結婚式
ここまで読んでいただきありがとうございます。最終回です。
誤字報告をくださった皆様改めてありがとうございました。感謝しています。
アルク王国の二人が帰り宮殿は平穏に戻った。王太子とシメオンは執務室で
「第一王子の計画通りに事が進んだわけだ。頭がとてつもなく切れるのは好ましいな」
「具体的な話になったら投資をさせてください。絶対儲かりますよ。ロザムンドにお金の苦労はさせたくありませんから」
「分かった。早いものだ、後一週間になったな、侯爵家に一旦帰すのか」
「帰したくないのですが煩く言ってきますので二日ほど帰って貰おうかと思っています」
「煩くって、家族も別れを惜しみたいだろう」
「王都内ですよ、いつでも会えるでしょうに」
「その言葉、そのまま返されるぞ」
シメオンはぐっと言葉に詰まった。何しろ毎日ロザムンドを抱きしめて眠るという甘い生活を二日は我慢しなくてはいけないのだ。
王宮魔術師に転移魔法を頼もう。抱きしめて眠れないが会うだけでもいいだろう。魔石のネックレスとイヤリングもあるので危険が迫った時には効果が発揮出来る。今度は寝るときにも外さなくていいピアスにしようかと考えるシメオンだった。
「おい、話が上の空だぞ。全く当分使い物にならないな」
結婚式当日になった。ロザムンドは朝早くから侍女たちに磨かれまくっていた。
デザイナー渾身のウエディングドレスを着た頃にはクタクタだった。飲み物と軽食を摂ったが緊張なのかお腹はあまり空かなかった。
白のレースを使ったウエディングドレスを着たロザムンドは輝くばかりに美しかった。ダイヤのネックレスとイヤリング、テイアラを載せた花嫁は迎えに来た両親と姉達夫婦を一瞬で幸福で満たした。
父が「可愛いロザムンドが嫁に行ってしまう」とボロボロ泣いていた。そんな父の涙を母がハンカチで拭いていた。
「今日はハンカチを沢山用意してありますけど、お客様の前で泣かないでくださいね」
「わかったよ。ロザムンド、結婚しても私達家族は味方だ。いつでも待っているから」
「はい、お父様」
「さあ花婿の待っているところまで行こうか」
大聖堂の長い道の先に愛しい人が立っているのが見えた。王族の正装が良く似合っている。天上人の様に神々しいばかりの美貌だ。あの人が私の旦那様になるのね。幸せすぎてどうにかなるのではないかと思った。
父から引き渡されるとシメオンが
「綺麗すぎる、女神降臨か」
と呟いたのが聞こえた。大司教の前で誓いの言葉を言いキスをしたが幸せでふわふわしていて記憶が飛んでしまったような気がした。
二人でサインを終えるとシメオンは花嫁を横抱きにしてそのまま離宮に連れて帰ってしまった。
「皆様に挨拶をしないと」
といくらロザムンドが言っても聞かなかった。大聖堂に残された家族は砂糖を吐きそうなくらいの甘さに諦めムードだった。披露パーティーも最初の挨拶だけしてさっさと部屋に籠もってしまった。
「やっと思い切り愛せるよ、私のロザ。暫くは邪魔は入らないから覚悟して」
熱のこもった色気が駄々漏れの旦那様に抵抗する術も気もなかったロザムンドはシメオンの愛情を全て受け入れた。軽食やお風呂の世話はシメオンがいそいそと焼いた。あまりにも慣れた様子のシメオンにもやもやして
「慣れておられるのですね」
と言ったら
「経験はないよ、でもロザのために本は読んだ。閨教育はプロがヤッているのを見ただけだ。妬いてくれたの?嬉しい。私の全てはロザに捧げると神様に誓ったじゃないか、信じられないの?」
「信じられないわけではなかったのですが、身体が蕩けそうになるくらい気持ちが良いのでどうなのかなと」
最後の方は恥ずかしくて誤魔化したはずなのにしっかり聞かれたようだった。
「そんな可愛いことを言うロザにはお仕置きが必要だね」
三日三晩愛されたロザムンドは友人や家族、義両親に挨拶も出来なかったと拗ねたが夫が
「ごめん、あんなに綺麗なロザムンドを誰にも見せたくなかった」
と悄気たので仕方がないわねと惚れた弱みで許してしまった。
流石に両陛下には直接会ってお礼を伝えようと思ったが、来てくださった方々には手紙でお礼を伝えようと決心するロザムンドだった。
結婚式から一週間くらい経ち二人でゆっくりお茶を飲んでいるときだった。ロザムンドが
「シメオン様そう言えば以前よく当たると評判の占い師にクズの事件があった後見ていただきましたの」
自分の事だと分かったシメオンは平気な顔で聞いた。
「何を占って貰ったのかな?」
「相手に好きとかという感情は無かったのですが婚約破棄はどうしても女性に瑕疵が付きますでしょう?お姉さまたちにご迷惑をおかけしないように遠い所へ行って暮らしたほうが良いのではないかと思ってご相談しましたの。そうしましたら次に会う人が本物だからと言ってくださってシメオン様にお会いできたのです」
「良く当たる占い師で良かった」
シメオンはほくそ笑んだが勿論顔には出さなかった。
「とても感謝しておりますの。またお会いできたらお礼を申し上げたいですわ」
ソファーの隣に座っていたシメオンは疑いを知らない妻を一生守り抜くことを今一度誓い、しっかりと抱きしめた。
シメオンは外交を任されたが本当の姿は見せず地味な姿に変身してロザムンドを伴い各国に赴いた。魔道具を着けさせたロザムンドのピンチには必ず駆けつけるので夫婦の仲の良さは各国に知られることになり、いらぬちょっかいを出してくる者も減っていった。
結婚して二年目にロザムンドが懐妊した。過保護な夫は外交を国内に絞り仕事を早めに片付けて帰って来るようになった。
「シメオン、大使との食事会に出なくて宜しいのですか?」
「食事会は大臣が出ている。ロザが心配で食事なんて味がしないよ」
「嬉しいですが大丈夫なのでしょうか」
「トップ外交はここぞという時に出るほうが良いんだよ。いつも出ていてはありがたみが薄れる。それより少しは食べられたの?」
「南の方で採れる酸っぱいフルーツを頂きました」
「それだけなんだろう、もっと食べないと身体が持たないよ」
「食べたい時に少しずつ口に入れるようにします。もう暫くしたら楽になるそうなので頑張りますね」
「可愛いすぎて困るよ」
相変わらずの甘い口づけが頬から首、唇に落とされた。
お腹が大きくなってくるとバックハグになりこれはこれで良いものだとシメオンは思った。寝る時も抱きしめる事が出来る。大きなお腹が愛おしい。
そうして女の子が産まれた。シメオンに似て綺麗な顔をしていた。その二年後ロザムンドとシメオンに似た男の子の双子が産まれ、公爵家は賑やかになった。
ロザムンドはシメオンに出会えて本当に良かったと思う。賑やかだが穏やかな生活が出来ている。陰でしっかり守ってくれている夫は甘やかしてくれるのが本当に上手い。お返しに甘やかすことも忘れないようにしようと思う。
何年経っても蕩けるような顔で見てくれる旦那様なんていないと思うから。
シメオンは自分でこんなに愛の重い男だと思っていなかった。王子として淡々とした夫婦生活をするのだろうなと子供の頃から諦めていたのだから。あの時面白そうな女の子だと思ったロザムンドにここまで良い意味で執着するとは予想外だった。
愛する妻と子供たちに恵まれたのは奇跡のようなものだ。一生かけて笑顔を守りたいと彼らを見ながら思ったのだった。
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次作『私達は愛を知らない』も良ければ読んでいだだけると嬉しいです。宜しくお願いします。