昼飯
ハルカに引きずられた俺は、フリモアと共にフーガ団アジトの食堂へと連れてこられた。
食堂の中ではリョーコがテーブルに食事を並べているところだった。
リョーコは俺たちに気が付くと、俺とハルカの顔を交互に見て、小さく「なるほどね」と呟いていた。
「全員そろったね!それじゃ昼飯にしようか!」
促されて席に座る。テーブルの周りにいるのは、
俺とフリモア、ハルカ、リョーコ、後はゲンヤとかいう野郎だけだ。
そのまま出かけたフーガを入れても、合計で6人しかいない。
「フーガ団のメンバーってこれで全員なんですか?」
トレジャーハンターの規模感が分からないが、少ない方なのではないだろうか。
「今仕事に出てるのが2人いるから、あんた達2人を迎えて合計8人ってとこだね」
それでも小規模な感じがする。失礼かもしれないから一応言及するのは止めておこう。
「それより、2人の歓迎も兼ねて気合入れて料理したからたんと食べておくれ」
言われるがまま料理を口に運ぶ。
なるほど、フーガの料理も美味しいが、リョーコの料理も中々に美味い。
横に座るフリモアも、いつものように美味しそうに料理を頬張っている。
「うちは団長のフーガの味覚が繊細だからね。料理には気合を入れていいるのよ」
美味しそうに頬張るフリモアを見てリョーコはにっこりと微笑みながら話す。
なんというか包容力のある人って感じだ。
この包容力で副リーダーとして皆をまとめあげているのだろう。
しかし、怒ると怖いのは間違いなさそうだ。
先ほどから黙って食事をしているゲンヤの頭には大きなタンコブがある。
きっと先ほどのことでリョーコに叱られたのだろう。いい気味である。
よくよく見ると、リョーコはなかなか筋肉質な体をしている。
ぶたれたら相当痛いだろう。ここにいる間は怒られないように気をつけねば。
「さっきからリョーコさんの身体をジロジロ見すぎよ、変態!」
横に座っていたハルカが小声で俺に話しかけてくる。
「そんな目で見てないわ。そういうこと言い出す方が変態なんじゃないか?」
「誰が変態よ!」
ムキになるハルカをよそに、俺は料理を口に運ぶ。
フーガ団に入ってからというもの、毎日の料理が美味しくてしょうがない。
このままだとグルメになってしまいそうだ。
ふと、先ほどまで黙々と食事をしていたゲンヤが激しく俺を睨んでいることに気が付いた。
何をそんなに怒っているんだ?まったく見当も付かない。
俺に分からないのは女心ではなく、人の心なのかもしれない。
リョーコは相変わらずの微笑みスマイルで、そんな俺たちを優しく見守っていた。
食事も終わり、俺とフリモア、ハルカはそのままテーブルで会話を続けていた。
リョーコはフーガの帰りが遅くなるという連絡を受けて、フーガの元へお弁当を届けにいった。
今後の方針についての話し合いは後日になりそうだ。
「この辺りは山に囲まれていて、一般の人が入ることなんてほとんどないの。
だから、他のトレジャーハンターのアジトなんかも近くにいくつかあるのよ」
「それって危なくないか?他のトレジャーハンターにお宝を盗まれたりとか、
襲撃されたりとかはしないのか?」
同業他社が多いと狙いの宝や仕事の取り合いにもなりそうだ。
リスクが多いように感じてしまうが。
「この辺りにアジトを構えてるトレジャーハンターはほとんどが組合に所属しているの。
そこで仕事を分け合ったり、情報のやり取りをしていて、敵というよりは仲間って感覚が強いかしら」
フーガがフーガ号を直しに行っている先も別のトレジャーハンター団のアジトらしい。
それぞれが強みを活かして支え合っている感じなんだろうか。
「そもそもフーガ団ってどんな組織なんだ。
なんか想像と違うというか、もっと大所帯だと思ってた」
今日いない2人は分からないが、フーガとリョーコを除けば、現状子どもばかりの団だ。
普段どんな活動をしているのかも想像しにくい。
「各地のお宝やソウル・パンツァーを求めて旅に出るのはもちろんだけど、
なんていうか、行き場のない子供を育ててるって言えばいいのかしら」
ハルカはなんと説明すればいいのか悩んでいる様子だ。そこで口を開いたのは意外な奴だった。
「俺は元々捨て子だったんだ。それをフーガとリョーコに拾われて育てられた。
ハルカも同じだ。俺たちは家族みたいなもんだ」
突然背後に現れたゲンヤが口を開いたのだった。
なんか棘のある言い方だった気がするが、気にしないことにしよう。
「昔はもっと人がいたんだけど、独立したり、一般的な生活に戻ってったりして出ていっちゃったのよ」
ハルカが言うには、それがフーガの方針らしく、あくまで一時的に生活の面倒を見て、
後は好きなことをやればいいというスタイルだったようだ。
「ま、私はずっとフーガ団に残ろうと思ってるけどね」
ゲンヤも無言で頷いている。2人とも、フーガ団に強い思い入れがあるのだろう。
「だから新入りのお前はすぐには認められない」
相変わらず、ゲンヤは俺に食って掛かってくる。
「ゲンヤ、あんたはなんでそんなこと言うのよ!」
俺の代わりにハルカが怒ってくれた。
「そ、それはだな...」
ゲンヤはハルカに怒られて、なんだかモジモジしている。
なんか意外な反応だ。
でも、ゲンヤの言うことも一理ある。
今まで家族同然で過ごしてきた団に急に知らない奴が入ってくればいい気はしないだろう。
ならば俺の存在を認めてもらうしかあるまい。
「おま...ゲンヤは剣術が得意なのか?」
まずはコミュニケーションだ。正直人との会話は得意ではないが、
これからここでお世話になるのだからやれるだけやってみよう。
「先ほどの戦いで分かっただろう。お前が弱すぎて俺の強さが分かりにくかったかもしれないが」
いちいち癇に障る言い方だ。フーガとリョーコはどんな教育をしたんだ。
「よければ俺に剣術を教えてくれないか?」
「何故お前なんかに教えないといけないんだ」
相変わらずの冷たい態度だ。
しかし、ここで引き下がる俺ではない。
「フリモアをいつでも守れるようになりたいんだ、頼む!」
頭を下げて頼み込む。ここまでして駄目だったら諦めるしかない。
「...フリモアっていうのはお前にずっとくっついているその女の子のことだよな?」
「ああ、そうだが...」
頭を上げ答える。なんか思って反応と違うな。
「その子はお前にとってなんなんだ?」
急に難しい質問をしてくる。どう答えたものだろう。
「フリモアは、なんというか、命の恩人みたいなもんだ。
実際フリモアに命を助けられたし、フリモアがいなければ、
俺は今も退屈な毎日を過ごしていたと思う。
そういう意味でもフリモアは恩人かな」
後ろにいるフリモアの視線が気になる。本人の前でこういうことを言うのは流石に恥ずかしい。
「そうか、そうか。それなら早く言ってくれればいいのに」
ゲンヤは急に笑顔になり、俺の肩をポンポンと叩いた。
「それなら俺が剣術を教えてやろうじゃないか」
急な態度の変化に背筋がぞわぞわする。正直気持ち悪い。
だが、これから仲良くなろうという相手にそんなことは言えない。
誰か代わりに言ってくれないだろうか。
「アンタ、気持ち悪いわよ...」
ハルカが言ってくれた。




