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隣のアリスちゃん  作者: sazamisoV2
第一章
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第五十五話 ぼっちと友達⑧

 万が一戻ってきたときのために奈々衣を陣地に残し、グラウンドを探すという牧村と別れて俺は校舎に向かった。


 ほとんどの生徒はグラウンドに出ているため、校舎内はしんと静まり返っている。


 ひとまずめぼしい場所を探そうと思い、教室、保健室、屋上を見て回ったが、アリスの姿は見当たらなかった。


 売店を抜け、学食の前を通り、旧校舎に向かおうとしたところで、向かいから誰かが走ってくるのが見えた。


「……織羽志」


 俺の姿を認めて立ち止まった眞城は、肩で息をしながらも鋭い視線で睨みつけてくる。


 厳しい言葉を向けられると思って身構えるが、眞城はただ深く息を吐いただけだった。


「旧校舎にはいない。心当たりは全部見て回ったけど、見つからなかった」


 見ると、眞城の膝のあたりから血が流れていた。額には汗が滲み呼吸も荒い。それだけ必死になってアリスを探していたということだろう。


 それを隠すように横を向いて、眞城は言う。


「あんたがここに来たってことは、そう言うことでいいのよね」


 相変わらず主語のない言葉だ。

 だが、何を言いたいのかは言われなくてもわかった。


「俺が、アリスのことを考えているようで考えてなかった、クズ野郎だってことがわかった」


「今更?」


「うるせぇ」


 ぶっきらぼうに答えると、眞城はうっすらと口角を上げて、言葉を紡ぐ。


「アタシはあんたが羨ましかった。アタシが欲しいものを持ってるくせに、手放そうとしてるあんたをずっとぶん殴ってやりたいって思ってた。でも、ちゃんとあいつのことを考えてたんだって、さっきの話を聞いてわかった。ムカつくけど、國乃があんたのことを一番信頼してるのも当然だって、思い知らされた」


 そう言って、眞城は絞り出すように声を出した。


「アタシじゃきっと見つけられない。あんたじゃなきゃ駄目なのよ。だから、あいつを……アリスを、見つけてやって」


―――――


 これだけ探して見つからないということは、おそらくアリスしか知らないような場所に隠れているのだろう。


 探し始めてからそれなりに時間が経っている。今頃はグラウンドも休憩時間に入っている頃だ。

 休憩が終わればすぐにクラス対抗リレーが始まる。

 闇雲に探している時間はもうない。


 となれば、残された手段は一つしかなかった。


 眞城が放送部員を適当な理由を付けて誘い出し、その隙に放送室に忍び込む。


 放送機材に触るのはいたずらで使った小学校の時以来だが、ボタンの脇にわかりやすく説明書きがあったので動かすことくらいはできそうだった。


 校内、グラウンドと書かれた場所にあるボリュームを最大まで上げ、放送開始のスイッチを押す。

 とんとんとマイクを手で叩いてみると、外から遅れて音が聞こえてきた。


 心臓がばくばくと脈打っているのがわかる。

 こんな馬鹿みたいなことを高校生になってまでするなんて思ってもみなかった。

 どうせ後から思い出して恥ずかしくなって死にたくなるに決まってるのに。


 本当に、一体何をやっているんだろうと心の底から思う。


 でも、ここで何もしなかったら俺はきっと後悔する。


 あの時やっていればとか、なんであの時やらなかったんだろうとか、そんなどうにもならない後悔をするのだけはもう嫌だった。


 気持ちを落ち着かせて、覚悟を決める。


 眞城が抑えてくれるとは言え、気付いた放送部員はすぐに飛んでくるだろう。


 悠長に喋っている暇はない。考えている時間もない。


 もうどうにでもなれと思いながらボタンを押すと、俺はマイクに声を乗せた。


『おい!聞いてるかクソボッチ!一度しか言わないからよく聞けよ!俺は、屋上でお前に友達になってほしいって言われたとき、本当は凄く、嬉しかったんだ!はぐらかしたのは、お前にそう言われて喜んでる自分が恥ずかしかったからだ!さっきのお前の質問に答えてやる!友達になりたいって思うことはおかしくなんかない!友達になりたいって思って駄目なわけがない!俺だって……俺だって、お前と一緒にいる時間は楽しかったんだから!わかったら隠れてないでさっさと出てこい!いいな!』


 言い終えた俺は、ぶつりと放送を切って部屋から逃げるように飛び出した。


 心臓が痛いほどに暴れているのがわかる。

 体全体が心臓の脈動と一緒に跳ねているようだった。


 悪戯を成功させたときのような高揚感と、やっちまったという後悔が交互に押し寄せてきて頭は完全にパニックだった。

 顔は青ざめているのか赤くなっているのか自分でもわからない。

 冷や汗で背中は大変なことになっていた。


 人に見られないよう旧校舎を経由してグラウンドに戻ると、当然のように辺りは騒然としていた。

 面白おかしく騒ぎ立てる生徒達に、困惑する教師達。

 何人かが校舎の中に急いで入って行くのも見えた。


 深呼吸をして気を落ち着け、この騒動を作り出したのが自分であることを再認識すると、さっきまで感じていた高揚感はどこへやら、残っていたのは激しい後悔だけだった。


 今の気持ちを一言で表すなら、そう、『死にたい』だ。

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