婚約者の浮気
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ロザムンドはその光景を見て固まってしまった。婚約者のパルシュが見知らぬ女性を抱き口付けをしていたのだから。
季節は春、降り注ぐ陽射しが柔らかく新緑の葉が木陰を作りチューリップ、薔薇、パンジーが咲き誇っている公園でまさかそんなものを見るとは思わずロザムンドは吐き気を催していた。日頃の勉強の癒しも兼ねて休日の気分転換になればと散歩に来ていたのがまさか悪い方に出るとは思っていなかった。
具合の悪そうなロザムンドを急いで護衛騎士が抱き上げ近くの救護所に運びこんだ。綺麗な化粧室で侍女が背中を擦った。
定期的に行っているパルシュとのお茶会や街歩きも今日はない。侍女と護衛を一人ずつ連れてただ何時もと違うことがしたくて公園に出かけていただけだというのに、何を見せられたのか。彼らはきっと行為に夢中で周りは見えていないだろう。
一瞬でロザムンドの気持ちは冷めた。元々婚約は政略だ。それも利害関係はない親同士が仲が良いというだけのものだ。パルシュは普通の男だった。見た目が特に良いわけではない、酷いわけでもない。剣術も勉強も普通。性格はおとなしく紳士的だった。屋敷に来る時は花やお菓子を持ってきてくれていたのでまさか浮気をしているなんて考えてもいなかった。
「お嬢様帰りましょう」侍女の言葉でようやく身体が動き出した。帰りの馬車の中で何も言わずにいてくれたことがありがたかった。これからどう動くか考えなくてはいけない。証拠はもっと必要になるのかしら。どうやって集めればいいの?
ロザムンドは自分では平凡だと思っているが整った顔立ちをしていた。サラサラストレートの金髪、黒い瞳も大きい、縁取る睫毛も長く手足も長く胸もそこそこ育っていた。
こんなに可愛らしいお嬢様を裏切ってクズがと侍女と護衛は怒りで震えていた。
ロザムンドは侯爵家の末っ子だった。姉が二人共美人すぎるのだ。理知的な美人の長女は婿を取って家を継いでいる。妖艶な下の姉は伯爵家に嫁いで旦那様を骨抜きにしている。
ロザムンドは姉に相談してみる事にした。
「ミミ、お姉様にお会いしたいのでお時間を調整していただけるようにお願いしてくれるかしら」
「クズのことをご相談されるのですね、畏まりました」
「それとお茶をお願い、精神的にとても疲れたわ」
「せっかくの気分転換でしたのに」
怒りの冷めやらない侍女が仕事をするために出て行った。
貴族で政略結婚とはいえ結婚前から愛人のいる者とはやっていけない。両親は仕事で忙しく家に帰ってくることがなかなか出来なかった。ロザムンドを育ててくれたのは乳母や姉たちと屋敷の使用人だった。だからこそ平凡な普通の家庭を夢に見ていた。パルシュは伯爵家の次男だったのでロザムンドの家が持っている子爵位を貰って敷地の中に屋敷を建てて貰い穏やかな生活を送るつもりだった。
夢と散ってしまったが。
持ってきてもらった紅茶を飲むと姉の時間が空いたというので執務室に会いに行った。姉の側には第二王子の側近で忙しいはずの義兄が座っていた。
理知的な姉と穏やかな義兄はお似合いで今更ながら羨ましくなった。
考えるのは止めようと手のひらを握りしめた。
「僕は外したほうが良いかな?」
「お義兄様もいてくださいませ、私の婚約者の話なので」
「先ほど公園に行ったときのことかしら、クズだったのね、心配しなくてもあちらの有責で破棄してあげる。ロザムンドはそれでいいの?後悔はない?」
「ありません、結婚前にわかって良かったと思っております。元々愛情は感じておりませんでしたし」
「慰謝料はたっぷりもぎ取ってきてあげるわ」
「具体的な証拠がもっとあったほうが良いですわよね。どうしたらいいのでしょうか?」
「僕の知り合いに頼むよ、そういうのが得意なやつがいるんだ。まあ任せておいて」
「ありがとうございます」
取り敢えず考えなくて良くなりロザムンドはほっとした。
「暫くゆっくりなさい」
今までは結婚して別邸を敷地内に建てて貰い、子爵位を賜って暮らすつもりだった。このまま姉たちの厄介になっていて良いのだろうか。慰謝料を貰ったら遠くに引っ越して慎ましく暮らすのも良いかも知れない。当たり前だが何もしてこなかったのでメイドと護衛はいた方が安心だけど。ロザムンドの頭の中はぐるぐると色々なことを考え始めた。こんな時に考えるのは良い方向に行くことがないと分かっているが次に進むことが出来ない。
あれと縁を切ってからの楽しいことを考えようと努力をしてみることにしたが、公園の光景が思い出されて気持ちが悪くなってくるだけだった。
侍女を呼んでお医者様に眠れる薬を出して貰いようやく眠れたのは朝方近くだった。
元サヤはありませんので安心してください。
誤字報告を有難うございます。感謝、感謝です。