第五十二話 ぼっちと友達⑦
眞城はアリスと友達になることをずっと望んできた。
仲良くなるためにはどうすればいいか、どうしたら悪い噂を払拭できるのか、アリスを見直させるために何ができるのか……そんなことばかり考えていたのを知っている。
その想いがどれほど切実なものなのかなんて、今更口にするまでもない。
そんな、アリスと友達になりたいと本気で思っている眞城だからこそ、俺の中途半端な態度が気に入らないのだろう。
「國乃があんたと友達になりたいって思ってること、わかってんでしょ?どうして応えてやんないの?」
さっきと同じ質問を眞城がしてくる。
きっと答えるまで同じことを聞いてくるのだろう。
そう思った。
「……俺は、友達にいい思い出がないんだよ」
「だから、國乃とも友達にならないって?」
「そうだ」
「嘘。だったらなおさら友達作りなんて手伝うわけない」
「困ってる奴を助けようとするのは別におかしいことじゃないだろ」
「それも嘘。あんたはそんないい奴じゃないでしょ」
何を言っても否定してくる眞城。
下手な言い訳は意味がない。適当なことを言ってもきっと眞城は納得しない。納得する答えが返ってくるまで追及をやめない。
嘘をつくことが馬鹿らしいと思えてしまうほど、眞城ましろはどこまでも真っ直ぐだった。
この真っ直ぐさが、眞城がみんなに慕われる理由の一つなのだろう。
深呼吸を一つして、少しの間を置いてから口を開く。
「俺には友達がいない。そんな俺と一緒にいたところで、アリスの夢は叶えられない。実際俺と関わってからあいつにできた友達は一人だけだ。それも、俺の妹だけ。それが何よりの証拠だろ」
「國乃がそう言ったわけ?あんたと一緒にいたら夢が叶えられないって。だから一緒にいたくないって」
「お前ならわかるだろ。ちょっとしたきっかけさえあれば、アリスが望むまでもなく友達なんて向こうからやってくるんだよ。でも、俺と一緒じゃそのちょっとしたきっかけさえ掴み損ねるんだ」
誰よりもアリスと友達になりたいと思っている眞城だから、アリスの良さも、魅力も、言うまでもなくわかっている。
アリスの『特別さ』をわかっているはずだ。
「じゃあ、なんで助けたのよ」
「お前がそれを言うのか?」
「…………」
俺の言葉に眞城が押し黙る。
言い過ぎたかもしれないと思っても、出て行ってしまった言葉を取り消すことはできない。
少しだけ間を挟んでから、俺は続けた。
「今のままじゃとても千人になんて届かない。でも、お前と一緒ならそれに近づくことができる。まともに話せるくらいになった今ならなおさらだ」
アリスが本気で夢を叶えたいというのなら、友達のいない俺なんかと一緒にいるべきではない。
それこそ、友達の多い眞城と一緒にいるべきだ。
そして、それは今のアリスにならもうできないことではない。
「……アタシは、それがあんたの本心だとは思えない」
眞城の言葉は聞き流して、問いかける。
「アリスはお前に謝ってきたのか?」
夢の話をするくらい眞城を信頼できると思った今なら、謝ることなんて造作もないことだろう。
眞城は黙ったまま。
だが、それが答えのようなものだった。
それを見て、肩の荷が下りたような気持ちになる。
あれだけ苦労したっていうのに、終わるときは意外とあっさり終わるものだ。
「じゃあ俺があいつの手助けをする必要はもうないんだな」
「なんでそうなるわけ?それとこれとは話が違うでしょ」
「元々アリスの手助けをするのはお前と仲直りするまでって言う約束だったんだ。それが終わったのなら、もう俺が手助けする必要はない。お前だってずっと俺のことを邪魔だって思ってたんだろ?」
「あんたねぇ!」
怒りの形相を見せる眞城を無視して、俺ははっきりと言った。
「お前が何と言おうと、俺はアリスの友達にはならない。そう決めてるんだ」
その時、背後からじゃり、と砂を踏む音が聞こえてきた。
振り返ると、俺達から少し離れたところにアリスがぽつんと立っている。
金色の髪を風に遊ばせながら、それを抑えようともせず、ただじっと泣きそうな顔をしながら俺を見つめていた。




