朝
「ふぁあ~」
情けないあくびをしながら目を覚ます。
久しぶりに夢も見ないほどぐっすり眠った気がする。
遺跡の中は相変わらず暗く、気温も低い。
まだ皆も起きてないみたいだし、もうしばらく暖かい寝袋の中にいよう。
ずっと同じ向きで寝ていたせいか身体が痛い。
俺は寝袋の中でモゾモゾと動き、体勢を変える。
背を反対方向に向け、二度寝しようと目を閉じたところで、ふと気が付く。
今、目の前でハルカが寝ていなかったか?
寝ぼけた瞼をこじ開ける、目前にはスヤスヤと眠るハルカの寝顔がある。
突然の状況により脳は急激に覚醒する。
そうだ、昨日はハルカに誘われ同じ寝袋で寝たんだった。
やましいことはしてないから別に慌てる必要はない。
ないが、この状況をユウトに見られるのはよくない。
あらぬ誤解を受ける可能性がある。
特にゲンヤの耳に入るのがマズイ。
まだユウトは寝ているみたいだし、今のうちに寝袋を抜け出してしまおう。
身体を動かし寝袋から這い出ようとしたところであることに気が付いた。
右手が動かないのである。
正確に言えば、ハルカの左手が俺の右手にがっちりホールドされているのだ。
そういえば眠る直前、ハルカと手を繋いでいた。
夜だったこともあり、しんみりとロマンチックな雰囲気だったので気にならなかったが、
今思い出すと中々恥ずかしいことをしていたんじゃなかろうか。
いや、そんなことを考えている場合ではない。
なんとかここから抜け出さなければ。
俺は自由に動く左手でなんとかハルカの手を引きはがそうとするが、ハルカの指は微動だにしない。
こいつ、この細い指でなんて握力してやがる!
寝袋の中ということもあり、焦れば焦るほど体温が上昇し息も荒くなっていく。
このままじゃ本当に変態みたいじゃないか。
一旦寝袋から出てしまおう。それからハルカの手をなんとか引きはがせばいい。
最悪手を繋いでいるだけなら言い訳でなんとかなりそうだ。
自由に動く左手を寝袋の出口へと持っていこうとするが、
1人用の寝袋に2人でキチキチに入っているため、上手く動かせない。
しょうがない、左手をハルカの身体側を通しながら上に上げるしかないだろう。
俺はなるべくハルカの身体に当たらないように、
ゆっくりと左手を動かす。
そうは言っても、この寝袋に隙間はほとんど存在しない。
結果モゾモゾと少しずつ腕を動かすことになり、当然ハルカの身体にも触れてしまう。
「んっ、うぅん...」
ハルカの寝息に際どい呼吸音が混ざる。
俺だって健全な男だ。頼むから変な声は出さないで欲しい。
しかも、ハルカがこちら側を向いていたせいで、現在抱き合うような格好になってしまう。
ハルカの寝息が顔にかかる距離感なのだ。
色々とどうにかなってしまいそうである。
ハルカの誘惑?に耐えながら少しずつ少しずつ慎重に腕を上げていく。
その間もハルカの寝息攻撃は続いていた。
なんとか肩の辺りまで腕を移動させたところで突然背後から強い光が当てられる。
びっくりして振り向いた先には、眠そうに瞼を擦りながら、
ヘッドライトでこちらを照らすユウトの姿があった。
初めはボーっとしていたユウトだが、次第に脳が覚醒し、
目の前の状況を認識すると驚愕の表情を浮かべていた。
「ジンさん、何してるんですか⁉」
「いや、違うんだユウト!
ちゃんとハルカの許可を貰って一緒に寝てるんだ!」
「お、お二人ってそういう関係だったんですね!
失礼しましたっ!」
そう言ってユウトは部屋の隅の方へと走っていく。
そういう関係って...ユウトは案外ムッツリだな。
「んっ...朝からどうしたのよ?」
大きな声を出したためだろうか、ハルカが起きてしまったようだ。
ユウトの誤解は後で解くとしよう。
「おはよう、ハルカ」
ハルカは間近にある俺の顔を見てキョトンとした顔をしている。
おそらく、昨日の夜のことを思い出しているのだろう。
「ねぇ、ジン?」
「どうした?」
「なんで私はあなたに抱きしめられているのかしら?」
しまった!抜け出す途中だったため、左手をハルカの背中側に回している最中だった!
「まぁいいわ。さっさと起きましょ」
そういってハルカはモゾモゾと寝袋から出ていった。
てっきり昨日と同じように変態!と罵られると思っていたので拍子抜けした。
俺もさっさと寝袋を出よう。
今日も遺跡脱出のためにやることが山積みだ。
右手に残る熱をなんとなく噛みしめながら、俺はハルカの後に続いた。
3人で朝食をとりながら今日の計画についての話し合いが行われた。
「私のライトリッヒであの大猿をぶっ飛ばしてやるわ!」
一晩寝たおかげでハルカとユウトは元気を取り戻していた。
ソウル・パンツァーを扱うための精神力も回復しているだろう。
ウェスペルの出力した地図を見ながら改めてルートを確認する。
大猿の部屋を通る以外にもいくつかルートは存在してはいるが、
かなり遠回りになりそうな道ばかりだ。
食料も余裕があるわけじゃないので、できれば近道を通りたい。
「そういえば、今どのぐらい登ってきてるんだ?」
「僕たちが落下した地点から、大体100mくらいですかね」
この遺跡の道は整備されているものの、トラップの数が多かったり、
途中アップダウンの激しい構造になっていたりと簡単に上に上がらせてくれない。
大猿を倒したとしてもそれは変わらないし、
もっと強い生き物がこの先に潜んでいる可能性もある。
大猿との戦いでハルカの負担を減らすために出来ることはやりたい。
その後、3人で対大猿戦での作戦を立てることにした。




