ロザムンドの反撃 1
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ロザムンドとパルシュの婚約破棄は一月ほど噂が駆け巡っていたが、パルシュが平凡な男だった為にそこまで話題にならなかった。そのパルシュも学院を辞めさせられたらしく姿を見なくなったので、生徒たちの関心は新しくターゲットになったらしい見目麗しい侯爵令息とあの女の事で賑やかになっていた。
相手の婚約者はどれだけ悔しい思いをしているのかしらと考えると、気の毒でたまらなかった。親しい人ではなかったので友人たちに話を聞くと伯爵令嬢で大人しい淑女らしい。
ロザムンドは近づいてみることにした。彼女が教室を移動する時に前を歩きハンカチを落としたのだ。
「あの、ハンカチを落とされましたよ」
「ありがとうございます。お礼をしたいのでお名前をお伺いしてもいいでしょうか?私はロザムンド・ヒギンズと申します」
「メアリー・カサンドラと申します。当たり前の事をしただけですので気になさらないでください。それに私は今注目されております。侯爵家の方にご迷惑をおかけするわけにはいきませんので」
「私もあの女には思うところがありますの。この後カフェでお茶でもいかがですか?」
「ヒギンズ侯爵令嬢様も。そうでしたわ、参ります」
「では私の家の馬車で学院から出ましょう」
「ありがとうございます。では」
ロザムンドはメアリーを人気のカフェに連れてきた。勿論個室である。
店員に紅茶とベリーのパンケーキを頼みメアリーは紅茶とガトーショコラを注文した。
「ここは家の経営店舗の一つですの。だから安心なさって。お茶を頂いてからお話をしましょうか」
「いえ、聞いていただいてからでもよろしいでしょうか?」
平気そうな顔をしているが辛いのだろう、ようやく吐き出せる相手が見つかってほっとしたような様子が見受けられた。
「では取り敢えず持って来させることにしましょう。お茶は冷めたら替えてもらえば良いのですから」
テーブルに紅茶とスイーツが並べられた。
「カサンドラ伯爵令嬢、私のことをどれだけ信用していただけるかわかりませんが貴女様の立場は以前の私と似ていると思いますの。他人の心の中ですからわかっているとは申せませんが、お力になることがあればと思っております」
「私は婚約者に浮気されている惨めな状態です。政略ですがそれなりに仲良く付き合ってきたつもりだったのです。それが一月前から婚約者の様子がおかしくなりました。よそよそしいといいますか、目を合わせてくれなくなりました」
「お好きなんですね、まだ間に合う段階ならお力になりたいと思いますが。そう言えば婚約者の方はあの女から手作りクッキーを貰っておられませんか?私の時の調書ではよくその単語が出てきておりましたので」
「近寄ると目を逸らされるのです。そのクッキーを手に入れれば良いのですか?では何とかして手に入れたいと思います。でも間に合わなくても結婚は取りやめられないのです。お相手の家格が上ですから、こちらから破棄を申し立てるわけにはいきません」
「あちらから破棄を告げて来られるかもしれませんわ。あの女はそういう女なのですもの。でもそうなったら悔しい思いをされるのはカサンドラ伯爵令嬢様ですわね。何も悪くないのに瑕疵が付くなんておかしな社会だと思っていますのよ」
ロザムンドは自分に起きたことを話すことにした。二つの家から慰謝料を貰ったことも、元婚約者は学院を辞めさせられたらしいことも、何故かあの女が図々しく未だに通えているのがわからないことも。
「そうだったのですね、でも男爵家と侯爵家では家格が違いすぎて婚姻など出来るわけがありませんのに」
「お伽噺のように魔法使いが懲らしめてくれればね」
「お名前をお呼びしてもいいでしょうか、あまりにも可愛らしいことを仰るから、お友達になっていただけたらと」
「まあ、是非お願いします。メアリー様」
「ロザムンド様宜しくお願いします。そう言えばよく当たる占いをする魔女がいるそうです。王都の中だそうですが。相手を選ぶそうなのでなかなかたどり着くことは出来ないそうなのですが」
「占いですか?良い未来が出ると良いですが。話を聞いていただいてこの腹立たしい気持ちにけじめがつけられたらいいかもしれませんわね。魔女様なら魅了の解除とかしていただけたら良いですわね。あの女怪しすぎませんこと?私の婚約を壊したのに満足せずターゲットをメアリー様の婚約者様に直ぐ変えたのですよ」
「そう言えばそうですわね、取り敢えず浮気の証拠を集めてみます。やられっぱなしでは駄目な気がしてきました」
「ではお茶を淹れ直してもらって美味しいスイーツを頂きましょう」
こうして味方を得たロザムンドは自分で紡いだ魅了という言葉に手がかりを得たような気がしていた。
誤字報告ありがとうございました。訂正しました。
メアリーと友だちになれそうです。