占い師
読んでいただき有難うございます。感謝に堪えません。
第二王子シメオンは側近のサニーに
「事件も片付いたことだし君の義妹を呼んで褒賞を与えようと思うんだけどどうかな」
「ありがたいのですが本人にあまり自覚がないようですので受け取らないと言い出すかもしれません」
「義妹殿の勘がなかったら宮殿どころか国が大変なことになっていたかもしれないのに?」
「ぽやっとしたところがある可愛い義妹ですから」
「褒賞はゆっくり考えるとして何か好きなことはあるだろうか?」
「この間久しぶりに街へ出かけて楽しんだようですが帰るときになってクズが接近してきたそうです。よりにもよって再度の婚約をと言ったそうで護衛たちがブチ切れておりました。その前に占いの館に行きたそうにしていたと聞いております」
「クズはこちらでなんとかしよう。令嬢は占いが好きなのか?」
「若い女性は占いが好きなようです。義妹も例外ではないかと。クズは国を出てもらうことにしております。付き纏われるのは困りますので。家にずっといればいいと言っているのですが、将来のことを色々考えているのかもしれません」
「将来か、義妹殿はいくつになる?」
「十七歳でございます」
「私が占いの館をやってみようか?面白いかもしれない」
「殿下、ふざけるのはおやめください。ヒギンズ侯爵家を敵に回すおつもりですか?」
「恩のある義妹殿にふざけるなどということがあるわけがない、誠実に占うつもりだ」
「楽しそうなお顔をしておられますが」
「楽しいさ、仕事ばかりで潤いがないのはお前も知っているだろう。王家の森に昔母上の所有していた別邸がある。そこを魔女の館ということにしよう。心配だろうからお前もついてくると良い。私だとは分からないようにするから安心しろ」
「御意」
屋敷に帰ったサニーは妻に報告をしロザムンドに気晴らしに今度森の魔女の占いの館に行く気があるか聞いてみた。
「有難うございます。義兄様にそんな伝手があったなんて驚きです。伝説の魔女様でなかなかたどり着くことは出来ないと言われていますの。是非お連れくださいませ。お姉様良いですよね?」
「良いわよ、占って貰っていらっしゃい。でもやみくもに信じては駄目よ。結果はどうあれ自分で決めることが大切よ」
「お姉様にちゃんと報告しますわ。良い未来が開けると良いのですけれど」
姉夫婦はアイコンタクトを取った。王子であろうが不吉なことを妹に告げることは許さないと。
季節は秋になっていた。空は高く晴れ渡り雲一つ無い晴天になった。空気はサラサラと肌にあたりもうすぐ紅葉を迎える木々はさわさわと葉を揺らしていた。
義兄と護衛が数人、侍女が一人付き添うことになった。
森へ行くので軽装である。出来るだけシンプルなワンピースにブーツを履いた。
義兄も簡単な騎士服である。姉がうっとりした目で見ているのを微笑ましく思った。
「ではお姉様行ってまいります」
「行ってらっしゃい、可愛い娘。幸多からんことを」
「はい、楽しんできます」
こうして一同はシメオン殿下の待つ王家の森へ出かけた。王都からほんの少し離れただけなのに空気が澄んでいた。馬を森の入口に繋いで護衛を二人見張りにつかせ、残り五人で奥へ進んだ。暫く歩くと白い館が見えてきた。
「お義兄様あれがそうなのでしょうか?思っていたのと少しイメージが違っています。もっと木でできた可愛らしいお家なのかと思っていました」
「私も初めて見たのでよくわからないが、多分あの建物なのだろう。魔女殿なら好きに建てられるかもしれない」
「そうですわね、勝手なイメージで物を言っては失礼ですわね」
護衛たちには玄関近くで待機して貰うことにした。義兄と侍女が館の中に一緒に入った。途端に鍵が閉まるような音がした。驚いたので義兄の腕を掴んでしまった。中にドアが開いている部屋があり魔女の声がした。
「そこの者、占って欲しいと思っている者だけ側に来て座るが良い。他の者はドアの近くにいるように」
サニーが睨んだが魔女は平気そうな顔で言ってきた。ロザムンドはドキドキしながら魔女の前に行った。
「その椅子に掛けると良いよ。婚約を破棄したんだね。簡単に誘惑に負けるクズだったから良かったじゃないか」
「そんな事が分かるのですか?」
「魅了魔法にも気がついたんだろう?凄いね」
「あまりにもクッキーを渡す回数が多いなと調書を読んで思いましたの。その回数の度にクズの浮気の頻度と親密さが酷くなっていきました。気持ちが悪くて婚約が無くなってせいせいしておりますが、これからどうしたらいいのか分からなくなりました」
「新しい恋が心の隙間を埋めてくれるよ。今度出会う相手が本物の相手だ。大切にしてもらえるから安心すると良い」
「恋をしていた訳ではないのです。穏やかな間柄だと思っていただけでした。でも少しでも復讐をしてやろうと思った私は嫌な女です。それなのに次の方が現れるのですね。良いのでしょうか?
姉たちに心配をかけてしまいましたので。私がずっといては迷惑になるのではと思ったりしていました。聞いていただけて気持ちが楽になりました。今日は貴重な時間を有難うございました」
「やり返したいのはふつうの感情だ。気にすることはない。それに姉御は迷惑とは思っていないだろう、随分可愛がられているのが分かる」
「それはそうなのですが、貴族とは面倒なものですので」
「恋人が憂いを晴らしてくれるよ、では気を付けてお帰り」
ロザムンド達はあっという間に森の入口に出ていた。
第二王子シメオンの攻略が始まりました。誤字報告を有難うございます。