夜会 1
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ロザムンドは卒業試験に無事合格した。卒業パーティーにパートナーとして出ようかとシメオン殿下が言われたけど、出席はしないとお断りした。もうすぐ夜会がありそこで婚約発表があるのだからその時まで秘密にしておくつもりだった。
やっかみや嫉妬の入った嫌がらせは覚悟はしているつもりだけど正直躱すのが面倒くさい。もう少しだけ気楽な立場でいさせて頂きたいとお願いしたら、納得して下さったのだ。
僕のロザムンドだと皆に知らしめたいと甘えた声で言われたのにはぐっと来てしまったし、整い過ぎたご尊顔で言われたら断れないが鋼の意志で我儘を通させていただいた。第二王子の婚約者になったので護衛はもっと増やすと言われ、今でも移動が大変なのだ。殿下の弱みが私らしいので婚姻まで大人しく過ごすつもりだ。公爵夫人になっても警備は変わらないらしい。
公爵夫人になったら社交も執務もがんばるつもりだ。王太子様にはお子様が二人いらっしゃる。王子様とお姫様だ。とても可愛らしい。四歳と二歳で「ロザはおじしゃまとけっこんするのか、おねえしゃまになるのだな」と尊大な態度で言われるが、可愛いしか無いのでにやにやするのを必死で我慢している。
妃殿下は公爵家の令嬢だった。幼い頃からの婚約者でとても仲が良くて憧れの御夫婦だ。是非あやかりたいとロザムンドは思っていた。姉夫婦も仲が良いのでいつも幸せな気持ちを分けて貰っている気がする。
今日はいよいよ夜会の日だ。侍女たちは朝早くからロザムンドを磨きにかかっている。湯船に入れられ身体をくまなく洗われた。髪と身体は洗われた後ふかふかのタオルで拭かれ水分を拭き取られた。朝食は紅茶に果物の盛合せ。一度には食べられないので少しずつ、お姉様もお母様も同じことをされている。
そう思うだけで力が湧いてくる。シメオン様は今頃まだお休みになっているかしら。恋しい気持ちが溢れて堪らなくなる。
今日のドレスはシメオン様から送られてきた物。靴と宝石も揃いだ。あの方の金色を纏う幸せがロザムンドに更に魔法をかける。
夕方ようやく化粧と髪を綺麗にしてもらい出かける準備が整った。
会場で二番目のお姉様にも会えるはず、あまり里帰りされないので一年ぶりくらいになる。
味方は沢山いるとロザムンドは大きく息を吸った。
階下に降りていくと両親と姉夫婦が揃っていた。母はとても三人の娘がいるように見えない。一番上の姉だと言えば通るくらいの若さだ。父は渋い紳士で母に頭が上がらない。
夫は妻がいればこそだよ、逆らうなんてとんでもないと言うのが口癖だ。貴族には珍しい人だと思う。ちなみに婿養子ではない。
シメオン様はどんな旦那様になるのだろう、ロザムンドは甘えただからうんと甘えさせて欲しいと思っている。
お姉様夫婦は先の馬車で両親と私は後の馬車で行くことになった。あまりに久しぶりで会話がない。
「悪い意味ではなくて、ロザムンドがシメオン殿下に見初められるなんて思っていなかったわ。前のクズで傷ついていたから暫くは普通の暮らしをゆっくり楽しめばいいと思っていたのよ」
と母が話し始めた。
「わたくしもまさか自分がと思っておりました。今でも夢のようです」
「殿下の婚約者は茨の道かもしれないけれど、公爵様に降下してくださってロザムンドを守ろうとしてくださるのだから、貴女もしっかりと付いていきなさいね」
「はい、お母様お父様」
「私達の末っ子がいつの間にかこんなに綺麗になって立っているなんて感慨深いわね」
「殿下のお側に立っても恥ずかしくないように頑張ります」
「無理はしなくていいの、貴女の幸せが一番だから。嫌になったら帰ってらっしゃい、私たちが守るわ」
少しだけ湿っぽくなった空気を笑顔で誤魔化した。そうしている内に宮殿に着いた。道路では長い貴族の馬車の列が続いていたが、婚約者特権で王族専用の道を使い宮殿の中のヒギンズ侯爵家の控室に案内された。先に着いていたお姉様がソファーに腰掛けて待っていた。義兄様はちょっとだけ殿下のところへ行くと言って出ていったらしい。
侍女がお茶を運んできてくれた。いい香りがする。スイーツも沢山用意されていた。
「ロザムンド、ここでは何も口にしないで。何があるのかわからないから。会場でも口をつけるふりだけするのよ。たとえ殿下に渡されたものだとしても」
「そんな事をして大事になるのではないですか?」
「誰が何を企んでいるのかわからない世界よ。用心は大切なの」
「わかりましたわ、お姉様」
「決して一人にはさせないわ、いいこと?隙があっては駄目なの。どこかに行くときには私たち家族三人と行動することを忘れないで。殿下はどうしても外国の方との対応とかで離れないといけない時があるかもしれないでしょう」
「わかりましたわ、よろしくお願いします」
社交界の戦いが始まりました。誤字報告有難うございました。訂正しました。