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ソウル・パンツァー!  作者: しんとき
遺跡調査編
20/26

休息

ハルカが泣き止むのを待ってから俺たちは先ほどきた通路を引き返すことにした。

今日は探索を止めて休もうという話になったのだが、

先ほどあんなことがあった扉の前で休む気にはなれなかったので、

少し引き返して途中通りかかった小さな部屋まで戻ることにしたのだ。

ハルカは先ほどの件で完全に腰が抜けてしまったので、俺が背負って運ぶことにした。

ユウトはファスミンを抱き運ぶことで、少しメンタル回復しつつあるようだ。

それにしてもあの大部屋は異質な場所だった。

ガーディアンというから、もっと厳格な門番的なものを想像していたのだが、

あんな狂気じみた化け物が出てくるとは思わなかった。

1人で中を探索したのは、少々迂闊だったかもしれない。

「ごめんなさい。私、フーガの話でしか聞いたことなくて。

 実際のガーディアンがあんなだって知ってたら...」

背負われているハルカが申し訳なさそうに言う。

いつものお転婆な感じは消え、すっかりしおらしくなってしまっている。

「気にするなよ。一人で探索するって決めたのは俺なんだからさ」

しかし、あの大猿を倒さなければ先には進めない。

一晩休めば、ハルカもソウル・パンツァーで戦うことが出来るようになるだろうが、

今回のことで大猿がトラウマになっているかもしれない。

幸いハルカのソウル・パンツァーであるライトリッヒは炎を生み出す能力なので、

生き物相手ならば、この上なく有利ではあるのだが...

首を横に向け、ハルカの顔を覗く。

ハルカは申し訳なさそうにふさぎ込んだままだ。

何かしらメンタルケアしてあげられればいいのだが。

そうこう考えているうちに目的の小さな部屋に辿り着く。

この部屋にトラップの類がないことは、初めに通ったときに確認済みだ。

その時は余裕がなく気付かなかったが、壁にライトを当てると

何か文字のようなものが刻まれていることに気が付いた。

「これは古代文字ですね」

ユウトが興味深そうに壁を見つめる。

これが古代文字か。フリモアの記憶を辿るきっかけになるかもしれない古代の遺物だ。

改めて、フリモア達と合流出来ていないこと思い出し不安が募る。

せめてフリモアがいてくれれば、ハルカの代わりに戦うことが出来るのに。

無力な自分に嫌気がする。

いや、俺までネガティブになってはいけない。

まずはゆっくり休もう。

俺たちはカバンに入れてあった非常用の携帯食料を食べ、身体を休めることにした。

簡素な携帯食料を食べていると、フーガの美味しい手料理が恋しくなる。

ついでに、フリモアのご飯を美味しそうに食べる姿が目に浮かぶ。

駄目だ。何をしてても不安な気持ちがよみがえってきてしまう。

「ファスミンって何を食べるんですかね?」

ユウトが突然口を開いた。

どうやらユウトは自分の携帯食料をファスミンに分け与えようとしていたみたいだが、

ファスミンはまったく興味を示さないようだ。

「何って言われてもな」

確かに何を食べて生きてるんだろう。こんな何もない遺跡で。

それはあの大猿にも言えることだ。

大きなファスミンを食べてたの見るにおそらく肉食なのだろうが、

あんなところにファスミンがそう何度も入ってくるとは思えない。

何かしらの古代技術の力で生きながらえているのだろうか?

「ファスミンは苔を食べるみたいだわ。

 それで水辺にいたのね」

ハルカはトレジャーハンターノートを開き、

そこに書かれていることを読み上げてくれる。

「群れを成して行動し、水場の近くに生息する。

 水場を求めて遺跡の外に出て、そのまま住み着く群れが見つかることもある...だって」

遺跡の外に出てくる古代生物もいるのか。

「あんな入口に近いところに一匹でいたってことは、

 もしかしたら外に出た群れとはぐれちゃったのかもな」

だとすればコイツも俺たちと同じってわけだ。

ファスミンに対して妙な親近感を覚える。

幸いこの遺跡は湿気が多いためか地上では見ない種類の苔がその辺に生えている。

とりあえずファスミンが飢えることはないだろう。


食事を終えた俺たちはすぐに眠ることにした。

明日どのような行動をするにしても、今日の疲労をなるべく持ち越したくはない。

ハルカとユウトはそれぞれ寝袋の準備をしている。

「ジン、あんたはどうするの?」

俺の寝袋は落下した時の衝撃でズタズタに破れてしまい、使い物にならなくなってしまった。

ちょっとした毛布がわりにはなるかもしれないが、この寒さじゃ意味をなさないだろう。

こんなことならもっと厚手の上着を持ってくればよかった。

「俺のことは気にするな。カイロもあるしなんとかなる。

 2人は身体と精神力を高めることに集中してくれ」

実際問題、2人の力がないとここから脱出することは出来ないだろう。

俺自身のことは二の次で構わない。

「僕の寝袋に入りますか?」

「馬鹿言え、そのサイズの寝袋に2人も入らないだろ」

しゅんとするユウトちょっと強く言い過ぎてしまっただろうか。

「せっかくだから外の見張りでもしておくよ。

 2人はゆっくり休んでくれ」

そう言って俺は部屋の外に出て、扉の前に座り込む。

あのままだとハルカまで同じことをいいそうな気がして、

足早に外に出てしまった。

遺跡の中は相変わらず真っ暗で、物音一つしない。

大部屋であの大猿と出会うまで、生き物や兵器に出くわすことはなかった。

なので見張りはあんまり意味がないだろうが、

あのまま部屋にいて、これ以上2人に気を使わせたくなかった。

それにしても身体が冷える。かなり深いところまで落ちてしまったからだろうか。

通信機を確認してみるが、電波の表示は悪くなったままだ。

もしかしたらこれも、落下の衝撃で既に壊れてしまっているかもしれないな。

今頃みんなはどうしているだろうか。

フリモアは元気にやっているだろうか。

そんな考えばかりが頭をよぎりながら1時間が過ぎた。

相変わらずの寒さで手足は完全に冷え切っていた。

動いていない分、身体が冷えるのも早い。

扉で閉じられている部屋の中の方がまだ暖かいだろうか。

俺は2人を起こさないように静かに扉を開けて中を覗く。

ユウトはファスミンを抱き枕にしながらスヤスヤと眠っている。

暖かそうで羨ましい。

ハルカもぐっすりと眠っているようだ。

身体が温まるまで部屋の中にいさせてもらおう。

その辺の床に座り込み、新しいカイロで手足を温める。

外の通路よりはマシだが、それでもやっぱり寒い。

何か毛布の代わりになるものがないか探した方がいいかもしれない。

「やっぱり寒いんじゃない」

急に声を掛けられ驚く。

見れば、ハルカが上半身を起こしてこちらを見ていた。

「やせ我慢しなくていいのに」

「そういうわけじゃないが、実際寝袋は2つしかないだろ」

「私の寝袋大きいよ、入る?」

ハルカは真剣な眼差しで言う。

「お前、流石にそれはよくないだろ、いろいろと」

「いいから」

寝袋に入るのを渋っていると、ハルカに強引に手を引かれ寝袋の中へと入らされる。

寝袋のサイズが大きいといっても、それはハルカが細身だからの話であって、

いかに大人用の寝袋といえど2人で入るのは少し窮屈だ。

互いに背中を合わせる形で寝袋に収まってはいるが、身体が密着して妙に落ち着かない。

こんな状態で果たして眠れるだろうか。

「私ね、あの大猿も怖かったんだけどさ。本当は別のことの方がもっと怖かったの」

「別のこと?」

密着している状態で話しているせいだろうか、ハルカの体温がやけに伝わってくるような気がする。

「ジンが死んじゃうじゃないかって。私が部屋に入るのを止めなかったせいで、

 私がライトリッヒを使えないせいで」

「そんなこと...」

ハルカが悪いわけじゃない。そう言おうとして言葉が止まる。

ハルカが俺の手を握ってきたのだ。

それだけではない。俺の足の裏に自分の足の裏をピッタリとくっつけてくる。

「もっと自分のこと大切にしてね」

「お、おう...」

冷えていた手足が急速に温まるの感じた。

なんなら少し熱いくらいだ。

俺はそれ以上何も言えなくなって黙りこんでしまう。

ハルカもそれ以上何も言わなかった。

遺跡の暗闇と静寂が先ほどとは打って変わり、なんだか素敵なものに思えてくる。

不安な気持ちは、身体の冷えとともに消え去っていた。

ここにあるのはただ暖かな安心感のみだ。

その優しい体温を感じながら、俺はいつの間にか眠りに落ちていった。

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