薬物の解明
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メアリーは急いでロザムンドに連絡を取りクッキーが手に入ったことを報告した。もし薬物でも入っていたら気味が悪いのでヒギンズ邸までハンカチで包み急いで持って行った。
「メアリー様素晴らしいですわ。これで何か掴めるかもしれません。お茶でもいかがですか?お話をお聞きしたいですわ」
ロザムンドは侍女にクッキーを渡し姉に届けて貰うと、メアリーをもてなすことにした。
侍女にお茶とお菓子を持ってこさせ紅茶を勧めた。メアリーは婚約者からクッキーを奪った方法を説明してみせた。
それを聞いたロザムンドは笑いが止まらなかった。大人しそうなこの令嬢が婚約者にぶつかっていった様子を思い浮かべるとその健気な様子が頭に浮かび、相手がどんなにうろたえたのか可笑しくて仕方がなかった。
二人は好きなスイーツや本の話をし、お互い恋愛小説が好きだとわかったりして楽しく会話を弾ませた。
楽しい時間はあっという間に過ぎメアリーの帰る時間になった。また学院で会うことを約束して弾む気持ちでメアリーを見送った。
心が弾むのはいつぶりだろう、暫く忘れていた感情が嬉しくてじっと玄関に立ち尽くしていた。
姉は王立薬物研究所にクッキーを届け検査を依頼した。勿論所長に秘密にしてもらうよう直接願いを出した。夫のサニーが第二殿下の側近だったのと、もしかしたら国の一大事かもしれないため直ちに願いは聞き届けられた。
不安そうなリリエルの肩を抱きサニーが
「何も入って無ければただの男好きが起こした事で終わる。不安は取り除かないとね」
「そうね、ありがとう。そうなればあの家は潰すけど」
「それでこそ僕の妻だ。早ければ今日、遅くても明日には結果が出るから待つだけだ。もう少し待っていてくれたら一緒に帰れるよ」
「待ってるわ、一緒に帰りたいの」
「おやおや君からそういう事を言ってくれるとは嬉しいな」
「私だって甘えたい時もあるのよ」
「今夜も君に溺れる自信があるよ、煽った責任は取って貰わないと」
結果的には魅了の薬物が入っていた。簡単に男爵令嬢が手に入れられるものではない。王家の影が張り付いて調査を始めることになった。持っていることだけでも逮捕は出来るが大元を捕まえなければ話にならない。
暫く泳がせて様子を見ることになった。
侯爵令息には接近を試みているようだが、婚約者への愛情を認識したのか上手くいっていないようだ。簡単に落ちないので意地になっているところがあるようだとは影からの報告だ。
第二王子はサニーを呼び出し凄腕の男娼をロミーに近づけてみようかと提案した。勿論魔法よけの腕輪を着けさせたうえで。男娼には成功すれば娼館から自由になるくらいのお金を与えるつもりだ。貴族の令息が理性だけで撥ね除けるのは難しいのではないかと考えたためだ。善意だけでは勿論ない。王族派を増やしておくことが真の狙いだ。
王族派は多いが一部に反感を抱いている貴族がいることも確かなのだ。今度のこともその氷山の一角かもしれないのだから。
早速王太子と陛下に報告に行くことにした。貴族の末娘の婚約破棄が国家反逆罪まで繋がってこようとは側近の話を聞いた時には思いもしなかった。
女性の勘とは凄い物だなと第二王子は身を引き締めた。と同時にその令嬢に興味が湧いた。一度会って話をしてみたい。面白そうではないか。
仕事ばかりでうんざりしていたこともあり、どうやって出会いを作ろうかと考えを巡らせ始めた。
「サニー、義妹殿はどんな令嬢なのだ?奥方の様に頭が切れるのか?」
「儚げな美少女です。普通に婿を取って敷地内に住まわせ守っておきたいと家族は言っております。妻には特に懐いておりますので可愛くて仕方がないようです」
「ヒギンズ侯爵家の三姉妹は美人ぞろいで有名だからな。お前も奥方にメロメロだし。此度のことが片付けば褒美を与えねばなるまい。義妹殿に」
「有難き幸せにございます」
「早めに片付けたいものだな、宮殿に出回ると困ることになる。彼の女は手筈通りだ。後ろにいるかもしれない大物に辿り着ければ良いが」
影からの報告によると彼の女は時々自宅の裏山に入り花を摘んで帰ってきてはクッキーを作っているらしい。勿論花も確保済みだ。今のところ侯爵令息はそれを食べてはいないようだ。
それどころかあまりにも頻繁にクッキーを渡そうとして引かれているらしい。第二王子は侯爵令息のアルフレッドを王宮に呼び出した。
急な呼び出しに緊張気味のアルフレッドは最初に穏やかに話のできるサニーに気持ちを聞き出してもらった。
彼女の行動は迷惑に思っていることと婚約者への誠実な気持ちを聞き出した所で第二王子が応接室に現れて、今までの経緯を知っていることを謝られた。
「我が国の光であらせられる王子殿下にお会いできまして」
「そんな堅苦しい挨拶は良いから、ここからは君の困っている事を取り除きたいと思っている友人として聞いてもらいたい」
「ゆ、友人だなどと勿体ない」
「勿体なくはないんだが、じゃあ大切な国民の一人でも良いや。君は誘惑に対して非常に頑張って抵抗しているよね。だから手助けをしたいと思ってね。この腕輪は魔法から身を守ってくれるものだ」
「魔法を掛けようとしていたのですか?あの女は」
「そうだよ、君は二番目の犠牲者になるところだった」
「二番目といいますと一番目がいたということですね」
「その男は簡単にやられてしまって家を追い出されたよ」
アルフレッドはその事実にぞっとした。王家が全て知っているのに誘惑に負けて破滅しなくて良かった。自分の代わりにターゲットになってくれる令息が動いてくれるらしい。浮名を流しまくっている男が浮かんだが考えないようにした。これからは纏わりつかれなくて済む。心が穏やかになった。王家に足を向けて眠れない。一生の忠誠を誓った。
自分勝手な思い込みの激しい女の正体がこれから暴かれます。多分皆様の思っているとおりです。