出し攻撃を試みるが、簡単に空中へと逃げられてしまう。

それでいい。そのまま前に進み他のロボットと距離を取る。

これで囲まれている状況からは一旦抜け出せる。

再び状況を確認しようと振り向いた時、俺は戦慄した。

黒いソウル・パンツァーはすぐそこまで迫って来ており、フリモアに目がけて蹴りをくらわす。

「動きが素人過ぎるんだよ」

男は間髪入れずに黒いソウル・パンツァーを操り、何度も蹴りつけてくる。

その動きはとても滑らかで、玄人の格闘家と戦っているようだった。

黒いソウル・パンツァーのつま先部分にはブレードのようなものがついており、

間合いを図り切れず何度もバリアで攻撃を受けてしまう。

モルピウスと戦ったときと同じように、バリアとともに精神が削られていくような感覚を思い出す。

一方的にやられるままはマズイ。

「どうせダメージをくらうなら!」

敵が蹴りを入れる瞬間を狙い、強引に攻撃を繰り出す。

バリアで蹴りを受けつつ、胴体を反らすようにして反撃の一撃をくらわす。

黒いソウル・パンツァーは少し距離を取り、余裕そうに微笑む。

「少しはやれるみたいだな。ならこれはどうかな。」

男が合図すると、戦車のようなロボットの主砲がこちらを向く。

「マスター!危険です!」

叫ぶフリモアの声を聞き、とっさに横に回避行動をとる。

ロボットから放たれた砲弾はそれよりも早くフリモアに届き、俺たちは大きく後ろに弾かれる。

物凄いスピードと威力だ。バリアで防いだのに、衝撃がまだ体に残っている感じがする。

「マスター!次はもう防ぎきれません!」

フリモアの言う通り、もう既に心が疲弊しきっているのを感じる。なんとかここから逃げなければ。

すぐにフリモアを動かそうとするが、フリモアの足はピクリとも動かなかった。

「私のことお忘れじゃなくて?」

先ほどのクラゲのようなロボットのアームにフリモアの足が掴まれていた。

再び戦車型ロボットの主砲がこちらを捉える。もう逃げられない。

「マスター、敵の目的は私です。私から離れて逃げてください!」

「そんなこと出来るかっ!」

敵の正体も分からない今、捉えられたフリモアがどうなるか分からない。

それにおそらくだが、俺がいないとフリモアはバリアを張ることができない。

今逃げたら最悪フリモアが死んでしまう可能性だってある。

一か八か、ガードするしかないと覚悟を決めたその時だった。

「オラァッ!」

ライトリッヒに乗ったハルカが戦車型のロボットに渾身のパンチをお見舞いする。

照準がズレた大砲の弾はあらぬ方向へと飛んで行った。

「待たせたわね、ジン!」

ハルカの登場に安心したのも束の間、黒いソウル・パンツァーがライトリッヒに襲い掛かる。

背後から放たれ必中の蹴りは、しかしライトリッヒには届かなかった。

「うちの子に手を出してもらっちゃ困るなぁ」

突如現れた4足歩行の銀色のソウル・パンツァーの爪が黒いソウル・パンツァーの一撃を防ぐ。

細長いフォルムに尻尾のようなものまでついている。まるで狼のような見た目のソウル・パンツァーだ。

そしてその上に乗っているのは...

「フーガ!」

黒いソウル・パンツァーに乗る男がフーガを怒りの籠った目で睨みつける。

「お前の相手はこの俺だ!」

森に降り注ぐ雨は、徐々にその勢いを増していく。

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